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コラム



第82回 シェファロの結び目と日本での改良(2017.12.08up)

はじめに

シェファロの結び目 “Chefalo Knot” は昔からよく知られた結び目トリックです。8の字状になった結び目のイラストが特徴的です。また、それを解くためにロープの一端を絡ませているイラストも有名です。日本では、マジックの情報が少なかった1950年代から既にいくつもの文献に登場しています。1970年代では子供向けのマジック書にも解説されるほどのポピュラーなマジックです。ところが、最近ではシェファロの結び目の名前を知らないだけでなく、この結び目のことを知らないマニアが多くなりました。この結び目の改案作品は多くないのですが、海外よりも日本で素晴らしい発想が発表されています。1951年に柴田直光氏、1956年に石田天海氏、1972年に松山光伸氏の発想には感心させられます。特に石田天海氏の方法には感激させられました。奇術研究2号には解説されていることを知っていましたが、小川勝繁氏に見せていただいて、そのような素晴らしい方法であったのかと再認識させられました。残念なのはこれらの方法が海外では知られていないことです。

今回、シェファロの結び目をテーマに取り上げたのは上記のことだけでなく、シェファロが考案者ではないのに彼の名前がついた結び目になってしまった経過が分かったからです。シェファロ自身もはっきりと否定されています。彼が活躍していた時代よりも200年ほど前のマジック書には既に掲載されています。いつからそのような間違った記載になったのかが分かりました。さらに、最初の頃から最近までの歴史経過と発展も調べました。

シェファロの結び目について

一般的な結び方である本結びは、海外ではシングルノットを2回繰り返すことからダブルノットと呼ばれています。シェファロの結び目は2回目のシングルノットとの間に大きなループを保った状態にしています。1回目にからませた部分の下側にあるループと2つ目のループがほぼ同じ大きさであり、8の字の形になっています。この状態から、一方のロープ端だけを使って、それぞれのループを通過させて解いています。面白い点が、先に上側のループを通過させるのではなく、下側のループを先に通過させて解いている点です。問題点としてはマジックというよりもパズルのような印象があり、それほど不思議に思ってもらえない点です。ところが、なぜ解けるのかを考えた時に不思議さが急上昇します。解けるメカニズムが単純ではありません。また、特別な形の8の字ではなく、ゆるく結んだ本結びを作って演じると不思議さがかなりアップします。本結びの場合には、そのような方法で解けるとは思えないからです。応用の仕方により、まだまだ面白い現象が可能となりそうです。

海外と日本での改案

海外での改案発表は思っているほどはありませんでした。主な改案は二つだけです。一つ目はロープ中央にリングを通した状態でのシェファロノットです。リングが脱出するだけでなく結び目も解けます。二つ目は三つ以上のループを作った場合の解き方です。一つ目のリングの使用はチャールズ・ジョーダンが最初に考案し、商品化して販売されています。ロープ中央に三つのカーテン用リングを通し、客が指定した数のリングがロープから外れます。結び目は解けて、残りのリングはロープに通ったままです。これが本で解説されたのは1975年ですが、考案年や販売された年が分かりません。1941年に発行されたロープ百科事典の第1巻には、ジョーダンの名前で1個のリングだけを外す方法が解説されていますので、それ以前となります。

二つ目の多くのループを作って解く方法で有名なのは、1942年のターベルコース第2巻のターベルの方法です。ターベルはシェファロの結び目を3回繰り返して作り、六つのループができた状態にしてから解いています。ターベル以前から多数のループを作って解く方法が行われていたと思いますが、誰が最初であるかは分かりませんでした。1962年のロープトリック百科事典第2巻には、ジャラルド・ローによりループが奇数個の場合と偶数個の場合の解き方の方法を発表されています。これは、日本では2010年発行の世界のロープマジック1の中で解説されていますので参照してください。 海外に比べて日本の改案はかなり違った発想で発表されていますので感心させられます。1951年の柴田直光氏の方法では、8の字状態でループが上下になっているものを左右に分離させていました。慣れると結構すばやく分離させることができます。ただし、マジックとしてどのように応用するかが今後の問題です。1983年にインドの学生により、両端が固定されたロープで、シャファロの下側の結び目をリングに通した状態から、リングを上の結び目へ移動させる方法が発表されます。これを行うためには、一度は左右に分離させた後で前回とは違う戻し方をすると入れ替えができます。マジックというよりもパズルになっている点が残念です。

