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コラム



第35回 カードワープ以前とその後の改案作品(2008.2.22up)

はじめに

カードを使用したトポロジカルなマジックといえば、最初に思いうかぶのがカードワープです。これはイギリスのロイ・ウォルトンの代表作の一つです。今回、調べたいことがあり、最初のロイ・ウォルトンの方法を探して読み直しました。また、この機会に、カードワープ全体についても調べることにしました。

その結果、びっくりすることが分かりました。厚川昌男氏の作品「スリー・クォーター・カード」(1970年)が発表されていなければ、カードワープが誕生していなかったかもしれないことです。カードワープの現象の原理の元となるのは、アメリカのジェフ・バズビー "Jeff Busby"の作品ですが、これは厚川氏の作品があったからこそ生まれたことが分かりました。

この驚きの発見以外に、私にとってのいくつもの新発見がありました。まず、最近、一般的に演じられています方法と、本来のロイ・ウォルトンの方法とでは、いくつかの点で違いがあることが分かりました。また、お札とカードを使用した改案作品については、お札を使うことの有利な点も分かりました。これら以外に、演技の途中でスリット(切れ目)を入れるための工夫や、途中でのカードのあらための工夫、そして、新たなクライマックスの追加や、特別な演出の追加等、いろいろ発表されていることが分かりました。今回、これらのことを可能な限り報告させて頂きます。

カードワープについて

2枚のカードを使いますが、一方は縦に半分に折り曲げ、他方は横に半分に折り曲げます。細長くなった方を他方の間に挟み、一端が突き出た状態にします。この端を押し込みますと、他端から裏表がひっくり返って押し出されてきます。この現象を繰り返した後、クライマックスとして、このカードを半分に破ると、半分は表向きで、他方は裏向きの半分に分かれます。

カードワープは、これ一作品の解説書だけの単品商品として販売されました。4ページの解説書で19の図が描かれています。イギリスのマジック誌「アブ ラカダブラ」によりますと、1973年9月に開催されたイギリスでのI.B.M大会で、200のカードワープを商品として販売したところ、1日で完売したそうです。アメリカにおいては、1973年段階では販売広告が見られません。1974年6月号のリンキングリング誌の新製品紹介コーナーで「カードワープ」が取り上げられていました。アメリカでの価格は2ドルです。この後、数年の間で世界中に広く知れわたり、最もポピュラーなマジックとなりました。

なお、日本においては、割合早い時期にカードワープを演じて話題を呼んだ人物の一人として、ロジャー・クラブトリー(1974年 I.B.M.大会クロースアップ・マジック1位受賞者)があげられるとの情報を得ました。1975年に来日され、いくつもの最新のマジックを実演された中に、ジャンボカードを使ったカードワープも含まれていたそうです。

Genii誌の2001年1月号は、20世紀のマジックの総まとめ的な内容の記事となっています。20世紀には、クロースアップとパーラーマジックの分野で多数の商品が開発され販売されましたが、その中でも特に代表的な15の商品名が紹介されていました。その中の一つとして、カードワープがあげられていたのです。解説書だけの商品ですが、観客に与えるインパクトが大きく、多くのマジシャンの間でポピュラーとなり、大きな影響力のあった商品となったからだといえます。他に、スベンガリー・デックやワイルド・カードもあげられていました。また、2007年12月のGenii Forumでは、「一つだけカードマジックを演じるとすれば何になりますか」との問いかけに対して、最初に名のりを上げた投稿者が、「カードワープ」と書いていたのが印象的でした。

カードワープの元となったバズビーの作品について

1973年1月にジェフ・バズビー(Jeff Busby)は "Into the Fourth Dimension and Beyond" を発表しました。18ページで60の写真を使った解説書になっており、価格は5ドルです。この作品の前半部分がカードワープの元になる現象です。

