ピット・ハートリングの “Master of The Mess” を読んだ時に強い衝撃を受けました。本当に表裏グチャグチャ状態から同じ向きにそろえていたからです。数回のフェロウシャフルの問題がありますが、頭の良い方法に感心させられました。さらに、全く別の発想で素晴らしい作品が発表されます。佐藤総氏の “Bushfire Triumph”です。不規則な表裏バラバラ状態から一気にそろいます。その映像を見ますと、インパクトの強さに圧倒させられます。 |
1946年の「スターズ・オブ・マジック」のシリーズ2にバーノンのトライアンフが発表されます。このシリーズには、当時の人気の高いマジシャンのマジックが解説されており、その代表がダイ・バーノンであり、この本の彼の最初の作品がトライアンフです。1982年にはバーノンのビデオシリーズが発行されますが、その第1巻の最初のマジックもトライアンフでした。ただし、バーノンがビデオで説明されている内容はトライアンフシャフルのことが中心でした。トップカードをずらす考えのクレジットとして、マクミランのライジングカードに使われていた方法を元にして、リフルシャフルに応用したものであると説明されていました。 |
この問題に関しては、2009年の “Magic Cafe Forum” に多数の投稿がされていました。それを抜き出してA4の用紙に印刷しますと10数枚になります。両者からいろいろな意見が出されましたが、その中でも代表的なものを報告します。 |
同時に二つの現象を見せるより、分けて見せた方がよいとの意見の元になっているのは、トミー・ワンダーの考えが大きく関係しているようです。そこで、この考えが生まれた背景を調べてみました。 |
1911年に重要なマジックの理論書が発行されます。Nevil MaskelyneとDavid Devant共著による “Our Magic” です。この本の中でルール4として、二つの現象を同時に生み出してはいけないと書かれています。観客は混乱し、どちらの現象もはっきりと受け止めることができないと厳しい指摘をされています。ただし、これを補正するかのようにルール5の中では、二つ以上の現象でもお互いに関連しているものであれば、それで一つの効果となると説明されています。これは同時に瞬間的に起こっている場合の状態です。結局、関連性のない現象を同時に起こすことを厳しく注意していることになります。トライアンフでは二つの現象が関連して同時に起こっているので、それで一つの現象となるわけです。もちろん、二つの現象として分けてもよいわけで、どちらを選んでもトライアンフは大いに受けるマジックであることには違いがありません。 |
一番の代表作はバックのカラーチェンジによるダブルクライマックス作品です。表向きに揃ったことを見せた後で、裏向きの客のカードを抜き出し、残りを裏向きにスプレッドするとカラーチェンジしています。1971年のディングルの作品が発表された後、同年にアッカーマンとブルース・サーボンも発表しています。1964年のハリー・ロレインの “Four of a Kind” では、最後に表向きにファンに広げて全ての向きが揃っていることを示しています。次に裏向けて大きくファンに広げると、最初に客の指定で選ばれてデックへ戻した4枚だけが表向きで現れます。こちらもダブルクライマックスですが、カラーチェンジほど強烈ではありません。 |
サプライズは結末の意外な驚きを、サスペンスは結末を知らせた上で途中経過のワクワク感を楽しませています。それぞれに利点と欠点があります。スターズ・オブ・マジックに解説されたバーノンのトライアンフは、サプライズのための巧妙な演出がなされています。客のカードをデックに戻させた後、意地悪な客に表裏を混ぜられてしまう演出です。「意地悪そうな目で笑いながら、さあ、なんとかしてみろと言われます。大きな危機ですが、ただあざ笑うばかりで、私の苦境を楽しんでいるようでした。それに対して、挑戦をお受けします、奇跡を期待されているようですので、それをお目にかけましょうと言って、デックをピシャリと叩きます」。デックを客に渡して、テーブル上にリボン状にスプレッドさせます。「この時の彼の顔つきを、みなさんにもご覧に入れたかったものですよ」。大幅にセリフは省略して変更を加えていますが、概要は分かっていただけたと思います。表裏を混ぜる不自然さを意識させず、最後まで客のカードを探し出すマジックと思わせている巧妙さがあります。だからこそ、最後に一気に裏向きに揃い、客のカードだけが表向きになっている驚きが強くなります。このストーリーを語ることにより、観客には騙された感を持たせず、第3者として結末のサプライズを楽しんでもらえる配慮もなされています。そして、トライアンフ(勝利)のタイトルがつけられた理由もわかったように思います。もちろん、このセリフ通りに演じる必要はなく、最後のスプレッドも演者自身が行っているマジシャンが多いと思います。 |
トライアンフは以前から取り上げようと思っていたテーマです。しかし、あまりにも作品数が多いために躊躇していました。トムソニーの本が発行されたことにより、トライアンフをまとめる決心がつきましたが、原案のバーノンの作品とそれに関連したことをまとめただけで、かなりの分量となりました。そこで、急遽、内容をそのことに集中するように切り替えました。トライアンフの分類やその後の発展変化は、別の機会に取り上げることにします。 |