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コラム

第109回 ファローシャフルの歴史と意外性(2023.05.18up)

はじめに

リフルシャフルをテーブル上で1枚ずつ交互に行うのは不可能に近いことです。つまり、パーフェクトなリフルシャフルです。そのようなシャフルを名古屋の谷川徹雄氏(1987年死亡)や大阪の中村正則氏(1997年死亡)が行なっていたことで有名でした。実際にはリフルシャフルのように行うファローシャフルであったのか分からない状態です。トン・小野坂氏やジョニー広瀬氏からのお話では、谷川氏の場合は2枚ずつ交互にずれた状態にもされていたそうです。

最近になってRyan Murrayによる恐ろしいファローシャフルの技術の本が発行されました。これまでには考えられなかった方法の解説です。本来のファローシャフルは1枚ずつ交互のパーフェクトなシャフルができますが、それを1枚と2枚が交互になるようにしていました。さらに、1枚と3枚を交互にするシャフルも解説しています。もちろん、1回のシャフルでそのようにしていました。それだけでなく、テーブル・ファローシャフルは難しくないことや、2回のシャフルで2枚ずつ交互にずれた状態にする方法も解説されています。この本の日本語訳版が、2022年11月に富山達也訳・齋藤修三郎編集により小石川文庫から発行されました。

ファローシャフルに関しては、2002年のフレンチドロップ・コラムで「ファローシャフルに対する私の考え」、2003年には「ファローシャフルはトップからかボトムからか」を掲載しました。今回は歴史を中心に報告することにしました。以前の調査時に比べて歴史がいろいろ分かってきたからです。なお、技法名はFaro Shuffleが一般的ですが、英国ではWeave Shuffleの名前もよく使われています。また、Faroのカタカナ表記を今回からはファローを使うことにしました。

1894年のファローシャフル解説文献とそれ以前の状況

初期のファローシャフルの解説は1894年の英国のマスケリン著 ”Sharps and Flats” 本と、同年に発行された米国のKoschitz著の本がよく知られています。特にマスケリンの本は初めの頃の代表的著書とされ 「ファロー・ディーラーズ・シャフル」 の名前で解説されます。シャフル時の2つのイラストがあるのですが、いずれもカードが描かれているだけで、カードを持つ手が描かれていません。解説でも分割したデックのエンド部を持って2つの山に圧を加えて湾曲させる記載だけで、持ち方の解説がありません。イラストの1つは、接触している内側のエンド部に圧が加えられ下方に湾曲した山が描かれ、2つ目は各山の上から1枚ずつ交互に外れて噛み合わさる状態が描かれています。このイラストを見ますと、初めの頃は上から噛み合わせる方法であったのかと思ってしまいます。この問題は次で詳しく報告させて頂きます。そして、米国では同年にKoschitz著の本が発行され、Butting-Inの名前で解説されます。こちらにはシャフルのイラストがないだけでなく、持ち方の記載もなく簡易な解説だけでした。この当時は米国でも上側から噛み合わせていたのかが気になります。

1894年以前にも解説があったのかを調べました。ファローのゲームは1600年代中頃のフランスで広まったとされていますが、ファローシャフルがいつ頃から行われるようになったのか気になります。1726年の著者不明 “The Whole Art and Mystery of Modern Gaming Fully Expos’d and Detected” の本に解説があるような報告があります。ゲーム時に1枚ずつ交互にシャフルすると混ぜたように見えてイカサマに使えることが報告されています。しかし、それはファローシャフルではなく、トップとボトムから交互にするシャフルが使われていました。

1843年には米国のJ. H. Greenの本でファローゲーム時のイカサマのシャフルが解説されます。これはファローシャフルではなく、ストリッパーデックを使ったシャフルでした。1860年には著者不明の “Grand Expose of the Science of Gambling” が発行され、ファロー・ゲームのイカサマ・シャフルでカードのエッジのサンディングが報告されます。目の細かい紙やすりでエッジを削ります。20世紀後半ではエルムズリーがファローシャフルを行いやすくするためにサンディングすることを報告していますが、19世紀で既に知られていたのかと勘違いさせられます。この本ではストリッパーデックの完成度を高めるためのサンディングで、ファローシャフルに関するものではありませんでした。調査はまだまだ不十分で、今回の調査においては、1894年以前の文献でファローシャフルの解説を見つけることができませんでした。

