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コラム



第81回 U.S.プレイングカード社製カードの質の時代変化(2017.10.20up)

はじめに

未開封の古いTally-Hoデックの封を開けて感動しました。素晴らしい質のカードであったからです。U.S.プレイングカード社(USPCC)製カードはスペードのAの下部のアルファベットを見ると製造年が分かります。それにより1971年製のカードであることが分かりました。カードの厚みがわずかに薄いのに素晴らしい弾力性があります。また、適度の滑りもあります。絵札の青インクが濃く、青線による顔の描写もはっきりしていました。

USPCCのカードの質は1978年頃より80年代中頃まで最悪の年になります。ほとんどのカードの滑りが悪くなったからです。ファンに広げても途切れたり部分的な固まりが発生するようになりました。滑らない印象が強くなっていたために、80年代後半からよく滑るようになった時には、ブレーキの効かないコントロール不能の悪評が出たほどです。1991年頃には絵札の印刷の状態がおかしくなります。青線に紫色が加わった状態のカードが出回るようになります。92年~93年頃よりエンボスが現在の新タイプとなり、絵札の色が全体的に濃くなっています。

ところで、最近になって問題となったのが2009年の工場移転です。マシンが古くなったためか、品質と生産性を高めるためかは分かりませんが、マシンが全て入れ替えられたようです。この新デックに対してマジシャンやマニアからいくつかの点で質の低下が報告されるようになります。さらに、カードだけでなく、カードケースやセロファンの封に対しての問題も指摘されます。このような機会に台湾ではいくつかの質の良いカードが製作されています。また、米国のマジシャンや研究家からもマジックに適したいくつかのカードが発行されました。日本でもプロジェクトチームが組まれ、米国に対抗できるカードの発行が予定されています。

このコラムの第1回が「マジックに適したカードとは」のテーマでした。2000年までに発行された私が持っているカードを元にして調査し、マジック仲間のカードも参考にした結果を簡単に報告しました。また、2000年発行のToy Box Vol.5には16ページをかけて、もう少し詳細な報告をしました。この時に困ったことが各デックの製造年が分からなかったことです。ケースの形状や購入した時期の記憶を元にして、いつ頃かを判断していました。ところで、その後、スペードのAの下部のアルファベットで製造年が分かることを知りました。また、2000年以降も多数のデックを手に入れていました。そこで、もう一度、1970年頃から現在までの米国のカードの質の時代変化を調査することにしました。その調査方法や結果を報告します。

USPCCのカードの製造年表示について

2009年初め頃までのオハイオ州(OHIO)シンシナティーで製造されたカードの場合、スペードのAの下部のアルファベットが年数表示になります。アルファベットの後に4桁の数が記載されていますが、それについてはよく分かりません。このアルファベットとの関係は2000年発行の “The Hochman Encyclopedia of American Playing Cards” に掲載されています。1904年から最近まで一覧表になっているのですが、この表をネット上ではLee Asherのサイトでも紹介されていました。最近の年数ではAが1960年1980年2000年となります。Zが1979年1999年で、A~Zの間をアルファベット順に対応しています。Mが1970年1990年2010年となります。アルファベットの方が6文字多いので、数字と間違われやすいIとOだけでなくNQVWも使われていません。奇妙な使い方がBで1976年1996年に使われ、Cが1961年1981年2001年となっています。さらに奇妙なのが、本来使われないNやQが1991年か92年頃に重複して使われていたことです。この頃はカードの色を改善するための過渡期で、NやQの年の絵札は紫色をおびた状態になっていました。また、Nが2011年に使われていたり、Wが2016年に使われるようになっただけでなく、Wは1996年にもBと重複して使われていました。なお、記念カードや特別注文のカスタムカードの場合にはアルファベットや数も書かれていないことがあります。