実践的な方法の改案が1956年の奇術研究第2号で発表された石田天海氏の方法です。8の字の結び目を作る部分のハンドリングがスマートで、8の字をしっかりと示した後でマジック的に解いているのが特徴的です。本来であればロープの一端をそれぞれのループに通過させるのですが、天海氏の方法ではそのような操作をしたように感じさせずに、ゆっくりと解ける状態を見せています。パズル的要素のあるシェファロの結び目を、天海氏はマジック的要素が強くなるように改良されたと言えます。両端を引っ張ると結び目が小さくなり、最後には消えるように結び目がなくなります。これは天海氏が1950年代中頃にロサンゼルスでのラウンドテーブルで考えを出し合った中で完成させたとのことです。ところで、天海氏は1934年の演目ではシルクを使ったシェファロの結び目を演じられています。これは1937年発行のMax Holdenによる各マジシャンの演目紹介の冊子の中で報告されていました。その頃の方法は原案に近いと考えられますが、シルクを使うとロープとは違った印象になると思います。ハンカチを使う方法は1900年の本に解説されていますが、シルクほどのスマートがなかったのではないでしょうか。なお、1962年のライスのシルク百科事典第3巻にはシルクを使う方法で解説されていますが、天海がシルクを使って演じられていたことは書かれていませんでした。1972年に松山光伸氏は多数のループがある場合の解き方だけでなく、縦結びが混ざった場合の解き方も研究されて解説されていました。さらに、新たな独自の解き方も発表されています。特に縦結びの考えを取り入れられたことは画期的で、私も大いに刺激を受けました。

考案者ではないシェファロの名前がつけられた経過

シェファロ “Raffaele Chefalo” は1885年のイタリア生まれで、12才の1897年に両親と米国へ移住しています。10代で既にスライハンドとイリュージョンでプロデビューしています。そして、1912年の英国の本で初めてシェファロの名前がつけられた結び目ほどきの方法が登場することになります。Will Goldston著 “Exclusive Magical Secrets” に ”The Chefalo Disappearing Knots” のタイトルで 発表されます。この本は鍵がつけられた本としても有名です。この本の冒頭で4ページもかけて解説するほどの力を込めたものになっています。

ところで、この結び解けが解説された最も古いマジック書は、今のところ1694年のフランスのOzanamの本となるようです。この本にはこの方法の考案者名もタイトルの記載もありません。8の字になった特徴的なイラストと、解くためにロープの一端をそれぞれのループに通しているイラストが描かれています。そして、簡単な説明があるだけです。その後、1733年にはOzanamの影響を受けたスペインのPabloの本にもイラストと共に解説されています。1900年には英国のStanyonによる小冊子 “New Handkerchief Magic” にハンカチを使った方法で解説されます。いずれにしても、20世紀初めにはそれほど知られていなかったようです。

シェファロは世界中をツアーしていたイリュージョニストです。ミルボーン・クリストファーが彼とドイツで会った時に、シェファロの結び目となった経緯を告げられました。Will Goldstonがシェファロに何も聞かずに、勝手にシェファロの名前をつけてしまったそうです。その後、この結び目の名前が後の参考文献一覧でも分かりますが、海外の多くの本でシェファロの結び目の名前が使われて一般化されるようになります。2007年の電子書籍版 Whaley のマジック百科事典では、1733年のスペインのPabloの本に記載されていたとの報告があります。しかし、それ以前のフランスのOzanamの本については触れられていませんでした。2011年発行のGibeciere Vol.6 No.1にOzanamの本が英訳されたことにより、その中で解説されていたことが広く知られることになります。ところで、それ以前にもOzanamの本に解説されていることを報告していた人物がいたことも分かりました。1939年のThe Linking Ring誌 10月号に、ヒューガードがシェファロの結び目についての記載の中で、Ozanamの時代に図で描写されていることを報告していました。なお、スペインのPabloの本も2009年発行のGibeciere Vol.4 No.2 に英訳されており、この結び目のイラストと解説の記載が確認できました。

おわりに

シェファロの結び目の考案者がシェファロではないことが分かった時の私の衝撃はかなりのものでした。しかし、それ以上の衝撃は、最近のマニアがシェファロの結び目の名前を知らないだけでなく、その存在すら知らなかったことです。また、シェファロの結び目が解説された文献を調べる中で、海外では思っていたほどの新しい発展がなかったのも意外でした。日本の3名の発想の方が斬新で大きな刺激を受けました。今回、このテーマでまとめようと思ったのは、上記のこと以外にもう一つの理由がありました。天海氏や松山氏からの刺激を受けて、私も3作品を完成させることができたからです。縦結びやマジック的に見せる考え方を使っています。さらに、本結びを使う場合に加えた考えが、上側のループを作らずに本結びの状態にして、下側のループだけにしたことです。シェファロの結び目の考えを使うのですが、この方が解くことの困難性が分かりやすく、興味を持ってもらえます。このことにより、より一層マジック的要素がアップされるのではないかと考えています。この3作品は2018年には発表する予定です。なお、今回も分かった範囲だけですが、シェファロの結び目の文献一覧を記載しました。