噛み合わせは上からか下からかとカードの裁断

このことに関しては2003年のコラムで既に報告していますが、新しい内容を加えて報告させて頂きます。上からか下からかの問題は工場でのカードの裁断が表側からか裏側からかの違いに関係しています。表側からであれば、そちらのエッジに丸みがあり、ボトム側(下側)からの噛み合わせがスムーズに行えます。裏側からの裁断であればトップ側(上側)からの噛み合わせがスムーズです。このことが日本の本だけでなく英語の本にも全く書かれていなかったのが不思議で仕方ありませんでした。やっと、2018年発行のRyan Murrayの本の中で報告されていました。

私の調査では、日本や中国のデックは基本的に裏側からの裁断のようです。裏側からの方が裏の模様をチェックしながら裁断することができます。特に白の外枠の幅を均等にしやすくなります。それらとは異なり、米国のUSプレイングカード社のカードは基本的に表側からの裁断です。

そのためか、多くのカードの裏の白枠の上下や左右に幅の違いが見られます。わずかのものから大きな差があるものまであります。Beeのように外枠がないカードの方が都合がよさそうです。ヨーロッパのカードはアメリカと同様なカードも多いのですが、カードの種類が多く十分な調査ができていません。メーカーやカードにより逆からの裁断もありそうです。なぜ表側からの裁断にしたのかは、テーブル上でのシャフルと関係があるのではないかと考えています。ギャンブルではカードの表を全く見えない状態でシャフルするのが理想的です。デックを2分割してテーブルに置いたままでエッジを当てて噛み合わせる場合に、表からの裁断の方がシャフルしやすくなります。ところで、裏からの裁断のデックの場合には、それぞれの外エンド部を持って全体を少し持ち上げれば、接触しているエンド部で上からの噛み合わせが行えます。ヨーロッパは少し厚みのあるカードが多く、日本やヨーロッパはデザインの美しさや長期耐久性を重視し、アメリカはギャンブルでの使いやすさと短期での使用の考えのようです。アメリカは裏の白枠の幅の少々の違いは気にしていないのかもしれません。

英語文献での噛み合わせ方の記載

噛み合わせ方の記載の多くはボトム側(下から)ですが、トップ側(上から)のものもあります。なぜそのようにしたのかを考えてみました。1894年の英国のマスケリンの本では上からですが、その当時の英国のカードが上からの方がファローシャフルしやすかったのだと考えられます。1940年の「エキスパート・カードテクニック」の本でも上からですが、これは編集者のヒューガードが方法の解説を1894年の英国のマスケリンの本を元にして書かれたからでしょうか。持ち方などをかなり詳細に解説されています。さらに、1939年や1944年の米国のMacDougallの本でも上からになっていました。彼はブリッジゲームのエキスパートですが、上記の本の影響を受けていたのでしょうか。なお、1930年代や40年代のジャンボファンは、全て下からの噛み合わせのファローシャフルで解説されていました。アメリカのカードでは、上からの噛み合わせでも少し引っ掛かりを感じますが行えないことはありません。また、上からを何度か試していると噛み合わせしやすくなります。その点では日本や中国のデックでは逆方向が全く不可能です。私が持っている数種類のヨーロッパ製のカードは逆方向もスムーズさが低下しますが可能でした。アメリカの1949年のルポールの本ではトップ側からの噛み合わせですが、トップの4Aだけ噛み合わさればよいからと考えられます。