カードワープとの大きな違いは、1枚のカードだけで行っている点です。1枚のカードを示して、裏が外側になるように縦長に半分に折り、左手に持って、1/3が上方に突き出した状態にしています。このカードを下方へ突き出すと、表向いて現れます。そして、この現象が繰り返されます。後半の現象は、このカードを破って4分割し、1/4の1枚を客に持たせ、残りの3枚をハンカチに包みます。後でハンカチを開くと、3枚がくっついて、1枚のカードの3/4に復元した状態になります。客が持っている1/4を合わせると、ピッタリ一致します。

これが紹介されて1年もたたない内に、イギリスのロイ・ウォルトンによりカードワープが発表されることになります。カードワープの解説書には、バズビーの作品が元になっていることが明記されています。その後、いくつもの改案作品が発表されますが、ロイ・ウォルトンの名前だけでなく、バズビーの名前もいっしょにクレジットしていたのは約半数でした。日本でカードワープを演じられている方の多くは、ロイ・ウォルトンの作品であることをご存知だと思いますが、バズビーの作品が元になっていることを知っている方は、まだまだ少ないのではないかと思います。

バズビーに影響を与えた厚川昌男氏の作品

1970年12月に厚川昌男氏の作品が第2回石田天海賞受賞記念作品集として発行されました。この中の各作品が、日本語だけでなく英語でも解説されていました。せっかくの厚川氏の創作作品を、日本だけでなく広く海外にも紹介するためで、本の表紙のタイトルも "Masao Atsukawa's Creative Works in Magic"と記載され、実際に海外へ送られていました。この中の作品「スリー・クォーター・カード」に影響を受けて、アメリカ西海岸でカードワープの元となるジェフ・バズビーの作品が誕生しました。

厚川昌男氏の「スリー・クォータ・カード」は、バズビーやウォルトンのような表と裏が入れ替わる現象ではありません。2枚のダイヤのAと1枚の絵札を使って、絵札の位置が入れかわる現象で、第3段まであります。クライマックスの3段目では、中央へ十字状に入れた絵札が下へ貫通してテーブルへ落下します。余分なカードを使ったり、テクニックは使っていません。カードの一部分に欠損部を作り、それをうまく利用して、位置を入れ替えています。イラストを多数使って解説されており、これを見ているだけで理解出来るだけでなく、発想の面白さに魅了されてしまいます。

バズビーはこの作品を気に入っただけでなく、もっとオープンにカードのあらためが可能な方法を考えました。欠損部分を手やカードで隠す必要がない方法です。そして考えついたのが、スリット(切れ目)を入れることです。これであれば、その部分を指でカバーするだけで、カード全体を見せることが出来ます。現象を起こすときは、スリットがあることにより、一部分を折り曲げ、原案と同様の欠損状態が作れます。バズビーは、このスリットが入ったカードでいろいろ考えている時に、折り曲げる操作を一歩発展させたカードワープの原型となる現象を考えつきました。

また、この時同時に、折り曲げることはせずに、スリット・カードをそのまま利用した位置の入れ替わり現象も考えついたようです。ただし、後者のスリットを利用した位置の入れ替わりの方は、1949年のマジック誌「フェニックス」193号にJ.C.Whyleyが、既に発表していたことが分かったと報告しています。

このような当時のことが報告されていたのは、1984年のバズビー発行による "Epoptica No.6"においてです。この本では、厚川氏の天海賞記念の本を手に入れたのが1970年となっています。そして、すぐにカードワープの原型となる現象だけでなく、スリットを利用した2枚の位置が入れかわる原理もいくつか考えつき、3枚や4枚を使う作品として作り上げました。これらを、1970年から1972年にかけて、サンフランシスコを中心に多くのマジシャンに見せ回ったとされています。

彼の現象に興味を持ったKen Bealが、バズビーの名前を入れていくつかの手順を文章化し、"Mind Warp"として発表したそうです。これは一部のマニアの間だけに広まりましたが、入手困難な資料です。これの年数が、1970年と記載されているようです。バズビーは1954年2月生まれですから、16~17才頃のことになります。 "Into the Fourth Dimension and Beyond" は1972年11月に書き上げ、1973年1月に発行し、1973年の PCAM 大会や1974年の各大会でディーラーとして実演を繰り返したと報告されています。