2009年には工場がケンタッキー州(KY)Erlangerへ移転しましたが、スペードのAの下部の表示が少し変わりました。アルファベットはそのまま使われていますが、その前に4桁の数が加わりました。Lee Asherのサイトでの記載では、最初の2桁が製造した週で、次の2桁が製造年になるそうです。0917-X1614とあれば、2017年の第9週目の製造となるわけです。なお、2009年以降のほとんどのケースの底部に年数の記載が加わりました。これはコピーライト(著作権)が発生した年数で、製造年とは別になります。Bicycleは次々と改訂されたためか、ケースの年数も新しくなっています。しかし、Tally-Hoの場合には2011年の改訂の後は変更がなく、ケースの記載が2011年のままで、中のカードの製造年が2016年の場合もありました。製造年は基本的にスペードのAを見るしかないようです。

補足 カードケースによる製造年決定のための補助

カードの製造年を調べる場合に、例えばアルファベットが T であれば1974年1994年2014年の可能性があります。このいずれかの決定にケースのフタのシールのタイプの違いが役立ちます。65年から77年までは青シールで縁が切手のようにギザギザがあります。1978年から2008年まではギザギザのない青シールとなります。ただし、特別なカードでは金色や黒や赤も使われ、黒裏のBicycleは赤シールが使われていましたが、2008年の普通のBicycleにも赤シールのものがありました。そして、2009年からのケンタッキー(KY)製カードが黒シールに変わります。私が持っていたOHIOと書かれた旧タイプのケースに2014年のKY製カードが入っていましたが、そのケースには黒シールが貼られていました。2009年以降のBicycleのケースは大きく変わったのですが、購入業者の要望により以前のケースが使われているようです。マジック仲間からの情報によりますと、日本の代理店のマツイ・ゲーミング・マシン社が特別にそのように指定されているようです。黒裏のBicycleを特注して販売されていますが、そのケースが昔のままであり、赤裏と青裏Bicycleもそれに合わせるためとの情報もあります。ところで、2009年に関しては工場移転が割合早い時期に行われているのですが、ケースとシールとカードの組み合わせにいくつかのパターンがあるようです。黒シールの場合でも縁の白色が透明の場合にはOHIO製カードの可能性が高いようです。しかし、黒シールで縁の白が不透明であればKY製の可能性が高いと言われています。例外があるかもしれません。

参考として報告しますが、ケースのフタのフラップは1991年頃までは長いタイプで、内側の底には何もない状態でした。1993年 (92年?) 以降はフラップが短くなり、勝手に開かないようにフラップの上部の両サイドに少しの切れ込みが加わりました。また、内側の底にはサイドフラップが見えるようになりました。

カードの質の調査方法と結果

調査方法
1)厚さ 2017年Bicycle54枚との枚数差
2)硬さ 54枚でスプリングする時の曲げやすさ
      各種の方法が考えられますが簡易にできる方法として採用
   硬 曲げるのにかなりの力が必要 スプリングしにくい
   中  少しの力は必要 一定度の抵抗感
   中下 少しの力は必要 抵抗感が少ない 
   柔 負担を感じないで曲げることが可能
3)滑り ファンの広がりやすさで調査
   優 均等に美しく広がる
   可 ファンは可能であるが部分的に広がりに差ができる
    X 部分的に固まり ファンが途切れたり広がりに大きな差ができる
4)Faroの向き スムーズに可能な方向(反対側は最初に少し引っかかる)
   正 裏向きで下側からの噛み合わせがスムーズ
   逆 表向きで下側からの噛み合わせがスムーズ
     または、裏向きで上側からの噛み合わせがスムーズ
     
調査結果
1)厚さ
   1995年以前のBicycleでは2017年より1枚以上薄い
2)硬さ
   1990年以降のOHIO製 Bicycleは中の硬さが多い印象
   2009年からのKY製Bicycleは柔か中下が多い印象
   ただし、銘柄や製造年やロットにより違いがある
3)滑り
   1987年頃より優ばかりとなる
   1978年頃より80年代中頃まで滑らなかった
   1977年以前はそれなりに滑るがファンの広がりに部分的な差がある
4)Faroの向き
   1990年代中頃まで正方向ばかり
   1990年代中頃より多くなったBicycle特注デックのほとんどが逆向き
   2007年から2011年までは普通のBicycleも逆向きになっているものが多かった
   2008年の特注のゴールドスタンダードは逆向きにならない指定
5)表面加工の状態(エンボス、フィニッシュ)
   1992年~93年頃より両面ともはっきりした格子状の点
   1991年以前の裏はうすい格子状の点、表はうすい縦線状
6)絵札の色
   1993年から青黄ともに濃くなる
   それ以前の青と黄色は少しうすく、特に青色がかなりうすい年があった
   ただし、1970年頃の青色は濃い
   2000年代中頃より青が薄くなり黄色も変化
   最近は青が濃くなっている傾向
7)カードのバックの色
   1992年頃以前と以降でバックの青と赤色が少し違っている
8)弾力性や紙質
   USPCCの紙質や弾力性は全体的に良かった
   特に1970年前後のものは特別の弾力を感じた
   2009年以降は柔なカードが増えたためかわずかに弾力の低下が感じられた

