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コラム



第42回 不可解な「ホフジンサー・エース・プロブレム」について(2009.9.25up)

はじめに

J.N.ホフジンサーと言えば、1800年代中頃のオーストリアで活躍したマジシャンで、カードマジックの父とも呼ばれています。現代のカードマジックや技法に多大な影響を与えたマジシャンで、多数のカードマジックを考案されています。その中でも、今日、多数の改案作品が発表されているのが「ホフジンサー・エース(または、フォーエース)・プロブレム」と呼ばれているものです。しかし、驚くべきことは、この現象の作品を、ホフジンサーが演じていた形跡がないことです。つまり、ホフジンサーが考案していないのに、彼の名前が付いたタイトルとなっています。このことが分かった時の驚きは特別でした。何故、このようなことになってしまったのでしょうか。この謎の追求と、この現象の成立までの経過を調べました。また、その後の変化発展についても調べましたので報告します。

ホフジンサー・エース・プロブレムについて

現在、このタイトルで演じられています現象は次のようなものです。

1). 4枚のエースが示されて、テーブルへ置かれます。
2). デックから1枚のカードが選ばれ、デックの中へ戻されます。
3). 客のカードのマークが発表された後、4枚のエースを表向きに広げます。
4). デックをスプレッドすると、その同マークのエースが表向いて現れます。
  客のカードと同マークのエースのみ裏向いています。
5). 4枚のエースの中の裏向きカードを表向けると、客のカードに変わっています。


ところで、この現象がホフジンサーのものであるとして大々的に紹介したのはカール・ファルブスです。1969年の彼のマジック誌 "The Pallbearers Review" のホフジンサー特集号において、「二つの解決されていないカード・プロブレム」を発表しました。この一方のプロブレムの現象が、今日では「ホフジンサー・エース・プロブレム」と呼ばれるものとなります。但し、そこで書かれた現象は、上記とは少し異なり、シンプルなものでした。

*カール・ファルブスが記載したプロブレムとしての現象

1). 4枚のエースが示されて横へ置かれます。
2). 1枚のカードが選ばれ、デックの中へ戻されます。
3). 客が選んだカードのマークへ意識を集中してもらいます。
  それがハートであったとします。
4). エース・パケットを広げると、ハートのエースが客のカードに変わっています。


結局、エース・パケットやデックの中の1枚がひっくり返る現象がなく、同マークのエースが客のカードに変わるだけの現象です。そして、このプロブレムは、ホフジンサーの「エブリウェア・アンド・ノーウェア」の現象に由来すると書かれています。

ところで、この現象が、ホフジンサーの関連物のどこに書かれていたのかが分かりません。また、「エブリウェア・アンド・ノーウェア」との関連も不明で、意味が分からない状態のままです。カール・ファルブスがこれを発表した後、誰もホフジンサーのものと証明する記載物を見つけた人がいません。

この現象のタイトルについて

今回のテーマのタイトルを「ホフジンサー・エース・プロブレム」としています。各作品の解説の中で、何を元にした現象であるのかの記載で、この名前を使っていた本が一番多くありました。このことにより、ここでは、このタイトルを使ったわけです。しかし、「ホフジンサー・フォーエース・プロブレム」も、それに近いぐらい使われていました。また、「ホフジンサー・エース・トリック(イフェクト)」も割合使われています。もちろん、何も記載のないものや、ホフジンサーのイフェクト(プロット)やプロブレムと書かれているだけのものもありました。

ところで、各作品のタイトルは、必ずこれらの名前が使われているわけではありません。もっと、バラバラな名前が付けられています。ただし、ホフジンサーの名前がタイトルに入っていることが多い特徴があります。このことは、このコラムの最後に掲載しています作品一覧を見て頂くと分かります。ホフジンサーの名前が入れば、この現象のマジックと思ってしまうほどです。ホフジンサーの代表作のように、間違った印象を与えてしまいそうで、その点が大きな問題として感じています。