ところで、上記の中で疑問を感じる記載があります。厚川昌男氏の天海賞記念の本は1970年12月発行となっています。そうであるにもかかわらず、この本をアメリカで1970年度中に手に入れて、新しい発想を考案し、見せ回ったものを文章化し、そして、発行するのは困難ではないかと思ってしまいました。それとも、そのようなことを12月中の短期間に成し遂げたのでしょうか。1970年は、それらの発想を考えついた年数であれば、なんとか納得出来ます。

最近の方法と本来の方法との違い

結論から報告しますと、最近の方法では、途中のあらためが省略されており、また、クライマックスのカードの破り方や見せ方が違っています。ロイ・ウォルトンの本来の方法では、3回の裏表の反転現象が演じられており、3回目がクライマックスとして、客の手の中で変化させています。まず、1回目の変化の後,2枚を重ねたまま開いて裏表をあらためています。2回目の後は,2枚を折り曲げた状態で分離させてあらためを行っています。3回目のクライマックスの現象は、客にカードを持たせ、押し込む操作はしないで、一端から突き出した裏向きカードの部分を、演者が破り取っています。この後、客が持っているカードを開くと、残りの半分が、すでに表向きに変化しているといったクライマックスです。このロイ・ウォルトンの本来の方法の詳細は、1987年発行の高木重朗、麦谷真理編集「カードマジック入門事典」に解説されていますので、そちらを参照して下さい。

これに対して、最近よく見かける方法は、各現象の間のカードのあらためが省略されており、押し出されて裏表を変化させた後、また、反対方向に押し戻して、元の状態に変化させています。そして、クライマックスにおいては、カバーしたカードの中央から2枚をいっしょに破いて分割し、それぞれの内側の縦長カードは、表向きと裏向きに分けられているといった現象です。本来の方法に比べ、かなりシンプルになっています。これは、1989年のユージン・バーガーのジャンボカードを使った方法で本に解説されており、また、マイケル・アマーの1994年のビデオでも、普通サイズのカードを使った同様の方法を観ることが出来ます。これらが、今日の方法に大きな影響を与えているものと思われます。特にマイケル・アマーのビデオでは「カードワープ」(ロイ・ウォルトン)のタイトルで解説されており、影響が大きかったと考えられます。

ところで、上記の内容で気になる点があります。最近のクライマックスとして定着していますカバーしたカードの中央で破る方法は、誰がいつ頃から行っていたかです。文献上で登場するのは、上記の1989年のユージン・バーガーの本 "The Experience of Magic" が最初と思われますが、彼の考案かどうかは分かりません。インターネットのGenii Forumでは、2006年にカードワープについて取り上げられていますが、その中で、このことにも触れられており、今のところは分からない状況です。ディングルがかなり昔のテレビ番組でカードワープを演じていた時に、中央で破っていたと書き込みがありました。しかし、何年の放送かが分かっていません。また、思い違いをしている可能性もあります。なお、1987年にマイケル・ウェーバーが来日した時、カードワープを演じています。彼の方法でも、最後の段階でカバーしたカードの中央を破っていますが、開いている側の両エンド端より破り始め、切り離す手前で止めています。これにより、面白いクライマックスを見せてくれました。1987年のマジックランド発行による彼のレクチャーノートに解説されています。

お札とカードで演じる作品

カードワープが発表されて以降、大きな改案作品といえば、お札とカードを使った方法です。私は2枚のカードを使う方法だけで十分と思っており、お札にかえる必要性はないと感じていました。演出上のためか、身近な物を使って効果を盛り上げるためか、あるいは、単に目先の印象を変えたかったのかといった程度にしか考えていませんでした。確かに、客からお札を借りて演じれば効果的なのかもしれません。しかし、お札をカードに巻き付けるより、折ったカードに挟む方がシンプルで私は好きです。結局は、好みの問題程度にしか考えていませんでした。ところが、今回、お札とカードの作品も全て目を通したことにより、お札を使うのは、現象面においての有利な点があることが分かりました。