質の時代変化パート1 1970年頃のカードの素晴らしさ

このコラムの冒頭で報告しましたTally-Hoは、2009年のIBM大会で購入した古いデックの一つです。実は二つのTally-Hoを購入したのですが、数年前にその一つを開封しました。残念ながら滑りが悪く、使う気にはなれないカードでした。今回、製造年のことが分かりましたので調べますと1981年製で、USPCCのカード全体の滑りが悪くなっている頃でした。そのようなことがあったので、今回、もう一つのTally-Hoを開封するときには期待していなかったのですが、冒頭の記載のように感激することになりました。このTally-Hoが1971年製であったわけです。

1970年製のカードで有名なのがJerry’s Nuggetの赤と青です。私が持っている赤と青もアルファベットがMで1970年製造です。ネット上でスペードのAが大きく映し出された写真を見ても記載がMで1970年製です。他のマニアからの情報でも記載がMの1970年ばかりです。この赤と青は1970年のみ大量に製造されたのだと思います。つまり、このカードは1970年製しかないカードとなります。そのことがこのカードの質の良さを保証しているものになるのかもしれません。さらに面白いことに、このカードのバックの白い縁の幅が他のカードよりかなり狭くなっています。そのためにUSPCCの他のカードに見られる弱点の白の縁の幅の左右や上下の差がないことです。幅が狭いために差が生じると完全な不良品となり廃棄処分となります。そのために技術者の力量が不可欠であったと思われます。バックの色の使い方を見ても特別な注文であったことがうかがえます。このNuggetの54枚の厚さが最近のKY製デックに比べて4枚ほど薄くなっています。これは71年のTally-Hoも同様でした。そうであるのにシッカリとした弾力があります。カードの対向するコーナーの2点だけを指先で持ってマニピュレーション的な操作をしても安定性があり、落とす心配がほとんどしません。現在のカードのように滑りすぎることもありません。赤バックの場合はよく目立ちます。フラリッシュにはうってつけのカードで、Dan&Daveが好んで使っていたのが分かります。このカードを使って解説しているマジック書は、1983年発行のFrank Simon著 “Versatile Card Magic” が有名です。現在使われているコンビンシングコントロールやスプレッドカルに大きく影響を与えた本です。今になって思えば、この頃はUSPCCカードのほとんどが滑らない時期でした。両手の間で広げながら操作することが書かれた本ですので、著者にとっては扱いやすいJerry’s Nuggetが最も信頼できるカードであったのかもしれません。このカードの問題を挙げるとすれば、マジックに使用する上での好みの問題ですが、裏のカジノ名の模様が好きにはなれないことと、バックの赤や青がもう少し落ち着いた色にして欲しかった点ぐらいです。もう一つ重要な問題がありました。1箱が数万円もするプレミアがついてしまったことです。

1980年代中頃にグレートモーガル “Great Mogul” のカードを購入しました。バックの模様やジョーカーがBeeのカードと同じです。ケースがBeeとは違って男性の絵が描かれており、Beeのセコンドとか普及版とも言われています。Beeよりも価格がかなり安いのが魅力で購入しました。驚いたのはカードがほとんど滑らず、広げても数ブロックの固まりができる状態でした。スプリングをしても数個の固まりが飛ぶ感覚です。グレートモーガルは最悪のカードの印象だけが残りました。今回、その理由が分かりました。製造年が1982年であったからです。問題があるカードのことを忘れていたのか、いつの間にか別のグレートモーガルを購入していました。今回、そのカードを調べて驚いたのは、気持ちよく広がるだけでなく、弾力もよく、印刷もよいのです。アルファベットから1969年製であることが分かりました。Nuggetカードより3枚多い厚さがありますが、最近のカードに比べると1枚薄く質の良さが感じられるカードでした。