【参考文献一】

1694 Jacques Ozanam Recreations Mathematiques Et Physiques (フランス語)
     考案者名とタイトル名なし 二つのイラストと簡単な説明
     2011年発行のGibeciere Vol.6 No.1にOzanamの本が英訳
1733 Pablo Minguet An Enganos A Ojos Vistas(スペイン語)
     一つのイラストと解説
     2009年発行のGibeciere Vol.4 No.2 にPabloの本が英訳
1900 Ellis Stanyon Stanyon’s Serial Lessons in Conjuring
     No.4 New Handkerchief Tricks Quadruple Vanishing Knot
      ハンカチを使った結び目解き     
1912 Will Goldston Exclusive Magical Secrets
     The Chefalo Disappearing Knots 初めてシェファロの名前を使用
1926(27) Harlan Tarbell Tarbell System Lesson 37
      Chefalo’s Knot 
1941 Stewart James Abbott’s Encyclopedia of Rope Tricks
     Chefalo’s Vanishing Knot
     C.T.Jordan’s Mystifying Knot Trick ロープ中央にリング
     2010年 世界のロープマジック1に2作品とも和訳にて
1942 Harlan Tarbell The Tarbell Course in Magic Vol.2
     Chefalo’s Knot
     Tarbell’s Triple Chefalo Knot 6個の輪を作る(2個の輪を3回)
1948 Harlan Tarbell The Tarbell Course in Magic Vol.5
     Chinese “Chefalo” Knot 布テープ使用 ターベルの中国風ショーにて
1951 柴田直光 奇術種あかし
     結んで解く 2回結ぶだけでなく数回結ぶ方法も記載
     2階造りの輪 上下の輪を左右の輪に変換
1956 石田天海 奇術研究2号 結び解けるロープ操作の改良
1956 Martin Gardner Mathematics Magic and Mystery Chefalo Knot
     1959年と1999年に金沢養訳にて「数学マジック」発行
      シェファロの結び目の名称にて掲載
1962 Stewart James Abbott’s Encyclopedia of Rope Tricks Vol.2
     マーチン・ガードナーのシェファロ・リリース ハサミの柄に通して
     ジェラルド・ローのシェファロ・デベロップメンツ 多数のループ
     2010年 世界のロープマジック1に2作品とも和訳にて
1962 Rice’s Encyclopedia of Silk Magic
     Flight of The Quadruple Knot シルクを使用
1967 柳沢よしたね 一週間・奇術入門 ひょうたんむすび
1968 John Fisher’s Magic Book Knots and No Knots
1970 石川雅章 奇術と手品の習い方 ひょうたん結び
1972 松山光伸 Maniac No.1 マルティプル・ノットの研究
     シャファロの結び目解けの応用と新しい結び目解けについて
1972 高木重朗著 少年百科 手品・奇術・タネあかし(日本文芸社)
     消える結び目 「シェファロの結び目」と呼ばれている
     この結び目を使ったロープクイズ
1975 Charles T. Jordan Collected Tricks
     The New Rope and Ring Release 3個のカーテンリング使用
1976 高木重朗著 ロープ奇術入門 (日本文芸社)
     消える結び目 シェファローの方法
1977 高木重朗著 小学館入門百科シリーズ マジック入門 結べないひも
1977 小泉準司 藤田茂共著 手品と奇術(マンガで大公開)
     四つの輪 余はナポレオン(不可能を可能にする)
      マジックテープ使用の方法と本当に結んで解く方法
1978 三宅邦夫 大竹和美 山崎治美共著 先生も子供もできる手品遊び
     解ける輪
1983 Manjunath M. Hedge Epoptica No.4
     Chair, Rope, and Finger Ring Puzzle
     1999 マーチン・ガードナー・マジックの全てに日本語で再録
      下側の結び目のリングを上の結び目へ移動させる
1990 Magic City Library of Magic Rope Magic Chefalo Knot
2010 世界のロープマジック1 4作品が和訳にて
     Abbott’s Encyclopedia of Rope Tricksの2005年度版の和訳


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