お札とカードの作品を最初に考案したのは、ボブ・マカリスター(Bob McAllister)です。しかし、最初に文献上に登場するのは、Howard Schwarzmanの改案の方が先です。1980年の「アポカリプス Vol.3 No.7」に「スター・ワープ」のタイトル名で発表されました。ロイ・ウォルトンとボブ・マカリスターの名前も紹介した上で解説されていました。面白そうなのですが、解説が長く、イラストも分かりにくかった点が、さらに、私に悪い印象を与えたのかもしれません。

マカリスターの原案が解説されたのは、リチャード・カウフマンのマジック誌"Richard's Almanac"の1983年9月号です。「グリーン・ワープ」の名前で発表されており、イラストだけでも理解出来るように解説されています。解説文を書いたカウフマンは、その冒頭で、お札とカードを使う方法の原案者より改案を先に発表したり、複雑な内容にいじくられた作品が出回っている苦言を書いていました。

マカリスターのすばらしい点は、カードの一端を押し込んで変化させる前に、お札をめくって内側を見せていることです。縦長に折られたカードの片面全てを見せることになります。見せられない部分は、お札によりうまく隠れていました。これはカードとカードの場合には出来ないことです。この後、カードを押し込むと、裏表が反転するのでビジュアルです。Schwarzmanの方法でも、3段目でこのあらためが使われていました。しかし、手順が長く感じられます。現象が起こるたびに、お札とカードを広げてあらためを行っているからです。お札でカードを巻き付けたり、広げるハンドリングが、彼の方法の改案点ともいえます。そのために、解説が複雑になるのはしかたがないのかもしれません。

マジック・ランドから発行されています「ジョン・ジャック・サンベアー・レクチュア・ノート」には、サンベアーの方法が解説されています。その中には、それの元になるSchwarzmanの方法を、本人から教わったと書かれていましたが、これ1作品のために2時間かけたことが報告されています。

1995年にマイケル・アマーが、マネー・マジックのビデオの中で、Schwarzmanの「スター・ワープ」を解説しています。映像で見ますと、彼の方法がすばやく理解出来ただけでなく、改良点の良さも分かりました アポカリプスには、その後、Schwarzmanの方法を、もっと簡略化した作品が発表されることになります。1985年のジェイ・マーシャルの方法と、1993年のボブ・コーラーの方法です。しかし、これらの作品よりも面白いと思った改案は、ブルース・サーボンの「ワープ・2」の作品です。1990年の「ウルトラ・サーボン」の本に解説されています。マカリスターのあらためを、最大限に生かして利用しているところが気に入りました。途中で何回かこのあらためが使われていますが、特に面白いのが、最後での使い方です。カードを包んだ状態のお札を客に持たせ、客の手の中で現象が起こります。お札をめくってカードの裏面を見せて、客にカードを引き抜かせると表向きに変わっています。演者には、何も出来ない状況のように見せているところが優れています。

カードとカードの場合のあらための工夫

カードでもマカリスターのように出来ないものかと工夫されたのがジム・スエインです。1999年の「21世紀カードマジック」の本で発表しています。これを行うためには、Beeのカードが必要となります。2枚を重ねてT字状にして、裏面が重なって見えている状態にします。Beeの裏模様により、カードの欠損部分が目立たないようになっています。さらに、それぞれの親指を裏面の中央部付近に置くことにより、クリアーにカードの裏面が見える状態を避けています。

Torkovaの方法では、現象を見せた後、カバーした方のカードを開いて、内側の縦長カードが全面とも同じ向きになっていることを示すことが出来ます。前記のように、現象を起こす直前には使えません。Torkovaはカバーしているカードを、180度方向転換させながらカードを開いて、それと同時に、内側の縦長カードをあらためが可能な状態に戻しています。これはタネンの"Magic Manuscript" Vol.8 No.1 に解説されています。