ところで、使い古したTally-Hoがそのまま残っていました。多くの使い古しカードは処分していたのですが、これが何故か残っていました。30年以上前に使っていたカードです。湿気を含んで滑らなくなっていると思ったのですが、最近のカードとかわらないほど気持ちよく広がります。弾力も悪くなく、フェロウシャフルが表向きも裏向きもスムーズにできます。このカードが1975年製であることが分かりました。この頃までのUSPCCカードには感激させられることばかりでした。

質の時代変化パート2 1980年前後の滑らなくなったカード

昔のカードは滑らなかった印象がありましたが、今回の調査で70年頃のカードは滑っていたことが分かりました。もちろん、よく滑るカードになってからマジックを始められた人にとっては、70年頃のカードも滑らないカードと感じられるかもしれません。今のカードほどには均等に広がらず、数カ所に少しの広がりの差ができます。しかし、見た目にはキレイに広がっているように見えるので全く問題がありません。もっと均等に、そして、カッコよくファンに広げたい場合には、スプリングしながらのファン(プレッシャーファン)をよく行なっていました。カードを使い続けて手汗で滑りが悪くなってきた時もプレッシャーファンを使っていました。現代のようによく滑るカードになってからは、特別な操作のため以外には使うことがなくなったテクニックです。ところで、ある時期よりプレッシャーファンでもカードが広がりにくくなった記憶があります。数枚ずつの固まりの状態で広がるようになっていたからです。もちろん、リボンスプレッドもできません。その頃、家には以前にマジックキャッスルで購入していたキャッスルカードが数デックありました。記念に残しておくつもりでしたが、仕方ありませんのでそれを使うことにしました。

今回の私の調査では、1978年頃から1984年ごろまでが滑りにくいカードになっていることが分かりました。持っているカードの中で1978年製が二つありましたが、一方は滑り他方は滑りませんでした。その頃から1984年までのカードの中にはなんとかファンに広げられるものもあります。しかし、いずれも40センチのリボンスプレッドは数カ所で大きく広がりすぎて、ターンオーバーができないカードばかりでした。それ以前のカードではきっちりターンオーバーもできていました。私の好きな映画「スティング」は1973年の作品ですが、イカサマのカードテクニックを披露するシーンがYou Tubeで見ることができます。その中でリボンスプレッドとターンオーバーをしている映像があります。その頃のカードがそれなりに滑っていたことが分かります。

不思議に思うことは、何故その数年間が滑らなくなっていたかです。また、1970年代中頃より絵札の青色が薄くなり始めます。何かの理由でそれぞれの成分を変更する必要があったのでしょうか。それとも、単に使用する量を減らしただけなのでしょうか。そのことに関して気になるのが、カジノカードは別として、マジシャンやマニアに対してポーカーサイズのカードが売れなくなっていたと考えられる点です。1970年代から80年代中頃までパケットマジックの全盛期であったからです。この頃のパケットのカードのほぼ全てがブリッジサイズでした。ポーカーサイズのパケットカードが登場するのはもっと後になってからです。この時期は海外でも日本でも、カードマジックといえばパケットマジックしかしないマジシャンやマニアが多かったように思います。