1956年のアンドラスの本も上からです。この本には書かれていませんが、1973年の彼の本”Kurious Kards”にはエッジをサンディングすることが報告されています。噛み合わせを容易にするために少年時代より行っていたそうです。大人になりアメリカ東部のエキスパートの集まりに参加した時に、サンディングは秘密にすべきものとして知られていたことを報告していました。英国のエルムズリーもサンディングを行っており、それを1959年に教わったハリー・ライザーもトップからの噛み合わせでした。うまくサンディングするとどちらからでもスムーズに行えます。1986年11月のMUMの表紙には、上からファローシャフルしているハリー・ライザーの写真が掲載されていました。1962年のハリー・ロレインの本も上からです。1996年のマイケル・クローズ著 “Workers 5” には、最初はロレインの方法で練習したがコントロールしにくく、マルローの下から噛み合わせる方法を使うようになったと報告しています。もしかしますと、アメリカでも昔は、カードにより裁断が裏からのものも結構あったのかもしれませんが、詳しいことが分かっていません。

問題は1990年代に発行されたロベルト・ジョビの「カードカレッジ 3」の本です。ドイツ語でヨーロッパで発行された本ですが、その英訳版や日本語版に問題を感じました。上からの噛み合わせで解説されていますが、アメリカのバイシクルではスムーズに行えない問題があります。高品質のカードを使うことを推奨し、スペイン製のFournier 505sなどは多くのアメリカ製品と違い、簡単にそったり歪んだりしない紙で作られていることを報告しています。チェック・ポイントの記載では、もし「下から上へ」を行うのであればマルローの冊子の解説を見ることを勧めているだけでした。裁断の方向の違いによる噛み合わせのことが書かれていなかったのが残念です。ただし、USプレイング社も1990年代後半より特別注文の裏模様や特殊なデックが制作されるようになり、それらの多くが裏からの裁断のようでした。また、本来のデックも裏からの裁断が出回るようになります。特に2000年以降がかなり多くなっていました。そのような状況で、2008年製作のバイシクル・ゴールドスタンダードが “Traditionally Cut” (伝統的カット)のシールが貼られていたのには驚きました。そのような表現があることと、2000年代初め頃のデックでは裁断方向の統一性がなくなっていることが明確になりました。以前に私が調べた1969年から1995年頃までのUSプレイング社製のカードの全てが表からの裁断でした。結局は、スムーズに噛み合わせしやすい方向を見極めてシャフルすることが重要となります。

テーブル・ファローシャフルの最初の解説

テーブル上で行うファローシャフルの最初の解説は、1915年のS. Victor Innis著 “Inner Secrets of Crooked Card Players”のようです。ファロー・リフルシャフルとして解説されていますが、この本に関しては内容の確認ができていません。しかし、その後に影響力を与えていたと考えられます。1934年にはJean Hugard著 “Card Manipulations No. 3” に “Weaving The Cards”の名前でテーブル・ファローシャフルが解説されます。テーブル上の2つの山の接触しているエンド部が上向きの山になり、下側から噛み合わされます。

最も重要な文献が1940年のHugard & Braue共著 “Expert Card Technique” です。この本の第16章にはパーフェクト・ファローシャフルに関する記載がありますが、それと同等に重要なのが第6章のパーフェクト・リフルシャフルの解説です。リフルシャフルとなっていますが、実はテーブル・ファローシャフルにリフルの操作を加えているような方法になっています。2つの方法が紹介されています。この本の多くの部分が、Braueがチャーリー・ミラーから見せてもらったものを記憶し、方法を教わらず推察して記録したものが中心になっています。その後の文献では、1958年のエドワード・マルロー著「ザ・ファローシャフル」の冊子が発行され、「ファロー・リフルシャフル」としてマルローの操作方法が解説されていますので参考になります。

