1977年発表のポール・ハリスのリセットは、ブラザー・ジョン・ハーマンの作品の一つの改案にすぎません。しかし、その見事な改良と新しい発想がマニアの注目の的となります。そして、大きなテーマの一つとして発展します。このような大きな話題になるとはポール・ハリスも考えていなかったと思います。彼のリセットは、各部分がほれぼれするほどの頭の良い着想に満ちています。しかし、演じてみようとは思いません。どちらかと言えばマニア向きであるからです。それではハーマンの原案の方が一般客向きかといえば、そうとも言えません。ハーマンの場合はシンプルな入れ替え現象であるのはよいのですが、リセット以上に問題点が多かったからです。ところが、次々に改良が加えられ、2000年以降では入れ替わり現象だけの方がリセットの発表作品数を上回っています。どのような問題点があり、どのように変化発展しているのかを中心に報告することにします。
|
1977年のポール・ハリスの「スーパーマジック」の本にリセットが発表され、私も興味を引きつけられました。4枚のエースと4枚のジャックが示されて、4枚のジャックは裏向きでテーブルへ置きます。手に持っている4枚のエースが、1枚ずつ4枚のジャックに変わります。リセットボタンを押すと言って、パケットのバックを押さえると、元の4枚のエースに戻ります。テーブルの4枚のジャックは、そのままであることが示されます。この解説にはブラザー・ジョン・ハーマンの作品が原案として報告されています。それが「アンダーグラウンド・トランスポジション」と呼ばれている作品です。4枚のキングと4枚のエースが示されて、まず、2枚ずつが入れ替わります。3枚目も入れ替わり、4枚目も入れ替わります。そして、この4枚ずつを使って、フォロー・ザ・リーダーの現象に続けています。 |
問題点よりも先にすばらしさから報告します。まず、いくら強調してもしすぎることがないのが8枚だけで行っている点です。しかも、レギュラーカードだけです。このことは声に出さない場合でもアピールすべき点です。余分なカードやトリックカードを使う時は、上記のことを犠牲にしてでもそれ以上の効果をあげる場合に限定した方がよいのではないでしょうか。クロースアップショーとして少し派手さのある現象を見せたい場合や、特別のマニア相手の場合が考えられます。
|
リセットの問題点として、最初に疑問に感じたことがあります。入れ替わる現象であるのに、何故、テーブルのパケットは入れ替わったことを見せないのかといった点です。最後で、そのパケットが元のままであることを示して終わっていますが、一般客はそれで納得しているのか疑問に感じています。 |
エルムズリーカウントは1枚目と4枚目に同じカードが現れます。同じカードが見えても問題のない使い方が理想的であるわけです。カードの裏を使ったり、ブランクカードや同じ絵のカードの使用が理想です。エルムズリーが最初にこのカウントで発表したトリックが、1959年の「フォーカードトリック」です。青裏のブランクフェイスを使った作品で、1枚のジョーカーが現れ、消えたりひっくり返ったりした後で最後に赤裏のジョーカーとなります。この作品の翌年の1960年にダイ・バーノンの「ツイスティング・ジ・エーセス」が発表されています。この作品により、エルムズリーカウントが一躍有名になります。裏向きの4枚で、1枚だけが表向きとなり、カウントする度に違うマークのエースに変わります。私が現在でもレパートリーにしているマジックランド社製の「ニンジンとウサギ」では絵のカードが使われています。4枚のニンジンの絵のカードと、その裏のそれぞれが帽子の絵になっています。1匹のウサギが現れ、意外なニンジンも出現するクライマックスになっています。いずれも、エルムズリーカウントの理想的な使い方がされています。そして、この3作品とも最後にカードを客に渡してのあらためが可能です。 |
1977年にリセットが登場する以前にも、ハーマンの原案を改良した作品がいくつか発表されていました。それらもよく考えられています。1970年発表のジョン・ラッカーバウマーの作品では、4Aと4枚のブランクカードが使われています。4Aの印刷がブランクカードへ移動するといった演出です。1枚のブランクカードだけは他面がスペードのAになっています。ブランクカードの使用により、エルムズリーカウントの問題が解決しています。1974年のエド・マルローの作品では、赤裏の4Qと青裏の4Kを使っています。カードの裏を使って、裏の色が次々と入れ替わる現象です。それにより、エルムズリーカウントの問題をなくしています。1976年のフィル・ゴールドステインの作品では、一方の表向きのパケットが、カウントするたびに次々と裏向きになります。その4枚を表向けると他方の4枚に変わっています。これには、黒い数のカード4枚と赤い数のカード4枚が使われ、それにより、エルムズリーカウントの問題を少なくしています。ゴールドステインの作品は、その後、J. C. ワグナーにより4Aと4Kを使い、少し方法を変えて演じられています。ゴールドステインの作品もすばらしいのですが、その1年後に発表されたリセットの新鮮さとインパクトに話題が集中することとなります。 |
リセットを単一のパケットで演じる試みが早い段階で発表されています。この方が一般客にも変化現象として分かりやすいのかもしれません。そして、途中で現れて消えたパケットを、1981年のドン・イングランドはデック中央より表向きで出現させています。また、デビッド・ソロモンは四つのポケットより1枚ずつ取り出しています。 |
クライマックスとして二つのパケットが交互に混ざり合う現象が数作品発表されています。その最初が1988年の岸本道明氏のマーベラスです。パケットの入れ替わり現象の最後に二つのパケットが混ざり合います。1993年のランディー・ターナーの方法ではリセット現象の後で交互に混ざり合うクライマックスとなります。そして、2012年のステラでは、佐藤喜義氏がリセット後に混ざり合うだけでなく、裏表交互にしています。これらは全て同じマークが隣り合うようにペアとなる細かい配慮もされているのが特徴です。驚いたのは佐藤氏の夕暮のステラです。裏表交互に混ざった表向きの4枚を取り出して裏を見ると、バラバラの裏の色となっています。もちろん8枚だけの使用で、トリックカードは使わず、タウンゼンドカウントや各種のカウントを駆使して作り上げられています。驚きの1作品と言えます。 |
今回の調査でリセットもパケットトランスポジションもいろいろと発展していることが分かりました。しかし、見せる対象が一般客かマニアか、また、テーブルを囲んでの数名かクロースアップショーとしての多い人数かにより、見せる内容を変えるべきであるとも思いました。 |