そして、ポーカーサイズのカードが爆発的に売れたのが1984年のロスオリンピック記念デックです。値段を安くするためか、現在のKY製カードより1組が7枚分ほど薄くなっています。絵札の赤青黄色ともに薄く、バックの赤や青もかなり薄い色になっています。滑りはなんとかファンに開く程度です。これによりかなりの収益を上げたのではないかと考えています。さらに、この頃より、パケットマジックが下火となり、ポーカーサイズデックの消費も増えていたと思います。そのためか、80年代後半のカードがかなり改善されています。滑らなくなった理由は別にあるのかもしれませんが、上記のことも少しは関係しているのではないかと考えてしまいました。ところで、1987年頃からカードが現在のようによく滑るようになります。しかし、嬉しさよりも戸惑いの方が大きかった記憶があります。扱い慣れていなかったからでしょうが、各種の技法を行う上で不都合が生じることがあり、困ったもんだと悪評をよく耳にしました。昔の適度な滑りのカードを懐かしむマニアが多かったように思います。

質の時代変化パート3 1991~92年頃の各種の変化

スペードのAの下部の記載がアルファベットMとなるのは1990年のカードです。このカードはその数年前からのカードの状態をそのまま受け継いでいます。問題の年が1991年頃で青色が奇妙な状態になります。アルファベットPは91年のカードですが、裏の青色が紫色っぽくなっただけでなく、裏全体の色が薄くなっていました。そして、何故かこの頃に、本来なら使用しないはずのアルファベットNやQのカードも出回っていました。両方とも絵札の青色に紫色が加わっています。絵札の青は顔の線だけでなく、イラスト全体の描写の基本となる線で、縁取りの四角のワクも青色が使われています。そのために、全体が紫色をおびた状態になっていました。しかし、他の点では1990年のカードと同じです。

1993年のSのカードでは、いろいろと大幅に変化することになります。92年から変化していたと思われるのですが、Rのカードを持っていないので確定できません。まず、エンボスの状態が変わります。エンボスとはカードの表面にある模様のような凹凸です。目の近くで意識してみないと見えません。1991年まではカードの表側は縦線のような模様が見え、裏側は格子状(碁盤目状)になった細かい点が多数見えます。これが1993年になると表も裏も同じになり、格子状の細かい点ばかりとなります。さらに、これまで以上にハッキリ確認しやすくなります。なお、このエンボスとは何のためにあるのでしょうか。カードをしなやかにするためなのか、または、カードがくっつかないようにするためや、滑りを長持ちさせるためのものなのでしょうか。結局、私にはよく分かりませんでした。別の変化として絵札の青と黄色がかなり濃くなったのが印象的です。さらに、カードの裏の青色も少し色合いが変化していました。カードケースは見た目には違いが分かりにくいのですが、大きく変化しています。まず、フタのフラップが短くなり、上側の両サイドに切り込みが入り、フタが勝手に開かないようになっています。以前のケースの内側には何もなかったのですが、新たなケースでは底に両側からのサイドフラップが見えるようになりました。ケース自体の組み立て方やのりづけ部分が大幅に変わったようです。ケースの厚みもカード2枚分厚くなっています。さらに、奇妙なことがフタの部分の青シールの変化です。基本的に青シールの縁の白色は不透明ですが、カードが変化し始める1991年から1995年までの縁の白が透明になっていました。外観を見ても違いが分かりにくいので、区別を明確にするためでしょうか。

質の時代変化パート4 1990年代後半からフェロウシャフルが逆のデックも

私が持っているUSPCCのカードでのフェロウシャフルの調査では、1997年までは裏向きにしてボトム側から噛み合わせる方がスムーズに行えました。ところが、1998年のB’Zの特注カードからは逆の方がスムーズにできるカードが増えました。特注や特別な銘柄のカードのほとんどが逆になっていました。1999年Hoyle、Bicycle2000、2000年Streamline、2001年Steamboat、2002年Bicycle Tactical Field、2005年の無色Bicycleや柿色Bicycleや緑色のエレファントBicycle、2006年Bicycle Vintage Design、2009年Bicycle Poker、2010年Bicycle Jumbo Index、2014年Bicycle 130、Mandolinが逆になっていました。2005年のフラリッシュ用の滑らないBicycleや2010年のBicycle Short Deckも逆でした。普通のBicycleでも2007年から2011年のデックの多くが逆になっていたことが奇妙でした。1997年以前にも多くはありませんが特別な記念デックがありました。1984年のロスオリンピックBicycleや1994年のBicycle Holidayがありますが、いずれもフェロウシャフルは逆ではありませんでした。1996年のアトランタオリンピックBicycleも製造されていますが、残念ながら持っていないので分かりませんでした。