ファローシャフルを使った原理作品

ファローシャフルを使うことにより1枚ずつ交互にするパーフェクトシャフルが楽に行えるようになりました。それを使うと面白い原理が可能となります。たぶん最初の報告が、上記の1915年のS. Victor Innisの本です。これには8回の繰り返しで52枚が元の配列に戻ることが記されているようですが、記載内容は確認できていません。そして、よく取り上げられるのが1919年のジョーダン著“Thirty Card Mysteries” で、その第1章がDovetailシャフル(リフルシャフル)の配列原理を使った7作品が解説されます。ここではファローシャフルが使われていませんが、ファローシャフルの原理や作品にも影響を与えています。カードに1から52の数を書いてリフルシャフルした場合の配列変化が報告されています。1枚ずつ交互のパーフェクトなシャフルだけでなく普通のシャフルの場合や、シャフルを2回や3回繰り返した場合の変化が興味深い報告です。その後に普通のデックを使った7作品が解説されます。その中でもファローシャフルと関わりが大きいのが7番目の作品 “The Full Hand” です。16枚のカードを使ってパーフェクトシャフルを4回繰り返すと元の配列に戻る原理応用の作品です。8枚ずつに分けて、1枚ずつ交互にリフルして噛み合わせています。この解説の後で、32枚の場合は5回の繰り返しで元に戻ることが報告され、Mr. ダウンズは52枚の一組全体を使って元の配列にできることも追記されていました。この本にはファローシャフル的な操作のことが全く登場しません。

この次の重要文献が1940年のHugard & Braue共著 “Expert Card Technique” です。パーフェクトシャフルの8回の繰り返しで元の配列に戻ることだけでなく、一覧表により毎回のシャフル時の配列変化を分かりやすく紹介されていました。シャフルするたびに18枚目と35枚目のカードの位置が入れ替わることや、それ以外の17枚ずつ離れた3枚の配列変化も分かりやすくなっており参考になります。

注目すべき年数が1957年と58年で、ファローシャフルの記事が集中しています。1957年のラスダックとエルムズリー、1958年のマルローです。ラスダックRusduck(Russell Duck) は “The Cardiste”にステイ・スタック・システムを発表します。トップからの配列とボトムからの配列を鏡像のようにすると、パーフェクト・リフルシャフルを何度繰り返しても鏡像の状態が保たれます。リフルシャフルとして解説されていますが、ファローシャフルの原理に大きく影響を与えています。例えば同色同数のカードを上からと下から同様に配置した場合に、その効力がよく分かります。トップカードが4枚目に移ると、同色同数のボトムカードも下から4枚目に移ることになります。エルムズリーはインとアウトの概念と、トップからの枚数目を二進法表示してインとアウトのシャフルの繰り返しで目的の位置へ移す考えを発表します。マルローは2冊の購入しやすい冊子で、多くのマニアに興味を持たせた功績が大きいと言えます。さらにマルローは、1963年から64年にかけて完成させたインコンプリートファローは利用価値の高い方法となります。

エルムズリーのファローシャフルへの功績

1957年の英国のPentagram誌に6月号から8月号まで3回連載されています。ファローシャフルと数学の関係を取り上げ、使用枚数と元の配列に戻るシャフル回数を数式で表しています。一定以上の数学知識がなければ理解しにくい内容です。エルムズリー氏の職業はコンピューター・エンジニアです。ただし、その解説の前に偶数枚のデックでトップとボトムがそのまま残る噛み合わせをアウトシャフル、それぞれが2枚目になるのをインシャフルと表現しています。その表現方法がその後も使われるようになります。さらに重要な発表がカナダのIbidem誌9月号に掲載されます。トップカードを特定の枚数目へ移すためには、インとアウトのシャフルをどのような組み合わせで行うのかを二進法で表しています。目的の枚数目から1をマイナスした数を二進法表示します。15枚目へ移す場合は、14の数を二進法表示すると1110となり、この1がIN(イン)、OがOUT(アウト)としてシャフルすると目的の枚数目へ移せます。エルムズリー氏は「二進法表示で可能になることには驚かないが、二進法のIとOがシャフル時のINとOUTの頭文字と一致していたことが驚きだ」と言っています。さらに、8枚16枚32枚の場合には、トップカードを目的枚数目へ持ってゆくことが、逆にその位置のカードがトップへ移ることも報告しています。これらのことは数学的に面白いのですが、繰り返しのシャフルが大変なだけでなく、それだけではマジックとしての面白さがありません。