ホフジンサーを原案者とすることに疑惑を表明した文献

1978年発行の Jon Racherbaumer 著 "Arch Triumphs" には、このことの疑惑が報告されています。タイトル名として "About The So-Called Hofzinser Problem" となっています。 Ottokar Fischer によるホフジンサーのカードマジックの本には、この現象が記載されていないことが報告されています。それに対して、1937年のエドワード・ビクターの本に、同様な現象の作品が記載されていることをあげています。そして、カール・ファルブスに対しては、この作り事(フィクション)の普及者であると批判しています。また、1990年の Racherbaumer 著 "Cardfixes" では、ファルブスによりでっち上げられた「カード・プロブレム」といった手厳しい表現になっています。

1989年の Apocalypse Vol.12, No.9 で、ハリー・ロレインは Robert Bengel のこの現象の作品を紹介しつつ、本当はホフジンサーのものではなく、演じられてもいなかったことが書き加えられています。1991年の John Bannonの "Smoke and Mirrors" の本では、架空上のホフジンサー・エース・プロブレムと書かれていました。1995年のリチャード・カウフマン著「ダーウィン・オーティスのカード・シャーク」の本においても取り上げられています。ホフジンサー・テーマの作品 "KartenKunste" の中で、「そのクレジットとして、一般的にはホフジンサーとなっていますが、その主張の証拠は、実際的には存在していない」と書いています。

このような問題を起こした元となるのがカール・ファルブスであるのに、彼は沈黙したままで、不正確な発表をしたことの謝罪も修正もありません。ファルブスは2003年に、87ページもある「ホフジンサー・ノートブック」を発行しています。今回のテーマについて何か記載していると思い期待しましたが、一言も触れていませんでした。ホフジンサーの作品の改案が多数紹介されていますが、今回のテーマの現象の作品が1作もありません。ファルブス自身が、このプロブレムはホフジンサーのものではないことを認めているようなものです。しかし、そのような事実とは関係なく、今日でも、タイトル名と原案者名は、何事もなかったように、ホフジンサーの名前がそのまま使用されています。そして、今後も、余程のことがない限り、大きく変わることがなさそうです。現在、ホフジンサーの名前の作品として浸透していることと、ホフジンサーとは全く無関係と言えない部分もあるからです。もちろん、解説の最初に、但し書きが一言加えられている本が増えていることも事実であり、そのことは良い傾向といえます。

本当の原案者とその後の経過

私が調べた範囲で、最も早い時期に、この現象を発表していたのは、イギリスのエドワード・ビクターです。1937年発行 "The Magic of The Hands" の中で、The "Deo Ace"Trick のタイトルで発表されています。カール・ファルブスが書いていたのとほぼ同様なシンプルなタイプの現象です。4枚のエースの中で、客のカードと同マークのエースが、客のカードに変わるだけの現象です。将来、新たな発見があれば別ですが、現段階では、エドワード・ビクターが原案者と言ってもよいのではないかと思っています。

そして、4Aパケットやデックの中で、客のカードや同マークのエースが、ひっくり返る現象を加えたのは、イギリスのJack Avis が最初と思われます。文献上での発表はかなり遅く、1971年です。カール・ファルブスのマジック誌「エピローグ」に "The Lost Ace Trick" として発表されます。この作品は、1958年には、既に考案していたそうです。その時に、Avis はバーノンに、この現象を見せています。そして、バーノンから、この現象はホフジンサーの "Lost Ace Routine" であると言われたそうです。バーノンは、かなり以前に、それと同様なホフジンサーの現象が書かれた手紙を読んだことがあると説明しています。ところで、1998年に Jack Avis の作品集 "Vis a Vis" が発行され、このマジックが再録されます。そこには、バーノンの言及に触れた後、バーノンが言ったような手紙や資料が、全く見つかっていないことが書き加えられていました。

1959年に Jack Avis は、マルローにこの現象を手紙で送っています。マルローからの返信では、これはマルローの「デビリッシュ・ミラクル」の改案だと書かれていたようです。Avis はエドワード・ビクターの作品を改案したものであるのに、マルローからそのように告げられたために、発表を止めてしまいます。これが、彼の作品の発表が遅くなってしまった理由です。「デビリッシュ・ミラクル」は、二人に1枚ずつカードを選ばせる作品です。5枚のカードの中で見つけられた客のカードが消失し、4枚となり、その後、消えたカードが裏向きとなって戻ります。また、このカードが消えて、デックの方に表向きに出現します。5枚のパケットを裏向きに広げると、二人目のカードの方が表向いて出現します。かなり複雑で、一般向きではなく、マニア相手のマジックと言えるものです。二人にカードを選ばせている点や、4Aを使っていなかったり、同マークのエースが客のカードに変わる現象ではない点が、大きく違っています。