なぜ特注のカードの場合に逆にするようになったのでしょうか。私の勝手な考えでは、通常のカードでは表のインデックスがずれないようにチェックしながら裁断されているのではないでしょうか。特にカジノ用のBeeの場合、裏には白い縁がありませんので、裏を気にせず裁断できます。特注カードの裏は特別なデザインのことが多く、裏をチェックしながら裏側から裁断しているのではないかと考えています。実際がどうであるのか分かりません。USPCCの通常のカードの多くが表側から裁断しているとしますと、大きな欠点でもある裏の白枠の上下や左右の幅の差が出やすい理由がわかるような気がします。USPCC以外の日本や他国のカードには白枠の差がない代わりに、フェロウシャフルが逆からになっていることが多いと言えます。特注カードだけでなく普通のBicycleでも2007年から逆になっているカードが多くなり、2008年のゴールドスタンダードでは切断が逆にならないようにTraditionally Cut(伝統的カット)の指定をされていました。このことはケースの上に貼り付けられた円形シールに書かれています。このTraditionelly Cutが1990年代前半以前のカット方法を指しているのだと思います。

ところで、このコラムの第12回の「フェロウシャフルはトップからかボトムからか」にも報告していますが、どちらが正しいと言えるものではありません。本によってはトップ側から噛み合わせることが書かれています。トップにセットした4枚のエースを1枚おきにしたい場合は、トップ側からの方が便利です。しかし、USPCCのカードのほとんどがボトム側からの方がスムーズに行えるようになっています。重要なことは、使用するデックがどちらのタイプになっているのかを知っておくことだと思います。USPCCカードの素晴らしさは、弾力性が優れていることと、切断面の優秀さからかフェロウシャフルがスムーズに行えることです。反対方向も何度か行っているとスムーズになる点も特徴的です。

質の時代変化パート5 2009年からのKY製カードの問題点

カードをよく使っているマジック仲間からやネット上でのいくつかの報告により問題点が明らかになりました。ケンタッキー(KY)製カードを使っていると、早い段階で弾力性が低下し、滑りも悪くなるとのことです。また、デックの側面が手汗ですぐに黒っぽくなることも報告されていました。OHIO製のケースにはカードのバックと同じ模様があったのですが、Bicycleの新ケースではそれがなくなり、それを利用するマジックができなくなったとの苦情も出ています。さらに、セロファンにゆとりがなくなり、秘かにセロファンとケースの間へ1枚を入れておくこともできなくなった問題もあります。

このようになったのは、工場移転と同時にマシンを入れ替えて全てを新しくしてしまったことが原因のようです。マシンだけでなく、いろいろと新しくしたために混乱することも多かったと思います。しかし、それだけでもないようです。2009年に工場移転してすぐにエコエディションのデックが発行されています。環境に優しくするために再生紙を使用し、化学素材を無くしてコーティングにデンプンをベースにしたものを使い、インクは植物染料に変えています。植物染料ではインクの色が制限され、薄くなるために薄い緑色を中心としたカードになっています。ネット上でのドン・ボイヤー氏によりますと、米国政府がプレイングカードに再生紙を使う決定をしたと報告されています。それが米国の全てのカードに実施されたのか現在も継続されているのか、正確なことが何もわかりません。しかし、それが実施されているとすれば、早く弾力性が低下することが納得できます。再生紙では繊維の長さが短くなるために弾力性の低下がどうしても生じるからです。インクは以前からのものでなければ同様な色が出せませんが、可能な部分は成分を変えているのかもしれません。問題はノリやコーティングの液の成分です。これが変わっていたとしますと、カードの側面が湿気で黒くなることも考えられそうです。