スコッティー・ヨークは現象を示した後、2枚のカードを折り曲げたカードのまま、すばやく分離して、しかも、あらため可能な状態に戻しています。これは、1994年のスコッティー・ヨークのビデオVol.2に解説されています。

スリットを演技の途中で入れる方法

そもそも、今回、カードワープについて調べるきっかけとなったのが、このことに関係しています。私が所属していますRRMCの例会で、メンバーの一人より、演技の途中でスリットを作るようになったのは、いつからであるのかといった質問を受けました。ロイ・ウォルトンがカードワープを発表した最初より、そのように解説されていたのかを知りたかったようです。スリットを途中で作るようなことはしていなかったはずだとは答えたものの、原文でも確認してみると言ってしまいました。

カードワープは数枚の解説書だけの商品で、持っているはずだとは思いつつも、所在が分かりませんでした。ロイ・ウォルトンの原案は、英語の文献では他に解説されていなかったはずです。ロイ・ウォルトンのこれまでの作品を集めた2巻の本にも、やはり解説されていませんでした。しかたがないので、とりあえず、カードワープの文献をいろいろ調べ始めたのが、今回の報告のきっかけとなりました。おかげで、興味深い発見がたくさんあり、楽しませてもらえました。

もちろん、その後、ロイ・ウォルトンの原文が見つかりましたが、それが「カードマジック入門事典」に解説された通りだったので、少しガックリしました。なお、原文では、やはり、演技前からスリットを作っていました。

さて、スリットを途中で作る方法ですが、これに関しては3人が発表していることが分かりました。文献上で最初に登場するのはボブ・マカリスターの方法です。1983年のお札を使った方法の解説の最後に、別法として紹介されていました。絵札を使って、カードの厚みの2/3を、絵札の表側から切れ込みを入れる方法です。これにより、演技の途中で、簡単にスリットを作ることが出来ます。このカードをフォースして行うことになります。

1988年には、トム・オグゼンが名刺を使って演じる方法を発表しています。アメリカの名刺は日本と違って、ペラペラの薄い名刺がよく使われています。この名刺であれば、簡単に破ることも出来るため、演技の途中でスリットを作っています。これは、タネンの"Magic Manuscript" Vol.9 No.5に解説されています。

そして、最もすばらしい方法が、スコッティー・ヨークがビデオで演じている方法です。1枚のカードを客に渡して、半分に折り曲げさせている間に、演者のカードは縦長に半分に折りつつスリットを作っています。頭が良いのは、まず最初に、客にカードの折り方を教えるために、演者の持っているカードも、客のカードと同様に横に半分に折っていることです。この後で、縦長にも折り曲げていますので、結局、折り目が+状になります。この状態であれば、縦長に折り曲げた状態から、少しの操作で簡単にスリットが出来ます。この映像が観れただけでも、このビデオを購入した価値がありました。

デックから2枚のカードを取り出して演じる方法

最初からスリットが入っているカードを使う場合でも、デックから2枚を取り出して演じることが出来ます。この方が、何も仕掛けのないカードを使っている印象を与えることが出来ます。

1994年のマイケル・アマーのビデオでは、2枚の同色同数のカードを、演者がデックからアウトジョグして示した後取り出しています。何気ない操作で、普通のカードのように扱っています。

ダーウィン・オーティスの方法では、客に2枚のカードを選ばせています。デックの半分は普通のカードで、残りの半分はスリットが入ったカードです。オーティスはロイ・ウォルトンのカードワープが発表されて割合早い時期より、この方法で演じていたそうです。そのため、マジシャンの間では、オーティスは何も準備していない状態で始めていると評判になりました。そして、二人のマジシャンからは、自分も同じように演じているといって、彼らの方法を見せてもらうことがあったそうです。その詳しい内容については書かれていませんが、途中でスリットを作る方法であったようです。それらが、オーティスの方法以上のものではなかったとだけ書かれています。