このマルローが、1965年に " Choice Transposition" を発表しています。4Aパケットを使っていますが、客による選択で、客のカードと同じではない別のマークのエースを裏向いた状態で残します。このエースが、デックの中でひっくり返って出現し、エースパケットの裏向きカードが客のカードに変わります。Jack Avis の現象を、客のカードとは違うマークのエースを使っているのが、わざとらしく感じてしまいます。もちろん、誰の名前もクレジットしていません。

1967年に、ラリー・ジェニングスの "Tell-Tall Aces" が発表されます。これは、ルイス・ギャンソン著 "Dai Vernon's Ultimate Card Secrets" の中で解説されているものです。この解説で、初めて、ホフジンサーのイフェクトを元にしたマジックとして紹介されるようになります。ジョーカーが使われていますが、Jack Avis の作品の変化形といえます。その後、1969年のカール・ファルブスによるホフジンサーの二つのカードプロブレムの発表となります。

以上のことから、面白い構図が見えてきます。ティルトと同様なパターンとなっていることです。エドワード・ビクターの発表後、次に文献上に登場するのがマルローとなるからです。現在のような形に改良したJack Avis(ティルトの場合はバーノン)よりも、マルローの方が先に発表してしまいます。ティルトとの違いは、マルローの作品が、それほど話題とならなかったことぐらいです。もう一つの同様な点は、この現象の元になる考案者が、ホフジンサーとして紹介されるようになることです。本当の原案者をホフジンサーとするのには、無理がある点も同じです。何故、いずれも、エドワード・ビクターが原案者とならないのかが不思議なくらいです。

ホフジンサーとカードマジックの本について

ホフジンサーの考案として実証するものがないのに、そのまま、ホフジンサーの名前が付けられていることに関しては、ホフジンサーについて、もっと調べなおす必要がありそうです。1910年にホフジンサーのカードマジックのドイツ語の本"KartenKunste" がOttokar Fischer により発行されます。そして、1931年にS.H.Sharpeによる英訳版として出版されます。そこには作品解説だけでなく、ホフジンサーについてや、この本が完成するまでの経過、そして、英語版が出される経過についても触れられています。

2009年4月には、加藤英夫氏により日本語訳され「カードマジック・ライブラリー第3巻」の前半部分が、この章として掲載されました。各作品の解説が分かりやすく日本語訳されており、是非読まれることをおすすめします。1800年代中頃、一人の天才により、どのようなカードマジックが考案され演じられていたのかを知っておくべきです。また、ホフジンサーについても詳しく知ることが出来ます。ところで、この日本語訳版は、ホフジンサーのカードマジックの本の全てを掲載されておりません。英語版では31作品が解説されていましたが、日本語訳では25作品となっています。間違った英訳のために、理解しにくい内容となった作品に関しては削除されています。また、内容がよく似ている作品や、最後の特別な装置を使った2作品も削除されています。なお、それだけでなく、この本の最後に記載されていたはずの、18のカードマジックの現象だけのリストも削除されていました。この18のリストが、その後、ホフジンサーのカード・プロブレムと呼ばれるものとなります。このプロブレムの英訳には間違いがあったり、作品解説でないことから、「カードマジック・ライブラリー」の掲載から削除されたものと思われます。この18のリストの中に、今回取り上げましたテーマのフォーエースのプロブレムの現象が入っておれば、何も問題が生じなかったのです。しかし、残念ながら、この中には存在していませんでした。

この本を読みますと、1910年のドイツ語版の本が、大変な経緯で完成されたものであることが分かります。本人のメモや資料の全てが、奥さんにより処分されていたからです。Fischer は弟子であったヒューベックから方法を教わり、そして、より正確な演出は、手紙や各種資料を参考にしています。さらに、そのような手紙や資料に書かれていた現象で、方法が分からなかったものを18のリストとして、本の最後に載せています。ホフジンサーは記載物の中で、60以上のカードマジックを考案していることを述べているそうです。つまり、まだまだ、現象すら知られていないものがあるわけです。