Ibidem誌の12月号にマルローが Backwardファロー(リバースファロー)の使用について報告しています。マーチン・ガードナーとの会話の中で話題になったそうです。13枚や20枚でリバースファローした場合に、元の配列に戻る回数を報告しています。結局、デックでのファローシャフルの繰り返しよりもパケットでのリバースファローでも同様な原理が使える報告でもあるわけです。こちらの方が実践的であり、1958年のIbidem誌9月号にはエルムズリーがリバースファローを使った作品を発表しています。それが「数学とメンタリズム」のタイトルで、16枚のパケットを使った面白い作品になっていました。

エルムズリーの1959年アメリカレクチャーツアー時には、一部のマニアだけに伝わっていた興味深いことがあります。そのことが分かったのが30年後です。その1つがペネロペ原理で、2つ目がコーナーのエッジのサンディングです。サンディングを行うとファローシャフルが驚くほどスムーズに行えます。ペネロペ原理は客に数枚のカードを取らせ、残ったデックで1回だけファローシャフルすると、客がとった枚数と同じ枚数目に特定のカードが出現します。これが正式に発表されたのが1988年のNew Pentagram 8月号です。1972年発行の加藤英夫著「カードマジック研究第2巻」の59ページには、石田天海氏が昔にバーノン氏から見せてもらったマジックの現象を紹介され、その現象を可能とするための加藤氏の方法が解説されます。結局、1990年代になって私に分かったことは、バーノン氏の元になっていたのがエルムズリーのペネロペ原理であったことです。そのことから、歴史を知ることは、それに関わる人物の関係性が分かり、より一層マジックが面白くなりました。

サンディングに関しては、1994年発行のエルムズリーの2冊目の本の295ページに報告されています。1959年のアメリカ・レクチャーツアー時にハリー・ライザー氏とディナーでの会話で、ファローシャフルの正確さを改善する方法の質問を受けます。その回答としてコーナーのエッジのサンディングを教えています。1960年代にライザー氏は、8回のファローシャフルの繰り返しを最も早く正確に行えるファローシャフル・キングとして有名になります。

ファローシャフルの噛み合わせを利用した現象

噛み合わせを利用した最初の現象はジャンボファンだと考えられます。1934年のHugard、1935年のDodson、1938年のHilliard、1946年のLove、1948年のNorman、1950年のGansonにはファローシャフルとジャンボファンが解説されています。ジャンボファン以外で有名になるのがル・ポールの “The Gymnastic Aces” です。噛み合わされた状態で振ると1枚のAが飛び出し、その後も1枚ずつAが飛び出る現象です。1949年の “The Card Magic of Le Paul” に解説されます。1966年6月のMUMにKen Krenzelの人気作品となる “The Magic Bullet” が解説されます。1963年のPeter Kaneの”The Shooting Joker”が原案ですが、Krenzelがシンプルで楽に行えるようにしました。いずれも噛み合わせたままピストルの状態にして、客のカードや特定のカードを飛び出させます。1967年にはPeter KaneがCard Sessionの本で、別の方法の”Single Shot”を解説していますがシンプルとは言えません。Krenzelの方法が1973年のガルシアの本や1975年のフランシス・カーライルの本に掲載されて、さらに人気作品になります。そして、変わった利用方法で話題になるのがポール・ガートナーの”Unshuffled”です。デックのサイドに描かれた黒い模様がシャフルを繰り返すとハッキリした文字として浮かび上がります。

