シェファロの結び目 “Chefalo Knot” は昔からよく知られた結び目トリックです。8の字状になった結び目のイラストが特徴的です。また、それを解くためにロープの一端を絡ませているイラストも有名です。日本では、マジックの情報が少なかった1950年代から既にいくつもの文献に登場しています。1970年代では子供向けのマジック書にも解説されるほどのポピュラーなマジックです。ところが、最近ではシェファロの結び目の名前を知らないだけでなく、この結び目のことを知らないマニアが多くなりました。この結び目の改案作品は多くないのですが、海外よりも日本で素晴らしい発想が発表されています。1951年に柴田直光氏、1956年に石田天海氏、1972年に松山光伸氏の発想には感心させられます。特に石田天海氏の方法には感激させられました。奇術研究2号には解説されていることを知っていましたが、小川勝繁氏に見せていただいて、そのような素晴らしい方法であったのかと再認識させられました。残念なのはこれらの方法が海外では知られていないことです。 |
一般的な結び方である本結びは、海外ではシングルノットを2回繰り返すことからダブルノットと呼ばれています。シェファロの結び目は2回目のシングルノットとの間に大きなループを保った状態にしています。1回目にからませた部分の下側にあるループと2つ目のループがほぼ同じ大きさであり、8の字の形になっています。この状態から、一方のロープ端だけを使って、それぞれのループを通過させて解いています。面白い点が、先に上側のループを通過させるのではなく、下側のループを先に通過させて解いている点です。問題点としてはマジックというよりもパズルのような印象があり、それほど不思議に思ってもらえない点です。ところが、なぜ解けるのかを考えた時に不思議さが急上昇します。解けるメカニズムが単純ではありません。また、特別な形の8の字ではなく、ゆるく結んだ本結びを作って演じると不思議さがかなりアップします。本結びの場合には、そのような方法で解けるとは思えないからです。応用の仕方により、まだまだ面白い現象が可能となりそうです。 |
海外での改案発表は思っているほどはありませんでした。主な改案は二つだけです。一つ目はロープ中央にリングを通した状態でのシェファロノットです。リングが脱出するだけでなく結び目も解けます。二つ目は三つ以上のループを作った場合の解き方です。一つ目のリングの使用はチャールズ・ジョーダンが最初に考案し、商品化して販売されています。ロープ中央に三つのカーテン用リングを通し、客が指定した数のリングがロープから外れます。結び目は解けて、残りのリングはロープに通ったままです。これが本で解説されたのは1975年ですが、考案年や販売された年が分かりません。1941年に発行されたロープ百科事典の第1巻には、ジョーダンの名前で1個のリングだけを外す方法が解説されていますので、それ以前となります。 |
シェファロ “Raffaele Chefalo” は1885年のイタリア生まれで、12才の1897年に両親と米国へ移住しています。10代で既にスライハンドとイリュージョンでプロデビューしています。そして、1912年の英国の本で初めてシェファロの名前がつけられた結び目ほどきの方法が登場することになります。Will Goldston著 “Exclusive Magical Secrets” に ”The Chefalo Disappearing Knots” のタイトルで 発表されます。この本は鍵がつけられた本としても有名です。この本の冒頭で4ページもかけて解説するほどの力を込めたものになっています。 |
シェファロの結び目の考案者がシェファロではないことが分かった時の私の衝撃はかなりのものでした。しかし、それ以上の衝撃は、最近のマニアがシェファロの結び目の名前を知らないだけでなく、その存在すら知らなかったことです。また、シェファロの結び目が解説された文献を調べる中で、海外では思っていたほどの新しい発展がなかったのも意外でした。日本の3名の発想の方が斬新で大きな刺激を受けました。今回、このテーマでまとめようと思ったのは、上記のこと以外にもう一つの理由がありました。天海氏や松山氏からの刺激を受けて、私も3作品を完成させることができたからです。縦結びやマジック的に見せる考え方を使っています。さらに、本結びを使う場合に加えた考えが、上側のループを作らずに本結びの状態にして、下側のループだけにしたことです。シェファロの結び目の考えを使うのですが、この方が解くことの困難性が分かりやすく、興味を持ってもらえます。このことにより、より一層マジック的要素がアップされるのではないかと考えています。この3作品は2018年には発表する予定です。なお、今回も分かった範囲だけですが、シェファロの結び目の文献一覧を記載しました。
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