特別な演出やクライマックスの追加

ジャンボカードを使って、ストーリーを加えて演じたのがユージン・バーガーです。1989年の本に解説されています。ただし、ジャンボカードを使用するのは、パトリック・ページにより、最初の頃より使われていたようです。ユージン・バーガーは操作全体をシンプルにして、迫力のあるストーリーの演出で 演じられました。

1990年には、マイケル・クローズがタイムマシンの演出の作品を発表しました。お札がタイムマシンです。クライマックスではカードを四つに破り、その内の3枚をお札に通過させると、3枚がくっついて、1枚のカードの3/4に復元した状態になります。そして、1枚を加えると、ピッタリ一致します。

2004年の本に発表されたWesley Jamesの方法では、クライマックスにスリットのあるカードをハイパー・カード(不思議なトポロジカルな立体造型)の状態にして、もう1枚のカードにホッチキスで止めていました。

変わった方法と現象夫

1995年に、単一作品の解説書で商品として販売されたのがMichael Gilsの "The Contortionist"(体を自由自在に曲げることが出来る芸人)です。縦長に半分に折らずに、そのままのカードの状態で、他のカードを+字状に重ねて演じていました。最初に、カードのジグザグ現象を示しています。その後、上から突き出している表向き部分を下へ押すと、下からは裏向きで突き出てきます。この後は、本来のカードワープのように2枚を重ねたまま折り曲げて、裏表が反転する現象に続けています。さらに、カバーしているカードといっしょに1/3を破り取り、残りの2/3でカードワープ現象を続けています。前半の部分が新しい発想です。

ドン・イングランドは4作品を発表していますが、全てカードワープの原理を使っていません。1981年の本に発表された方法は、お札とカードを使っていますが、現象はカードワープと同じです。しかし、最後に破り取ることはせずに、そのままお札とカードを客に渡せます。スリットのない普通のカードです。2001年の本には、3作品発表しています。「マイクロ・ワープ」では、表向きから裏向きになって突き出されてきたカードを取り出すと、半分サイズのカードとなっています。そして、本来のカードが消失しています。"Warped and Single"では、お札とカードを使い、裏向きカードが表向いて出てきますが、また裏向きに戻ります。そして、このカードを表向けると別のカードに変わっています。もちろん、お札を広げても他のカードはありません。"d / Warp"は、デックのサイドより1枚のカードを裏向きに差し込むと、反対側から表向きで出てきます。これはカードワープの現象から、少しはずれています。いずれにしましても、ドン・イングランドの現象の発想は変わっていて面白く、目がはなせません。しかし、それぞれの方法がダイレクトであったり、強引な点もあったりしますので、それだけが残念です。特に最初の3作品は、一般客用というよりも、カードワープを知っているマニアを対象にすべきだといえます。あらためて、ロイ・ウォルトンのカードワープのすばらしさが再認識出来ます。

2006年のカードワープのDVDについて

L & L社の「ザ・ワールド・グレイティスト・マジック・シリーズ」の一つとして、2006年に「カードワープ」が取り上げられ発表されました。これまでに発行されたビデオに収録された中から、カードワープ現象を中心に集めたものです。ここでは、各作品の注目点を紹介させて頂きます。

1.マイケル・アマー「カードワープ」(ロイ・ウォルトン)
最近のカードワープとして演じられている方法は、この映像が元になっているのではないかと思える内容です。デックから2枚のカードを取り出して、1枚は客に折らせています。

2.スコッティー・ヨーク "The Warpedist Card"
2枚のカードともに客にあらためさせ、1枚を客に折らせています。残りの1枚を演者が折りながら、簡単にスリットを作っています。また、途中でのすばやいカードのあらためがあり、私にとっては、大きな収穫の映像でした。

3.ポール・ダイヤモンド「ダラー・ビル・ワープ」
お札を巻いたデックのボトムカードのカラーチェンジ現象です。カードワープの現象ではありません。簡単なタネを用意しておれば、即席風に演じることが可能です。ポール・ダイヤモンドがマジック大会で、ディーラー・ショップやその他でよく演じられていました。なお、1985年のボブ・マカリスターのレクチャーノートに解説されていますので、原案者はマカリスターなのでしょうか。

