マイケル・アマーの"Easy to Master Card Miracies Vol.2"とダローの"Encyclopedia of Card Sleights Vol.7"のDVDには、それぞれ「Dr.ジェイコブ・デイリーのラスト・トリック」が解説されています。ところで、この二つは同じタイトルの作品であるにもかかわらず、使用している方法が違っています。それだけではありません。この二つの方法は、本来のDr.デイリーの方法とかなり違っています。 |
各報告に入ります前に、現象について確認しておきたいと思います。発表されています作品により少し違いがありますので、共通した現象の部分のみ記載しておきます。例として、黒エースを示し、それを裏向けてテーブルへ配る場合とします。4枚のエースを示した後、裏向けます。1枚目の黒エースを示し、それを裏向けてテーブルへ配ります。もう1枚の黒エースも示した後、裏向けてテーブルへ配ります。手元に残った2枚の赤エースと、テーブル上の2枚の黒エースが入れ替わってしまいます。 |
私が調べた範囲では、最初に文献上に登場するのは、1948年のターベル・コース第5巻においてです。ミルボーン・クリストファーの「レッド・アンド・ブラック・エーセス」のタイトルがつけられています。1枚目はトップでのダブル・リフトで、2枚目はボトムでのグライドが使用されています。1952年
には、ビル・サイモンによる"Rapid Transit"が発表されています。1枚目はボトムのエースを、一般的なグライドではなく、バックルによる方法が用いられます。2枚目は、バックルを使ってトップのエースをダブル・リフトしています。1953年には、マルローの「カーディシャン」に「ノー・グライド・エーセス」が発表されます。三つの方法が解説されていますが、いずれの方法もグライドを使用しないかわりに、トリプル・リフトやダブル・リフトが使われています。この後、Dr.デイリーの方法が、1956年の「ザ・ダイ・バーノン・ブック・オブ・マジック」に登場することになります。 |
このマジックはシンプルであるにもかかわらず、意外性があって、インパクトが強烈です。ところが、Dr.デイリー以前の上記3人の方法をみますと、意外性もインパクトも少し弱く感じてしまいます。この3人の方法には共通点があります。2枚のエースがテーブルへ配られた後、単に手元に残った2枚を表向け、その後、テーブルの2枚を表向けています。あっさりと、そっけなく終わっています。ところが、Dr.デイリーの方法には、ちょっとしたことですが、重要な違いがあります。後で配ったスペードのエースの位置を尋ねています。そして、テーブルのカードから先に表向けています。このように、テーブルのカードの位置に意識を集中させたことと、それらのカードが予想外の結果となるために、インパクトも大きくなっているものと思われます。 |
このマジックには、こだわりを持っている人が結構多いようです。そのいくつかのこだわりを、うまく解決しているのもDr.デイリーの方法であるわけです。マルローの「ノー・グライド・エーセス」は、この現象のマジックに、グライドを使用しないといったこだわりを持った作品といえます。マニアとして、グラ
イドの使用をさけたい気持ちは分かります。私も使わない方法を選んでしまいます。そして、Dr.デイリーの方法においても、グライドは使用されていません。 |
Dr.デイリーの技術面で、もう一つのすばらしい点があります。3枚になった段階で、ボトムからのダブル・リフトを使用していることです。ボトムの2枚を、外エンドより縦方向にひっくり返してトップに表向けています。これを行うために、左親指により、トップ・カードを右方向へ少し押し出し、その下のカードの右外コーナーを右指で持って行っています。その後の発展系として、マーティン・ナッシュが4枚持っている状態でも行える方法を発表されました。 |
今回取り上げましたこのマジックは、最近まで、それを代表するタイトルがありませんでした。いくつもの作品が発表されていますが、似たタイトルはあっても、同じものがなかったという状況です。ところが、最近になって、「Dr.デイリーのラスト・トリック」の名前が、このようなマジックを代表するタイトルになってきているといってもよさそうです。 |
私が日本でよく見かけます方法と、海外の文献やDVDでの方法とでは、かなりの違いがあることが分かりました。 |
今回の「Dr.デイリーのラスト・トリック」の調査により、時代による変化と、日本と海外との違いが、はっきり分かってきました。残念なことは、分からないままで残してしまった部分が生じたことです。しかし、それは今後も継続して調べたいと思っています。 |