Ottokar Fischer は1940年に死亡していますが、それまでに集めていた資料と彼の原稿を元にして、1942年にドイツ語の本"J.N.Hofzinser Zauberkunste"が発行されます。この本はRichard Hatchにより英訳され、それを元にした本が、1985年に"The Magic of J.N.Hofzinser"として発行されます。カードマジック以外の作品が中心ですが、道具を使用したカードマジックも6作品解説されていました。ホフジンサーについてや関連資料も掲載されていましたが、今回のテーマに関わる記事は、全くありませんでした。オーストリアのマジック・クリスチャンは、数年前に、ドイツ語で、かなりのボリュームのホフジンサーの本を発行しています。2005年には、Genii 誌11月号の「ホフジンサー特集号」において、いくつかの興味深い報告をされました。クリスチャンが集めたホフジンサー関連物は、42の手紙、約270の彼や友人により書かれた関連資料、そして、2500以上の新聞の記事と報告されていました。それらによる調査の結果、1910年のドイツ語の本における調査不十分であった点や、間違っていた点、そして、英訳版での間違いも指摘していました。これほど徹底した再調査がなされたにもかかわらず、今回のテーマの現象に触れていたものは、発見出来ていません。

カール・ファルブスとホフジンサー・カード・プロブレム

1969年にカール・ファルブスが、「二つの解決されていないカード・プロブレム」を発表していることは、既に報告しました。しかし、その時は、何故二つだけだったのでしょうか。18もあると思っていなかったのでしょうか。1969年当時、一部のマニアの間で話題になっていたのが、この二つであったのだと思われます。その一つの、指輪を使ったカードマジックは、18のリストにある現象です。ところが、もう一つの現象がリストにはありません。それが、今回のテーマの作品となるわけです。バーノンはホフジンサーの作品として手紙で読んだことがあるとJack Avisに告げていたように、バーノン周辺で、この現象がホフジンサーのものとされていたようです。それをカール・ファルブスは、その裏付けを得ないまま、ホフジンサーのプロブレムとして公表してしまいます。なお、1965年のイギリスにおけるマニアの集まりでは、Jack Avisがバーノンに言われたように、ホフジンサー原案のものとしてAvis の作品を演じ、話題となっていたようです。このことは、1991年発行のエルムズリーの本の253ページに記載されていました。

ところで、その後、ファルブスは18のリストの存在を知ったためか、1970年に、彼のマジック誌「エピローグ」の9号から11号の3回にわたって連載をしています。Bob Woodward がドイツ語版から英訳したものが載せられますが、Reinhard Muller から英訳の部分的間違いが指摘されます。2回目の連載より、書き直された内容で載ることとなります。1973年には、カール・ファルブスにより、S.H.Sharpe の英訳版のホフジンサーのカードマジックの本が再版されます。さらに、1986年には、Dover 社からこの本が発行されるようになり、安価で広く普及するようになります。

18のカード・プロブレムの全てを紹介しますと長くなりますので、ここでは、気になる次の四つのプロブレムのみ紹介させて頂きます。なお、このタイトルは、Dover社の本の記載を採用しました。2005年のGenii誌も同様の記載です。

1. The Choice of Suits
ピケットパック(32枚のデック)から8枚のカードが取り出されます。
客にマークを名のらせ、8枚を表向けると、同マークになっています。

2. The Changed Aces
2枚のエースがテーブルに置かれます。
客のカードがデックへ戻され、シャフルされます。
エースの1枚が客のカードに変わります。
次に、他方のエースが客のカードに変わり、最初のカードはエースに戻ります。

7. The Magic Finger-Ring
選ばれたカードが、借りた指輪の輪の中へ、巻かれて現れます。

12. The Magic Separation
デックの赤黒がミックスされた状態が示されます。
演者が二つに分けると、赤と黒に分離されています。
特別なデックは使用していません。

18のプロブレムの中で、上記の第2の現象が、今回のテーマのプロブレムに近い印象を受けます。これに影響を受けて、エドワード・ビクターがフォーエースの作品に改良したのではないかと、私は考えています。第1と第2の二つのプロブレムを結合したものであると推察しているのは、オーストリアのマジック・クリスチャンです。2005年の Genii 誌11月号に、そのことが書かれていました。しかし、それを誰が行ったかについては触れていませんでした。

