1981年にダイ・バーノンと共にスティーブ・フリーマンが来日されました。この時にフリーマンが演じられたセルフワーキングマジックにより、私は大きな影響を受けることになります。それまで好きではなかったセルフワーキングが面白いと思えるようになったからです。セットしていない20枚ほどのカードを表裏ごちゃまぜしたのに、スプレッドするとロイヤルストレートフラッシュだけが表向く現象です。これは1940年代に登場するボブ・ハマー原理を発展させた方法です。1990年代にはマーカー・テンドー氏や加藤英夫氏だけでなく、私もフリーマンの方法に関連した作品を発表することになります。その後、Mr マリック氏もTV番組で、さらに素晴らしい改案を披露されています。意外であったのは、米国では最近まで、このフリーマンの方法が一部のマニアにしか知られていなかったことです。 |
初期の作品にはCATOが使われていたためか、CATOがボブ・ハマー原理と思われがちです。CATOはボブ・ハマー原理を効果的に行うための一つの操作にすぎません。ただし、裏表を混ぜつつ原理をスムーズに進行させる重要な役割を持っていることは間違いありません。初めの頃はCATOの名前がなく、1974年にCharles HudsonによりCATTOの名前がつけられました。カットしてトップの2枚をひっくり返すのでCut And Turn Two Overの頭文字が使われています。1979年からは、2枚に限らず偶数枚をひっくり返すこともあることからTwoを省いてCATOに変更されています。 |
最初の改案が1948年に発表されますが、その現象が素晴らしく、こちらの方が原案より話題になったのではないかと思われます。Oscar WeigleのColor Schemeで、表裏バラバラに混ぜたのに、表向きカードが赤マークであれば裏向きが黒に分離する現象です。1948年のHugard’s Magic Monthly誌のマーチン・ガードナーのコーナーで発表され、49年には本人の改案が単独の冊子で販売され、50年には有名なScarne on Card Tricksにも掲載されます。これらによりこの作品がよく知られるようになります。現象の新しさだけでなく、方法においても新しい発想が加えられています。48年の解説時には、オーバーハンドシャフルで奇数枚ずつ取ると、赤黒交互関係が保たれることが解説されています。この発想は素晴らしいのに、その後、目立った活用がされていないのが残念です。例えば、オープンに表裏交互にした場合にCATOをしても、それ以上バラバラに混ぜた印象を与えることができません。それよりも、少しずらした3枚をテーブルへ置き、その上へ3枚や1枚をずらしながら重ねると、表裏がよく混ざったように見えます。もちろん、表裏交互が保たれています。また、49年の記載では、ダウンアンダーを半分の枚数まで行うことにより二つに分離して、一方をひっくり返す方法が用いられていました。 |
1981年にバーノンと共に来日されたフリーマンが演じられたのが1番目の画期的な方法です。20枚ほどのカードを客にシャフルさせた後、オープンに表裏を混ぜつつセットしていました。このような操作はこれまでになかった発想です。そして、最後にはロイヤルストレートフラッシュだけが表向いていました。彼の方法ではCATOを使っていません。その代わりに、偶数枚ずつ配る中で客の意思で時々ひっくり返していました。これも新しい考え方です。残念ながら、フリーマン自身は解説を発表していなかったようです。日本では1990年代にこの方法に関連した4作品が発表され、よく知られる現象となります。 |
2番目の画期的な現象が、1987年発行の「カードマジック入門事典」に掲載された「魔法の絨毯」です。カードを横4枚、縦4枚の縦長の長方形のカーペット状に並べられ、表向けられた数枚のカードにより大きなKの形を表示しています。これを縦横自由に折りたたんで一つの山にしてスプレッドすると、4枚のKだけが表向きで出現する現象です。1991年のApocalypse誌や1992年のドイツ語版ロベルト・ジョビの本でも同じ現象が発表されていました。そこではフランスのRichard Vollmerの方法とされています。Vollmer氏によりますと、元になる作品を友人から見せられて今回のような演出やセリフを加えたそうです。残念ながら、友人も誰かから見せられたようで、どこで誰からであったかは覚えていなかったそうです。結局、大きなKのマークが表示されて4Kが表向く演出の考案者を、Vollmerとして決定してよいのかが分かりませんでした。そうであれば、1987年以前には既に考案されていたことになります。 |
