シンパセティックシルクは、以前、ステージやテレビで良く見かけたマジックです。毎回、代りばえのしない内容で、私は見飽きてしまったマジックの一つでした。ところで、その後、あまり見る機会がないと思っていましたら、最近になって、立て続けに驚くべき内容で目にするようになりました。
|
日本では「6枚ハンカチ」と呼ばれて演じられています。その現象は、一方にバラバラの3枚を置いて、他方の3枚を結んで連結した後、別の位置へ置きます。結び目が移動するジェスチャーにより、バラバラの3枚の方に連結状態が移ります。そして、その後、この3枚もバラバラになります。つまり、6枚全てがバラバラになって終わります。
|
日本のマジック書や雑誌に解説されている場合、いずれにも原案者名の記載がありません。Riceの "Encyclopedia of Silk Magic" の日本語訳版が出版されていましたが、これは別です。代表的なものとして、高木重朗氏は、「奇術研究」8号、25号、56号の3回に解説しています。また、松田道弘氏は75年に日本文芸社より「シルク奇術入門」を発行し、その後、東京堂出版より少しだけ加筆され、「シルクマジック」として出版されています。これら以外の数冊の本にも解説されていますが、全く原案者名の記載がありません。
|
「ミステリアスシルク」のタイトルが付いています。バラバラの3枚のシルクを空中へ投げ上げて、落下したのを受け止めると、3枚がつながっています。もう一度投げ上げて受け止めると、バラバラに戻ります。
|
私が調査した範囲では、イギリスのマジック月刊誌 "MAGIC" の1920年1月号が最初でした。それ以前に、既に解説されている可能性もありますが、1910年代後半のマジック文献の発行がかなり制限されています。1914年に第一次世界大戦が勃発したためで、上記の "MAGIC" 誌も14年9月号から19年8月号まで休刊しています。それでも、イギリスでは数冊のマジック誌発行が継続されていますが、その中にもなさそうです。
|
ターベルシステムは、1926年に制作され、27年に発行されたもので、レッスン60まであります。これを元にして、内容が追加されて、タネン社から発行されたのがターベルコースです。1941年に第1巻が発行され、その中にシンパセティックシルクの解説があります。イラストが多数使われ、分かりやすい内容になっています。このシンパセティックシルクに関しては、解説文もイラストも、27年のターベルシステムの記載がそのまま使用されています。最初に6枚をカウントしてバラバラなように見せていますが、3~5枚目はつながっています。前記の "MAGIC" 誌のように、横向きになってカウントしていませんが、巧妙なアクションが加えられ、6枚ともバラバラな印象を与えています。このカウントの別法として、結ばれた3枚とバラバラの3枚を、スイッチする方法が解説されています。また、バリエーションとして、イスの背もたれに6枚のシルクをぶら下げて、バラバラなように見せて行う方法も解説されていました。 |
上記でも報告しましたように、1937年に解説されたビクターの方法は、彼の本来の方法ではなく、別法のスタンドを使用するものでした。95年にRae Hammondによるエドワード・ビクターの本が発行され、その中でシンパセティックシルクについても触れられています。60年のイギリスのマジックサークルのラウンド・テーブルでの会話が、テープに録音されていたのを元にしています。それによりますと、H.G.Hunterとは二つのことを話題にして話し合ったそうです。一つは、結ばれたシルクを結ばれていないシルクのようにカウントする方法です。もう一つは、本結びからスリップノットに変換する方法についてです。この会話から、ビクターのシンパセティックシルクがイメージされたとあります。結局、この会話の内容は,ハットン&プレートの本の記載が元になっているのが分かります。その本には,結ばれた3枚がバラバラであることを強調する記載がなかったことと、スリップノットも、二つの端を並べて、一方を他方に巻き付ける不自然で手間のかかる方法が解説されていたからです。
|
2枚のシルクを連結した後、解くことが容易な結び目の作り方として、代表的な方法が三つあります。41年のターベルコース第1巻には、その三つの方法が解説されています。一つ目は、スリップノットにする結び目の作り方です。シンパセティックシルクでは、ほとんどの場合、スリップノットが使われています。スリップノットにするには、いくつかの方法がありますが、ターベルが解説しているのは、本結びを作っているように見える方法で、スライディーニ・ノットに近いものといえます。
|
石田天海の「6枚ハンカチ」には、この結び方が採用されています。石田天海氏のマジックを研究されています小川勝繁氏によりますと、天海氏の考案による方法である可能性が高そうです。1975年に、石田天海追悼の会より発行されました「天海メモ4 シルク編」の14ページには、天海の6枚ハンカチの結び方についての記載があります。具体的な解説は省略されていますが,「天海創案の結び方」(引き抜きにあらず)で結ぶと書かれています。天海氏の考案が証明出来る文献があればと思い調査しましたが、はっきりと書かれたものを見つけることが出来ませんでした。
|
You Tubeで Sympathetic Silks を検索しますと、レベントの映像を簡単に見つけることが出来ます。彼の演技の第1段は、一般的な結び目の移動現象として演じています。ただし、分かりやすさと面白くするために"KNOT"と"NOT"の文字版を、シルクを置くイスの背もたれに付けています。移動現象として示すために、Kの文字版をはずして、他方の"NOT"のトップに加える演出にしています。第2段の時には,このKの文字版を手に持って床上を歩かせるユニークな操作を加えています。そして,変わっているのが,第2段での結び目移動です。3枚の一端をまとめて結び,2端を左右の手に持って、Y字型で示しています。この連結状態が他方へ移動します。その後,バラバラの3枚のシルクから,次々と大きな品物が出現します。最後にウサギの人形を取り出しているのが、レベントらしくて楽しい演技になっています。なお、2枚の連結には,スリップノットが使われていました。
|
この方法については,2008年に発行されたDVD「石田天海の研究第1巻」により,詳しく知ることが出来ます。松浦天海氏による石田天海の方法の改案の実演と解説,そして、天海本来の方法を小川勝繁氏による実演と解説がされています。さらに,嬉しいことには,天海氏自身が演じている白黒の古い映像も見ることが出来ます。これだけで十分ですが,すぐに練習出来るように,テンヨー社から「石田天海の6枚ハンカチーフ」の商品が販売されています。大きな厚地のシルク6枚とイラスト入りで分かりやすい解説がついています。また、1986年の "The New Magic Vol.25 No.1"から87年のVol.26 No.3までの8回にわたり「6枚ハンカチ物語」が連載されていました。フロタ・マサトシ氏による解説ですが,方法の習得のためには,上記の二つを参考にされる方が分かりやすいと思います。「6枚ハンカチ物語」は長い連載であるのに、重要な結び目の解説を省略していることには驚きましたが,いろいろ参考になる記載があり,学ばせて頂きました。
|
今回はシンパセティックシルクの初期の方法と考案者、そして、解ける結び方を中心に報告しました。また、気になる作品の石田天海氏の方法とレベントの方法についても触れました。今回の調査により,海外の文献では,スタンドや特別な用具を使った解説がよく目につきました。6枚をぶら下げて,そこから3枚を取るとバラバラのようで,実はつながっている仕掛けです。最初のカウントによるあらためが省略出来,時間短縮になります。また、3枚の一端をいっしょに結んで,Y字型に広げて示す作品もいくつか発表されていました。これらは、日本ではほとんど見かけない方法です。
|