第7の指輪使用の現象が、1969年のカール・ファルブスが書いていた二つのプロブレムの中の一方のものです。第12の現象は、今回のコラムからは外れる内容ですが、「オイル・アンド・ウォーター」の元になる現象であると、カール・ファルブスが主張していたものです。

エドワード・ビクターについて

1887年イギリスに生まれ、1964年に死亡しています。スライハンド・マジシャン、そして、影絵師でもあります。父親がロンドンのホテルのマネージャーであり、スイス出身でもあったことから、エドワードは若い頃に、スイスへ修行に出されます。ホテル業務だけでなく、語学の習得もかねてのことと思われます。そこで、フランス・マジシャンからマジックを教わることになります。マジック書もよく読まれており、中でも、1910年のドイツ語版のホフジンサーの本には、特別な思い入れがあったようです。1937年に「マジック・オブ・ザ・ハンド」の本を発行しており、42年と45年には続編( More,Further )を発行しています。また、1953年から54年にかけての Willane の数冊のパンフレットにも作品解説があります。これらは、バーノン、マルロー等、多くのマジシャンに影響を与えた本です。

ビクターがホフジンサーの本を特に重視していた関係で、今回のテーマの彼の作品も影響を受けていたことが考えられます。しかし、別の現象と言ってもよい程の違いがあり、ホフジンサーを原案とするのには無理があります。バーノンが読んだ手紙の内容とは、ビクターの作品のことであり、ホフジンサーを元にしているといった記載ではなかったのかと考えてしまいます。2004年から5年にかけて、インターネットの Genii Forum で、このマジックを取り上げていました。多くの報告や意見が出されましたが、このプロットは、エドワード・ビクターの作品が元になっているといった結論 にしてもよさそうな感触をうけました。

現象の変化と発展

今回のテーマの最初となるエドワード・ビクターの作品は、客のカードと同マークのエースが入れかわるだけの非常にシンプルなものでした。これを改案したJack Avisにより、客のカードやエースがひっくり返る現象が加わります。その後、発表される改案は、Jack Avisの現象を違った技法と操作方法にしたものが多くなります。

好きになれない改案は、Jack Avis 以上に複雑な現象にしてしまった作品です。別のマジックの現象を加えて複雑にしています。マニア相手には興味をもたれそうですが、一般客相手には混乱させるだけです。本来の単一現象の方が分かりやすく、強い印象が残ります。ツイスティング・エーセスを加えた作品は、まだ、マイナス要素が少ない方かもしれません。しかし、トライアンフ現象を加えた作品は、問題を感じてしまいます。トライアンフの現象の方が強烈であるからです。その改案の多くは、デックを表向きと裏向きでシャフルしてスプレッドすると、中央に固まって3枚のエースのみ表向いて現れます。そのエースの間に、1枚の裏向きカードがサンドイッチされており、それが客のカードと同マークのエースのように思えます。そのカードを表向けると、客のカードになっており、そのカードの枚数目より、見失ったエースが現れます。三つの現象が次々に起こりますが、次第にもり下がっているように思います。一番インパクトが強いのが、最初のトライアンフ現象で、最後のエースの取り出しは、蛇足のように思えてしまいます。

以上の改案よりも、私が興味を感じたのは、本来のエドワード・ビクターの現象の方の改案です。ひっくり返る現象がなく、客のカードのマークと同じエースが客のカードに変化する現象です。エルムズリーの "Bare-Aced Hofzinser" は、初期に考案された面白い作品です。1965年に考案され、イギリスのマニアの集まりで発表されています。しかし、文献での発表は1991年になってしまいました。フォーエースを示して、客の両手の間に挟んでもらいます。その後、客にカードをタッチさせるかストップを言わせて選ばせ、覚えさせた後デックの中へまぜて、このカードのマークを当てると宣言します。客の両手の間から1枚ずつエースを取り去り、残ったマークが、客のカードと同マークのエースしかない状態となります。そして、このエースが客のカードに変わってしまいます。客の手の上で現象を起こしているところが気に入りました。