歴史に個人感情を加えた記載の問題

1971年に発行されたPaul Swinfordの “More Faro Fantasy”の冒頭の紹介文でカール・ファルブスが、Swinfordまでの功労者としてジョーダン、ヒューガード、ルポール、エルムズリーのことを報告していました。つまり、マルローの名前がありません。ファルブスは1966年と1969年にファローシャフルの本を発行されているだけでなく、1960年代から長期にわたり多数の著書を発行されています。しかし、1970年頃より何故かマルローの名前を全く掲載しない状態になりました。マルロー派の一人のJohn Racherbaumerが1982年の”Card Finesse”を発行した時に、3ページにわたりファローシャフルの歴史経過を報告しています。その中で特にマルローの功績に重点が置かれ、1958年の2冊の本のことだけでなく、1947年の”Marlo in Spades”の冊子の中での功績も主張されていました。マルローが早い段階でファローシャフルを作品に取り入れた功績です。これを読まれたバズビー氏は、1982年の”Epoptica 1” に、もっと報告すべき人物のことが抜けていたり少ししか書かれていないと厳しい指摘をされました。さらに、マルローの功績は認めるが、1947年の”Marlo in Spades”にある数作品のファローシャフルの使用は特に強調すべきものではないとも書かれていました。特定の数枚を2回のシャフルで4枚目ごとにしたり、表向きで4Aを抜き出して、特定の位置へ入れなおして2回のシャフルで一ヶ所に集めるなどです。その後、Racherbaumerが1992年の”Papers 2”を発行した時には、ファルブスが1970年代からマルローを全くクレジットしなくなった原因は自分にあると報告していました。1968年発行のPaul Swinford著”Faro Fantasy”の書評をRacherbaumerが書いたそうですが、それに対するファルブスの対応だと指摘しています。そして、マルローの功績として、再度、早い段階からファローシャフルに関わって影響を与えていたことを報告されていました。なお、ファルブスがマルローを無視するようになったのは、Racherbaumerの指摘よりも、マルローとファルブスの間で何かあったと考えた方が納得できます。

その後の発展

大きな変化を感じさせられたのが1998年のBrent Morris著”Magic Tricks, Card Shuffling and Dynamic Computer Memories”の本です。コンピューターを取り入れた研究書で、専門的な数式が多数含まれ、150ページ近くある本の多くの部分が数学の本の印象です。しかし、初期の頃のファローシャフルの歴史も詳しく報告され、各種の方法も掲載されて、さらに、トリプル・ファローシャフルについても解説されています。その後で技術的に大きく前進させたのが、冒頭で報告しました2018年のRyan Murray著”Curious Weaving”の本です。2022年には日本語にもなっていますので、この技術が出来る出来ないは別にして、是非、読む価値のある本です。アンチ・ファローシャフルの存在を知った時と同じ驚きを味わいました。また、2020年にはSteve Forteの”Gambling Sleight of Hand”も発行されています。彼はカードギャンブルとその技術のトップクラスの研究者です。2冊からなる厚い本ですが、1冊目の中でファローシャフルについていろいろと解説されていますので重要な文献です。

おわりに

歴史を調べますと新しい発見や意外なことが分かります。ファローのゲームの歴史は古いのに、ファローシャフルの解説が1894年以前では見つからなかったのが意外です。その後、早い段階でテーブル・ファローシャフルが解説されていたのも意外でした。噛み合わせを上からか下からかの問題も、もう一度まとめ直すよい機会となりました。1957年から1980年頃までファローシャフルの研究記事が多数発表され、書籍もいろいろ発行されました。エルムズリー、マルロー、カール・ファルブス、スフィンフォード、Murray Bonfieldなどです。その中でも私にとっては、エルムズリーとマルロー、そして、1940年の”Expert Card Technique”から大きな影響を受けました。また、日本の文献では、1971年の松山光伸氏、1972年の加藤英夫氏、そして、1977年の一松信氏の翻訳によるマーティン・ガードナー氏からも大いに影響を受けました。海外でファローシャフルだけの研究書が数冊発行されましたが、残念なことはいずれも研究者向きで、実践的なマジックとしての弱さを感じました。マジックとして演じるのであれば、もっとシンプルにして楽しい内容にする必要があります。枚数を少なくしてリバースファローを使ったり、部分的に行うパーシャルファローを使うのも一つの方法です。その場合でもファローシャフルの各種原理が使える面白さがあります。パーシャルファローの使用に関しては2023年5月発行の ”Svengali 26” に3作品掲載しましたので参考にして頂ければと思います。