私が最も衝撃を受けたのが2000年のGenii誌5月号の藤原邦恭氏の「オートマチックエーストライアンフ」です。最後のローリングしながら一つのパケットにする発想も素晴らしいのですが、私が驚いたのは最初の部分です。それには理由がありました。スティーブ・フリーマンの作品の影響を受けた私は、違った方法で行うことを考えていました。そして、最初の表裏を混ぜながらセットする部分を大幅に変えて「スーパーセルフワーキング」の本に解説しました。5枚のフルハウスを表向きに並べて、その上へ3枚ずつ裏向きのカードを加えて演じていました。これが最後にはロイヤルストレートフラッシュの5枚だけが表向きとなって現れる現象です。この弱点は客にシャフルさせることができないことでした。フリーマンの方法の素晴らしさの一つが、客に自由にシャフルさせてから行える点です。それができないのが心残りでした。ところが、藤原氏の方法では同じようなカードの配置であるのに、その後、客にシャフルさせていたので驚いたわけです。後で冷静になって考えると、私と藤原氏とでは最初の状態がよく似ていても、状況が全く違っており、シャフルが可能なことが分かりました。しかし、解説を読んだ時にはシャフルしていることの衝撃が大きくて、冷静さを失っていたようです。 |
1994年にFISMが横浜で開催されました。その時にレクチャーされた中で、最も話題になったのがアリ・ボンゴの「ごちゃまぜ予言」です。原案はボブ・ハマーの「フェイスアップ・プレディクション」ですが、演出も方法も大きく進化しています。元になる作品が1980年のサイモン・アロンソンの “Shuffle Bored” と書かれている場合もあります。アロンソンは方法を一定度前進させましたが、現象は表向きになったカードの枚数を当てるだけです。その後、さらに方法が改良されただけでなく、現象が大きく進化しています。有名になるのは英国のアリ・ボンゴの方法です。 |
ボブ・ハマーの原案は “Half-A-Dozen Hummers” に解説された「フェイスアップ・プレディクション」です。意外であったのはシャフルがなかった点です。ただし、最初だけは客にシャフルさせて開始しています。セットやキーカードも使っていない点が優れています。デックから10数枚ずつの二つのパケットを分離させ、二つともに同数枚ずつ表向けてトップに置かせます。一つのパケットをデックの上へ戻させ、それを演者が背中へ回して少しの操作をした後、テーブル上の残りのパケットの上へ乗せています。デックの中の表向いている枚数と予言の数が一致する現象です。最後の段階でシャフルする方がよいと思うのですが、解説にはシャフルする記載がありません。 |
ごちゃまぜ予言の意外なクライマックスが素晴らしく、それ以上の改案はないと思っていました。ところが、面白い2作品が発表されることになります。いずれも日本の作品です。一つは2005年発行の加藤英夫著「教科書カーディシャン大学コース」に解説された「3つの予言」です。意外な結末として最後には4Aが登場します。2番目は2017年に商品化された「ふじいあきらの予言の書」です。第1の予言や最後の予言がコミカルで実践的です。さらに、方法も改良されていました。 |
数年前に藤原氏の作品を改案してマジック仲間に見せたことがありました。その時に「ごちゃごちゃしている」と指摘されました。表裏を混ぜた後、さらに、もっと混ぜているように見せる新しい方法を加えて演じたのが裏目に出たようです。また、私が所属していますマジッククラブの例会で、メンバーの一人が新しい考えの混ぜ方を多数取り入れて演じられました。個々の発想が素晴らしいのですが、多くのメンバーより「ごちゃごちゃしている」との指摘がありました。 |