1970年には、ピーター・ワーロックが「プラットホーム・ホフジンサー」を発表しています。プラットホームとは、パーラーマジック的なものと言ってもよさそうです。四つのグラスの中へ各エースを裏向きに入れ、観客にカードが見やすいようにしています。客のカードを封筒に入れ、同マークのエースの前へ立てかけ、他の三つのエースは表向けます。この封筒の中のカードが同マークのエースとなり、グラスの中が客のカードに変わります。

1979年のロイ・ウォルトンの "Grown Up Hofzinser" では、ジャンボサイズのフォーエースの表を示した後、裏向きに並べています。客のカードのマークと同じエースのみ裏向きに残し、他の3枚を表向けます。演者の手に持っている普通サイズの客のカードと、裏向きに残したジャンボサイズのエースとが入れかわります。つまり、客のカードがジャンボカードとなり、同マークのエースが普通サイズとなるわけです。

1982年のピーター・ダフィーの「ホフジンサー・イン・マイ・ポケット」は、少し複雑な現象となっていますが、面白い試みの作品です。2枚のジョーカーに客のカードを挟んで、ポケットへ入れています。フォーエースのパケットを表向きにカウントするたびに、1枚ずつ別のエースが表向き、最後に表向くエースが、客のカードのマークと同じになります。この4枚をひっくり返してテーブル上でスプレッドしますと、このエースだけが裏向いた状態なわけです。ポケットから3枚を取り出すと、ジョーカーの間のカードが、そのエースに変わっています。テーブル上のエースパケットの裏向きカードが、客のカードとなります。

以上の4作品が、いずれもイギリスからの改案である点が興味深く思えます。しかし、考えてみれば、エドワード・ビクターも Jack Avis もイギリスです。もちろん、アメリカも負けてはいません。この後、すばらしい改案が発表されることになります。1991年の John Bannon の "Reversal of Fourtune" がその作品です。4枚のQをカードケースへ入れ、客のカードを客の手でカバーさせています。ケースの中の4枚の1枚が裏向きとなり、それが、客のカードのマークと同じQと思わせた後、表向けると客のカードになります。客の手の下のカードが、このQに変わっています。1995年には、ダーウィン・オー ティスが、ケースを使用しない方法でこの改案を発表し、2007年にはDavid Solomonも発表しています。

ところで、もっとも驚くべき改案は、1980の Father Cyprian の "Hofzinser's Departure" です。今回のテーマから、かなり飛躍した現象の作品になっています。同マークのエースとの入れかわりがなくなっているからです。そのかわり、エースが4枚とも、一気に消失して、1枚だけの客のカードとなります。かなり強烈なインパクトを受けてしまいます。残念なのは、ダブルフェイスカードを1枚必要としていることです。宮中桂煥氏はそれを使わなくしただけでなく、もっとビジュアルな要素を加えました。4枚のエースの表を示した後、この4枚を取り上げ、裏向きで4枚を確認した直後に、1枚の客のカードに変えています。今回のテーマの改案の中では、一番気に入っている作品です。なお、ロベルト・ジョビーも「カード・カレッジ第5巻」で、この改案の "Coalaces" を発表しています。こちらもダブルフェイスは使用していませんが、簡略化しすぎて、物足りない印象を受けてしまいました。


おわりに

結局、この現象がホフジンサーのものであると証明する記載物が、見つかっていないことがはっきりしました。そして、ダイ・バーノンが読んだ手紙の内容の記憶だけが、ホフジンサーのものとしている根拠であることも明らかになりました。また、正しくない情報を広めて、その後、混乱させるきっかけを作ったのがカール・ファルブスです。この現象が書かれたホフジンサーのプロブレムが、実際に存在するかのように公表してしまったからです。しかし、そのことが、多くのマニアを刺激して、多数の改案が発表されるきっかけとなったとも考えられます。もちろん、現象自体が、多くのマニアの興味を引きつけるものであったことも見逃せません。 1990年代以降、多数の古い本や雑誌が再版され、古典が見直され、研究されて、原案者名の修正も多く見られるようになりました。今回のテーマの現象も、各作品のクレジットの部分で、ホフジンサーのものであることの疑問の一文が加わるようになりました。しかし、原案者として、エドワード・ビクターの名前まで言及している本は、まだまだ、ないのが現状です。今後は、原案者をホフジンサーのままにして、ホフジンサーの第2(または、第1と第2)のプロブレム(今回のテーマの現象と少し異なりますが)を原案とするのか、エドワード・ビクターを原案者とするのか、動向が気になるところです。

