カードを使用したトポロジカルなマジックといえば、最初に思いうかぶのがカードワープです。これはイギリスのロイ・ウォルトンの代表作の一つです。今回、調べたいことがあり、最初のロイ・ウォルトンの方法を探して読み直しました。また、この機会に、カードワープ全体についても調べることにしました。 |
2枚のカードを使いますが、一方は縦に半分に折り曲げ、他方は横に半分に折り曲げます。細長くなった方を他方の間に挟み、一端が突き出た状態にします。この端を押し込みますと、他端から裏表がひっくり返って押し出されてきます。この現象を繰り返した後、クライマックスとして、このカードを半分に破ると、半分は表向きで、他方は裏向きの半分に分かれます。 |
1973年1月にジェフ・バズビー(Jeff Busby)は "Into the Fourth Dimension and Beyond" を発表しました。18ページで60の写真を使った解説書になっており、価格は5ドルです。この作品の前半部分がカードワープの元になる現象です。 |
1970年12月に厚川昌男氏の作品が第2回石田天海賞受賞記念作品集として発行されました。この中の各作品が、日本語だけでなく英語でも解説されていました。せっかくの厚川氏の創作作品を、日本だけでなく広く海外にも紹介するためで、本の表紙のタイトルも "Masao Atsukawa's Creative Works in Magic"と記載され、実際に海外へ送られていました。この中の作品「スリー・クォーター・カード」に影響を受けて、アメリカ西海岸でカードワープの元となるジェフ・バズビーの作品が誕生しました。 |
結論から報告しますと、最近の方法では、途中のあらためが省略されており、また、クライマックスのカードの破り方や見せ方が違っています。ロイ・ウォルトンの本来の方法では、3回の裏表の反転現象が演じられており、3回目がクライマックスとして、客の手の中で変化させています。まず、1回目の変化の後,2枚を重ねたまま開いて裏表をあらためています。2回目の後は,2枚を折り曲げた状態で分離させてあらためを行っています。3回目のクライマックスの現象は、客にカードを持たせ、押し込む操作はしないで、一端から突き出した裏向きカードの部分を、演者が破り取っています。この後、客が持っているカードを開くと、残りの半分が、すでに表向きに変化しているといったクライマックスです。このロイ・ウォルトンの本来の方法の詳細は、1987年発行の高木重朗、麦谷真理編集「カードマジック入門事典」に解説されていますので、そちらを参照して下さい。 |
カードワープが発表されて以降、大きな改案作品といえば、お札とカードを使った方法です。私は2枚のカードを使う方法だけで十分と思っており、お札にかえる必要性はないと感じていました。演出上のためか、身近な物を使って効果を盛り上げるためか、あるいは、単に目先の印象を変えたかったのかといった程度にしか考えていませんでした。確かに、客からお札を借りて演じれば効果的なのかもしれません。しかし、お札をカードに巻き付けるより、折ったカードに挟む方がシンプルで私は好きです。結局は、好みの問題程度にしか考えていませんでした。ところが、今回、お札とカードの作品も全て目を通したことにより、お札を使うのは、現象面においての有利な点があることが分かりました。 |
カードでもマカリスターのように出来ないものかと工夫されたのがジム・スエインです。1999年の「21世紀カードマジック」の本で発表しています。これを行うためには、Beeのカードが必要となります。2枚を重ねてT字状にして、裏面が重なって見えている状態にします。Beeの裏模様により、カードの欠損部分が目立たないようになっています。さらに、それぞれの親指を裏面の中央部付近に置くことにより、クリアーにカードの裏面が見える状態を避けています。 |
そもそも、今回、カードワープについて調べるきっかけとなったのが、このことに関係しています。私が所属していますRRMCの例会で、メンバーの一人より、演技の途中でスリットを作るようになったのは、いつからであるのかといった質問を受けました。ロイ・ウォルトンがカードワープを発表した最初より、そのように解説されていたのかを知りたかったようです。スリットを途中で作るようなことはしていなかったはずだとは答えたものの、原文でも確認してみると言ってしまいました。 |
最初からスリットが入っているカードを使う場合でも、デックから2枚を取り出して演じることが出来ます。この方が、何も仕掛けのないカードを使っている印象を与えることが出来ます。 |
ジャンボカードを使って、ストーリーを加えて演じたのがユージン・バーガーです。1989年の本に解説されています。ただし、ジャンボカードを使用するのは、パトリック・ページにより、最初の頃より使われていたようです。ユージン・バーガーは操作全体をシンプルにして、迫力のあるストーリーの演出で
演じられました。 |
1995年に、単一作品の解説書で商品として販売されたのがMichael Gilsの "The
Contortionist"(体を自由自在に曲げることが出来る芸人)です。縦長に半分に折らずに、そのままのカードの状態で、他のカードを+字状に重ねて演じていました。最初に、カードのジグザグ現象を示しています。その後、上から突き出している表向き部分を下へ押すと、下からは裏向きで突き出てきます。この後は、本来のカードワープのように2枚を重ねたまま折り曲げて、裏表が反転する現象に続けています。さらに、カバーしているカードといっしょに1/3を破り取り、残りの2/3でカードワープ現象を続けています。前半の部分が新しい発想です。 |
L & L社の「ザ・ワールド・グレイティスト・マジック・シリーズ」の一つとして、2006年に「カードワープ」が取り上げられ発表されました。これまでに発行されたビデオに収録された中から、カードワープ現象を中心に集めたものです。ここでは、各作品の注目点を紹介させて頂きます。 |
日本を代表する厚川昌男氏のマジックが、20世紀を代表するマジックの一つである「カードワープ」誕生のきっかけをつくっていたことには、大いに驚かされました。日本と世界がつながって、影響しあっていることを実感させられました。しかし、これもすばらしい作品があって、それを海外へ発表する機会があればこそだと思いました。 |