以上のこと以外で2009年から10年にかけてはいろいろと問題のあるデックが出ていたようです。ネット上からの情報では、2009年頃のTally-Hoの質がかなり悪く、裁断も悪く中国製のカードのように思えたとの報告もありました。2011年から改善されているとのことですが、私が持っている2016年製は悪くない印象です。2010年のBicycle Jumbo Indexは裁断ミスでエンド部分がささくれていました。また、RRMCメンバーからの情報では、2009年の初期のKY製カードがインデックスのマークが小さいまま出回っていたそうですが、購入者の苦情からか早期に改善されたようです。カードケースに関しても、Bicycleの新ケースの内側の底の一方のサイドフラップがサイドにくっついたままの問題のあるケースが一時期出回ったことがあります。そのことに気がつかず、デックをケースに無理やり納めるとカードのコーナー部分が当たり、カードを傷める原因にもなっていたようです。現在ではそのようなケースがないように改善されています。

それでは2000年代のOHIOデックに問題はなかったのかといえば、カードの裏の白枠の幅に問題があるデックが出回っていました。以前からあるUSPCCのカードの大きな欠点ですが、2000以降の白枠の幅のズレの大きさには酷いものもあったようです。普通のBicycleだけでなく、ダブルバックやブランクカードのバックはもっと酷く、商品価値のないものもあったようです。これは経営上の問題で人員が減少しチェック機構が甘くなったからでしょうか。KY製デックになってから少しは改善されているようですが基本的には幅の差は残っています。2005年頃から、また、青色が薄くなってきたことも気になります。2017年のBicycleは元の濃い青に戻っていました。2000年頃のStreamlineは柔らかいデックが好きな人には値段も安く人気がありましたが、その後、最悪のデックとなって出回ります。カードもケースもUSPCC製となっており見た目も同じですが、注意してみるとチャイナ製と書かれていました。経費削減のために中国で製造したのでしょうが、滑りが悪く、フェロウシャフルもどちらからも入りにくくなっており、USPCCの信頼をなくすデックとなっていました。よくみると、青シールが貼られていませんでした。

KY製のカードも初期の2009年に比べていろいろ改善されている印象があります。カードの質の部分がもっと改善されれば良いのですが、今後の課題と言えます。その他の点では、2017年に入ってセロファンの開封テープが開けやすくなったデックが登場しました。いつ頃からか開封テープが開けにくくなり、KY製になってセロファンのゆとりがなくなって、さらに、開けにくくなった印象があります。2017年製のBicycle Elite Editionやその他のカスタムデックだけですが、開封テープのつまむ部分が出来て、簡単でキレイに開封できるようになりました。これが普通のBicycleやTally-Hoにも使用されるのではないかと期待しています。

おわりに

今回はUSPCC製のカードを中心に調査して報告しました。ヨーロッパや台湾、そして、カーディストリー(フラリッシュ)用のカードについては触れませんでした。また、日本でこれから発行される予定のカードについても触れませんでした。これらに関しては機会があれば報告したいと思っています。

USPCC製カードの質の時代変化を調べて分かったことは、質が悪くなることもありましたが、改善もされてきたことです。USPCC製カードの最大の利点は弾力性の良さとフェロウシャフルのスムーズさです。最近では滑りの良さもあります。その反対に、根本的に改善されていない欠点が、裏の白枠の上下左右の差が常に存在していることです。KY製カードについては2009年の混乱期を経過し、少しは改善されているようですが、OHIO製カードの比べて質の点ではまだまだ改善すべき問題が残っているようです。

今回の調査にあたっては、フレンチドロップのポンタ・ザ・スミスさんやRRMCメンバーの川島さん、さらに、アルスさんからも貴重な情報をいただきました。また、川島さんや今村さんからは多数のデックを見せていただき、たいへん参考になりました。特に川島さんからは今回のテーマでまとめるきっかけを与えていただいただけでなく、たくさんの情報を提供していただきました。あらためてお礼を申し上げます。 最後に参考文献と今回の調査結果の1部分を掲載します。参考文献は4冊だけです。海外の文献ではカードの質の時代変化については書かれていませんでしたが、米国のカードの歴史については参考になりました。そして、今回の調査結果に関しては、使用したデックは100以上になりますが、下記で報告するのは時代変化がわかりやすいように、USPCC製カードのBicycleとTally-Hoを中心にしました。ただし、今回の報告に関係した他の銘柄のカードも含めました。下記の調査報告は私が持っていたカードと見せていただいたカードを中心としたもので、同じ年数でも違った状態のカードがあると思います。参考にしていただくだけで、確定的なものではないことをご了承下さい。


