石田天海氏とダイ・バーノン氏がロープによる指ぬきマジックを考案されていたことが意外でした。「ロープパズル」のタイトルで発表されています。それとは方法が全く違うのですが、同じような原理を使った指から抜ける方法があやとりの本に解説されていたのも意外でした。さらに、そのあやとりの方法の元になるのが1951年発行の柴田直光著「奇術種あかし」の可能性があるのも意外でした。
マジックとしてよく知られている客の指から抜ける方法がありますが、ダイ・バーノンのお気に入りの方法があることが分かりました。シンプルで感心させられる方法ですが、これまでほとんど知られていなかったのも意外です。ところで、海外の方法では右指だけの操作で行うのですが、日本のあやとりの本では両指を使う独自の考え方が加わっています。そして、柴田直光氏の本の方法も両指を使っており、日本のあやとりとの関係に興味がわきます。 |
1953年にダイ・バーノンがルー・ダーマン宅にて天海氏に指ぬきマジックを見せています。それを改案した天海の方法が、1971年のGenii誌5月号に「天海のロープパズル」のタイトルで解説されました。”Do As I Do” の現象で、客と演者が同様に行うのに演者は指からロープが抜け、客のロープは指に絡まってしまいます。10枚の写真付きで解説されているのですが、手もロープも白いために、手とロープが重なっている部分のロープの状態がほとんど分かりません。また、指から抜けるようにするための重要な部分の詳細がわかりません。肝心な部分の写真と解説が抜け落ちているようにも思えます。勝手な解釈でスムーズに行える方法を考えましたが、それが正しいのかどうかが分かりません。 |
私が所属していますRRMCの例会で「バーノンのロープパズル」を演じました。その時に、メンバーである福島さんより同じような原理を使った別の方法を見せていただきました。マジックをされていない父親より教わった方法とのことです。この方法であれば楽に行うことができます。これに関してはあやとりの本に解説されている可能性を考えました。あやとりの本は近くのショッピングセンター内の書店で20冊もあり、大阪の大きな書店である丸善ジュンク堂書店で36冊もあることには驚きました。そして、それらの中の有木昭久著の本で福島さんの方法に近い指ぬきを見つけることができました。 |
日本ではよく知れれている代表的な指ぬきですが、60歳以上と40歳代以下のマニアとでは、知っている方法が違っている可能性があります。60歳以上のマニアは、1956年発行の柴田直光著「奇術種あかし」で覚えられた可能性が高く、この本は70年代ごろまで何度も再販されています。それに対して、40歳代以下のマニアは1974年に発行された高木重朗著「奇術入門」の方法の影響が大きいと考えられます。この本は1976年発行の高木重朗著「ロープ奇術入門」や1987年の「ロープマジック」にも再録されています。また、2011年発行のゆうきとも著「ウケる手品」では少し方法が改良されて解説されています。
この二つの方法には大きな違いがあります。柴田氏は両手を使って操作しているのに対して、高木氏は右手だけの操作で行なっているからです。さらに興味深いことは、海外の本で調べますと右手だけの方法しか記載がありませんでした。つまり、高木氏は海外の文献からの影響を受けた解説と言えます。ただし、海外の文献では2本の指を使う方法ばかりですが、高木氏やゆうき氏の方法は3本の指を使う違いがありました。ところで、最近の日本のあやとりの本では両手を使う方法が発表されており、これは柴田氏の本の影響があるのかどうかが分かりません。なお、日本では柴田氏の本以前では見つけることができませんでした。 |
1981年の京都のマジックの催しで、ジャグラー禎一氏が少し変わった指ぬきを演じられました。ロープの中央に直径10センチほどの輪を作って口にくわえ、この輪に右人差し指を入れて左右のロープに絡ませた後、指先を鼻に当てられました。口からロープを離しますと、鼻に当てた指に絡まっていたロープが抜けて外れました。初めて見た現象ですが、日本の昔から伝わっている方法だと思っていました。ところが、江戸時代の文献では見つけることができず、その後の文献では十分な調査ができていませんが、やはり見つけることが出来ませんでした。海外の文献でも探しましたが、同様なものがありませんでした。 |
最近ではあやとりの本が多数発行されているだけでなく、その中に多数の指ぬきマジックが解説されていることには驚きました。私もかなり昔にはあやとりに興味があり、その中での指ぬきはよく行っていました。その時の方法は現在でも多くのあやとりの本に解説されているものです。片手の各指にひもを絡ませて次々と抜けるものや、隣の指へヒモが移るものなどです。しかし、今回取り上げたそれぞれの方法は、当時には解説されていなかったと思います。また、現在でもごくわずかの本にしか解説されていません。 |