4.マイケル・アマー「スター・ワープ」(Howard Schwarzman)
お札とカードによる方法で第3段まであります。文章と絵の解説では分かりにくかったのですが、映像ではスマートで分かりやすくなっています。毎回、お札とカードを広げてあらためを行っていますが、この操作も悪くないと思ってしまいます。

5.ブルース・サーボン「ワープ・2」
お札をめくって、中のカードをあらためるシーンが何回か繰り返されます。これはボブ・マカリスターのあらための方法ですが、最大限に利用されています。「スター・ワープ」のように、お札を広げてあらためることはありませんが、不思議さが強くなっています。

6.マイケル・クローズ "Dr Strangetrick"
タイムマシン現象の演出で、クライマックスでは破ったカードの復元現象が加わっています。そのため、本での解説ではかなり長くなっていますが、映像では、割合と楽に理解出来るようになっています。また、お札には特別な折ぐせをつけて、ユニークな利用の仕方をしています。

7.ユージン・バーガー "The Inquisition"
ジャンボ・カードを使用したストーリーのある現象です。カード操作は、最初のマイケル・アマーの方法とほぼ同じなため、現象のみの映像となっています。

カードワープを演じるマジシャンにとっては、それぞれの作品において参考となる点がありますので、おすすめしたいDVDです。今回の調査をするにあたっては、このDVDが大きな助けとなりました。特に、Schwarzman、サーボン、マイケル・クローズの3作品は、演技が少し長く、本だけでは全体像をつかむのに時間がかかってしまいます。その点DVDでは、すばやくつかむことが出来ます。また、マイケル・アマーやスコッティー・ヨークは映像でしか発表しておらず、実践的で必見の価値がありました。さらに、うれしいことは、一般のDVDに比べて価格が安くなっていることでした。

おわりに

日本を代表する厚川昌男氏のマジックが、20世紀を代表するマジックの一つである「カードワープ」誕生のきっかけをつくっていたことには、大いに驚かされました。日本と世界がつながって、影響しあっていることを実感させられました。しかし、これもすばらしい作品があって、それを海外へ発表する機会があればこそだと思いました。

最後に、参考文献一覧を紹介して終わらせて頂きます。

「カードワープ」参考文献一覧:
(1970 Masao Atsukawa 「スリー・クォーター・カード」
厚川昌男 第2回石田天海賞受賞記念作品集 Creative Works in Magic )
1973 Jeff Busby Into the Fourth Dimension and Beyond 単品解説書
1973(4) Roy Walton Card Warp 単品解説書
1980・Howard Schwarzman Star Warp Apocalypse Vol.3 No.7
1981・Don England Card Warped T.K.O.'s
1983・Bob McAllister Green Warp Richard's Almanac Vol.2 9月号
1985・Jay Marshall Quick Warp Apocalypse Vol.8 No.6
1986 Torkova Card Warp Move Tannen's Magic Manuscript 7/8月号
1987 Michael Weber Card Warp Finish Japanese Lecture Notes
1988 Darwin Ortiz The Card Warp Deck Darwin Ortiz At The Card Table
1988 Tom Ogden Bisiness Card Warp Tannen's Magic Manuscript 3/4月号
1989 Eugene Burger The Inquisition The Experience of Magic
1990・Michael Close Dr Strangetrick Workers No.1
1990・Bruce Cervon Warped Warp.2 Ultra Cervon
1993・Bob Kohler Quicker Warp Apocalypse Vol.16 No.9
1995・Jean-Jacques Sanvert Beyond The Twilight Zone レクチュア・ノート
1995 Michael Giles The Contortionist 単品解説書
1999 David Acer The Card Warp Get-Ready Natural Selections Vol.2
1999 Jim Swain Card Warp Display 21st Century Card Magic
2001 Don England Micro Warp Warped and Single d/Warp Paradox
2004 Wesley James Hyper-Warp Enchantments
* 年数の後の「・」印は、お札を使った作品であることを表示しています。


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