■ホフジンサーについてと関連文献
1806 Johann N. Hofzinser 誕生
1825 この年から65年まで、政府の職に勤務
1828 この頃には、既にカードマジックを行っており、カード作品も創作されていた
1857 セミプロ・マジシャンとして活躍(Fischerは54年としたが、Christianが訂正)
1865 退職後、フルタイム・マジシャンとして活躍
1875 Johann N. Hofzinser 死亡

1910 Ottokar Fischer Kartenkunste(ドイツ語)を発行
     ホフジンサーのカードマジックの解説書 31作品解説
     解決出来ていない18のカードマジックのリストも掲載
1922~23 Singleton The Sphinx 全ての解説を英訳(表現がかたく間違いが多い)
1931 S.H.Sharpe Hofzinser's Card Conjuring を発行
     Singletonの英訳の間違いを正し、読みやすくした
1940 Ottokar Fischer 死亡
1942 Ottokar Fischer J.N.Hofzinser Zauberkunste(ドイツ語)を発行
     カードマジック以外の作品解説が中心(道具使用カードマジック6作品含む)
1969末 Karl Fulves The Pallbearers Review ホフジンサー特集号
     「二つの解決されていないカード・プロブレム」を発表
1970 Karl Fulves Epilogue No.9~11 Hofzinser Card Problems
     Bob Woodward による18のリストの英訳とReinhard Mullerによる訂正
1973 S.H.Sharpe Hofzinser's Card Conjuring カール・ファルブスによる再版
1985 Richard Hatch The Magic of J.N.Hofzinserを発行
     1942年のJ.N.Hofzinser Zauberkunsteの英訳を中心とした本
1986 Dover社より "Hofzinser's Card Conjuring" の本が再版される
     このことにより、より多くの人に読まれるようになる
1994 Reinhard Muller Escorial 1993 で Hofzinser のカードマジックの本の内容紹介
2005 Magic Christian Genii 11月号 (Hofzinser 特集号)
     ホフジンサーについてとカードマジックの本の修正を含めた紹介