【参考文献一】

1976 Ron and Juliann Stark Genii 1月号 Pick a Card, Any Card
2000 Tom and Judy Dawson
     The Hochman Encyclopedia of American Playing Cards
2001 石田隆信 Toy Box Vol.5 マジックに適したカードとは
2010 Jason England Magic 8月号 Tools of the Trade



【USPCC製カードの質の調査結果・部分抜粋】

厚さ硬さ滑りFaro向き
2017 Bicycle El赤-4封開けやすい
2017 Bicycle青 0新ケース
2016 Tally-Ho青+1コピーライト2011
2016 Mandolin青+1
2016 Hoyle青 0中下
2016 Bicycle Eco0再生紙使用 封なし
2015 Bicycle青0旧ケース KY記載 黒シール
2014 Bicycle青+1OHIO記載 黒シール
2014 Bicycle1300中下
2013 Bicycle青0中下新ケースKY記載 コピーライト2009
2011 Bicycle赤0中下旧ケース OHIO記載 黒シール
2011 Bee Erd 緑+2Erdnase Deck 2種類のFinish
2010 Bicycle青+1KY記載 ショートデック
2010 Bicycle青 Ju0中下KY記載 ショートデック
2010 Bicycle赤+1新ケース OHIO記載
2009 Bicycle青-1中下旧ケース OHIO記載 
2009 Bicycle青0中下新ケース OHIO記載
2009 Bicycle青 -1中下新ケース OHIO記載 青シール
2009 Bicycle赤-1新ケース OHIO記載 黒シール透明
2009 Bicycle青+1新ケース OHIO記載 黒シール透明
2009 Bicycle青 Po0Bicycle Poker OHIO製か
2008 Bicycle青-1赤シール ジョーカーの文字が濃い
2008 Bicycle Tr青+1Traditionally Cut
2007 Bicycle青0別の赤も同様
2006 Bicycle Vi青-1Vintage Design
2005 Bicycle赤+1-フラリッシュ用滑りなし
2005 Bicycle無色-1色なしデック
2005 Bicycle柿色-1
2005 Bicycle緑象0象の絵のケース カード全体緑
2002 Bicycle Ta緑0Tactical Field
2002 Bicycle赤-1
2001 Bicycle青-1
2000 Streamline青-5
2000 Bicycle2000-2Tactical Field
1998 B’Z青0
1998 Bicycle青-2
1996 Bicycle赤0Bが記載
1996?Bicycle青0Wが記載
1995 Bicycle青-2同年の赤も全く同じ
1994 Bicycle青-1
1994 Bicycle Holi-1中下Holiday Back
1993 Bicycle青-1新エンボスに変化 フラップ短い
1991?Bicycle青-2Q記載 絵札の青線と周りが紫
1991 Bicycle青-2P記載 裏の青が薄く少し紫
1990 Bicycle青-4中下
1990 Bicycle赤-3中下
1988 Bicycle青-2中下
1987 Bicycle赤-5ここ以降は現在同様のよく滑るタイプ
1985 Aladdin赤-4ここ以降は現在同様のよく滑るタイプ
1984 Bicycle青Los-7ロスオリンピックカード 青赤黄薄い
1984 Castle青-3×
1984 Tally-Ho Fan赤-2×
1982 Bicycle赤-2×
1982 Great Mogul+3×
1981 Bicycle Racer-4×ゴールドエッジ フェロウ困難
1981 Bicycle Racer-1×
1981 Tally-Ho赤-2×
1979 Blue Ribbon青-2×
1978 Bicycle青-1×
1978 BicycleNewFan-6新シール 青かなり薄い
1976 Bicycle赤-1
1975 Tally-Ho青-3(参考用)かなり使ったデック
1974 Bee白Casino+1Desert inn Casino
1974 Sphinx-1
1971 Tally-Ho赤-4
1970 Jerry’s Nugget-4
1969 Great Mogul赤-1Beeデザイン


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