参考文献

1650年頃にフランスでファローのゲームがポピュラーとなる

1726 The Whole Art and Mystery of Modern Gaming Fully Expos’d and Detected 著者不明
1枚ずつ交互シャフルの記載 但し別のシャフル

1843 J. H. Green An Exposure of the Arts and Miseries of Gambling
ファローゲームでのイカサマシャフル 但しストリッパーデック

1860 著者不明 Grand Expose of the Science of Gambling
エッジを削る記載があるがストリッパーデックでの解説

1894 Joseph Koschitz Manual of Useful Information Butting-In

1894 John Nevil Maskelyne Sharps and Flats Faro Dealer’s Shuffle

1915 S. Victor Innis Inner Secrets of Crooked Card Players

1919 Charles T. Jordan Thirty Card Mysteries Dovetail Shuffle

1934 Jean Hugard Card Manipulations No. 3 Weaving the Cards

1935 Goodlette Dodson Exhibition Card Fans The Giant Fan

1938 John N. Hilliard The Greater Magic The Giant Fan

1939 Michael MacDougall Gamblers Don’t Gamble Butt Shuffle

1940 Hugard & Braue Expert Card Technique The Perfect Riffle Shuffle The Perfect Faro Shuffle

1944 Michael MacDougall Card Mastery The Interlacing Riffle

1946 Edward G. Love Card Fantasies The Weave Shuffle

1949 Paul Le Paul The Card Magic of Le Paul The Gymnastic Aces

1950 Lewis Ganson Routined Manipulation Part 1 The Weave

1956 Jerry Andrus Deals You In Faro Shuffle

1957 J.Russell Duck Cardiste No.1 2月 Stay-Stack System

1957 Alex Elmsley Pentagram 6, 7, 8月 Mathematics of the Weave Shuffle

1957 Alex Elmsley Ibidem 9月 Work in Progress

1957 Edward Marlo Ibidem 12月 The Faro Calculator The Backward Faro

1958 Edward Marlo The Faro Shuffle

1958 Edward Marlo Faro Notes

1958 Alex Elmsley Ibidem 9月 Mathematics and Mentalism

1963 Peter Kane Hugard’s Magic Monthly The Shooting Joker

1963 Edward Marlo The New Tops 9月 The Incomplete Faro

1964 Edward Marlo The New Tops 12月 Incomplete Faro Control

1964 Edward Marlo Faro Controlled Miracles

1965 Martin Gardner Mathematical Carnival

1966 Karl Fulves Faro Possibilities

1966 Ken Krenzel MUM Vol.56 No.1 June The Magic Bullet

1967 Peter Kane Card Session Single Shot

1968 Paul Swinford Faro Fantasy

1969 Karl Fulves Faro and Riffle Technique

1971 Paul Swinford More Faro Fantasy

1971 松山光伸 奇術界報 354, 359(360) フェロウシャフルの研究

1972 加藤英夫 カードマジック研究 第2巻 ファローシャフルの研究

1973 Jerry Andrus Kurious Kards サンディングの記載

1973 Murray Bonfield Genii 5月 A Solution to Elmsley’s Problem

1973 Ken Krenzel Garcia’s Super Subtle Card Miracles The Bullet Trick

1977 Karl Fulves Murray Bonfeld’s Faro Concepts

1977 マーティン・ガードナー 数学カーニバル1(一松信 訳)

1982 Paul Gertner Best of Fiends 1 Unshuffled

1982 John Racherbaumer Card Finesse Faro Finesse

1982 Jeff Busby Epoptica No.1 上記のFaro Finesseに対する批評

1988 Alex Elmsley New Pentagram 8月 Vol.20 No.6 Penelope

1991 Alex Elmsley The Collected Works of Alex Elmsley 2

1992 John Racherbaumer Racherbaumer Papers 2

1996 Michael Close Workers No.5 The Faro Shuffle

1998 Roberto Giobbi Card College Vol.3 The Faro Shuffle

1998 Brent Morris Magic Tricks, Card Shuffling and Dynamic Computer Memories

2002 石田隆信 フレンチドロップ・コラム フェロウシャフルに対する私の考え

2003 石田隆信 同上コラム フェロウシャフルはトップからかボトムからか

2006 壽里竜 訳 ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ第3巻

2018 Ryan Murray Curious Weaving

2020 Steve Forte Gambling Sleight of Hand Vol.1 Faro Stacking

2022 富山達也訳・齋藤修三郎編集 上記 Curious Weavingの日本語訳版

2023 石田隆信 Svengali 26 パーシャル・ファローシャフルの研究


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