■Hofzinser Ace Problem 作品一覧
1937 Edward Victor The"Deo-Ace"Trick The Magic of The Hands
1965 Edward Marlo Choice Transposition The New Tops, vol.5 no.11
1967 Larry Jennings Tell-Tall Aces Vernon's Ultimate Secrets of Card Magic
(1969 Karl Fulves Two Unsolved Problems Pallbearers Review)
1970 Chesbro/West Flipper Tricks You Can Count On
1970 Paul Swinford Three Different Ways Epilogue #9
1970 Peter Warlock Platform Hofzinser The New Pentagram Vol.2 No.10
1971 Jack Avis The "Lost Ace" Trick Epilogue #11
1971 Karl Fulves The Red Backed Hofzinser Packet Switches, Part One
1972 J.K.Hartmann Hof Zingers Hartmann Packet Magic(4作品)
    Hotfinger  Face Lift  Ringer  Final Solution
1973 Father Cyprian Hofzinser-70 Epilogue #17
1976 David Britland Tell Tale Aces Magigram, vol.9, no.1
1977 Christensen Pyramide Aces Pabular vo.3, no.12
1977 Jean Fare Criss Cross Triumph Card Tricks French Stile
1977 Karl Fulves In Re Hofzinser Packet Switches (Part Five)
1977 Jon Racherbaumer Decking Hofzinser MUM vol.67, no.4
1977 Martin Nash A Hard Ace to Follow Any Second Now
1978 Barry Nelson Jennings Improved The Book Of John( Mandoza)
1978 Jon Racherbaumer Decking Hofzinser Delux Apocalypse, vol.1, no.3
1978 Jon Racherbaumer Hofzinser Triumphs Arch Triumphs
1978 Danid Solomon Triumphant Aces Arch Triumphs
1979 Roy Walton Grown Up Hofzinser  That Certain Something
1980 Father Cyprian Hofzinser's Departure
 The Elegant Card Magic of Father Cyprian(Garcia)
1981 Walt Lees Hofzinser/Jennings More Professional Card Tricks
1981 Richard Kaufman The Amazing Ace Tunnel Card Works
1982 Richard Kaufman The Hofzinser Ace Tunnel
 The New York Magic Symposium Close-Up Collection One
1982 Peter Duffie Hofzinser In My Pocket Alternative Card Magic
1982 J.J.Sanvert Another Hofzinser Twist, Apocalypse vol.5, no.10
1982 Don England Twisted Hofzinser Best of Friends Vol.1
1983 Frank Simon Hot Zinger Versatile Card Magic
1984 Jon Racherbaumer Decking Hofzinser At The Table
1984 Edward Marlo Hofzinser's Dream Solution At The Table
1984 Daniel McCarthy The Underground Hits The Bottom(2作品)
 No Shuffle Hofzinser Aces   One Shuffle Hofzinser Aces
1984 D.Tropeano Hofzinser Triumphs!; Apocalypse, vol.7, no.6
1986 L. Jennings A Problem with Hofzinser The Classic Magic of Larry Jennings
1987 Peter Duffie Hofzinser's Alternative Inspirations
1988 Phil Goldstein Twisted Hofzinser Linking Ring, vol.68, no.9
1989 Robert Bengel One-Shot Hofzinser Apocalypse, vol.12, no.9
1989 Doug Edwards Half-Shot Hofzinser; Apocalypse, vol.12, no.10
1989 Karl Fulves Dollar Hofzinser And A Pack Of Cards
1990 Justin Higham Hofzinser Triumphs in One Shuffle Technomagic
1990 Edward Marlo Third Solution To Hofzinser's Card Problem Cardfixes
1990 Jon Racherbaumer A Case For Hofzinser Cardfixes
1991 St.Aldrich Aldrich Hofzinser Ace Trick The Linking Ring, vol.71, no.6
1991 Alex Elmsley The Collected Works of Alex Elmsley,vol.I(2作品)
 Bare-Aced Hofzinser   Hoftwister
1991 John Bannon Reversal of Fourtune Smoke and Mirrors
1991 J.K.Hartman Hof Zingers Card Craft p.253-271(6作品)
    Optionzer  Ringer  About Face  One Stop Swapping
    Elastic Ace  Over and Over and Out
1991 Daniel McCarthy Another Hofzinser Aces Sly Glances
1992 Meir Yedid Sandwichange For Hofzinser, Apocalypse, vol.15, no.5
1995 Darwin Ortiz Kartenkunste Card Shark
1995 Peter Duffie A Hofzinser Trilogy (3作品) Card Compulsions
    Triggered Hofzinser  No-Trigger Hofzinser  A Mild Solution
1996 William Goodwin Hofzinser Under Cover Genii Vol.59, No.5
1997 Peter Duffie Thanks to Hofzinser Effortless Card Magic(4作品)
    Return to Suabia  Hands Off Hofzinser
    Hofzinser on The Up  Hofzinser by Stealth
1997 Kevin Kelly What Would J.N.H. Say? A Pasteboard Odyssey
1999 Guy Hollingworth The Hofsinzer Problem Drawing Room Deceptions
1999 Jason Tang Dancing with JNH Cyber Sessions
1999 David Acer Hofzinser's Delusion Magic Menu 51
2000 Udo Wachter The Charm of the Queen of Hearts Concertos for Pasteboard
2001 荒木一郎 ホフジンザーの迷路 舶来カード奇術あ・ら・カルト
2003 Roberto Giobbi Card College Vol.5(2作品)
    Coalaces  The Knowledgeable Cards
2004 Dan & Dave Hofzy Hofsbourne Five,the notes
2004 Aldo Colombini Hofzinser 2000 Cardsdotcom
2006 荒木一郎 失われたエースの謎 テクニカルなカードマジック講座2
2007 David Solomon Hofzinser King City The Wisdom of Solomon
2007 Dr. Giorgio Tarchini Hofzinser's No Problem Antinomy No.9
2007 Joel Given Givens on Hofzinser Session ( by Joshua Jay )
2007 Simon Aronson About Face MAGIC 誌(9月号)


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