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コラム

第111回 マジックキャッスル・デックの奇妙な時代変化(2023.09.02up)

はじめに

1963年1月にマジックキャッスルがオープンし、1964年11月にはキャッスルデックが発行されています。1978年に初めてマジックキャッスルを訪れた時にキャッスルデックを購入しました。

その後、1980年代後半からカードの状態が次々に変化して毎回驚かされることになります。何故このような変化になったのでしょうか。それぞれのキャッスルデックについて書かれたものがあると思ったのですが見つかりませんでした。私が分かった範囲で時代と共にどのように変化したのかを報告させていただきます。

1964年の最初のキャッスルデックについて

1964年11月のGenii誌に初めてキャッスルデックの広告が掲載されます。その後、数ヶ月間の広告掲載が続きます。裏模様はキャッスルの建物が鏡か水面に写ったように上下が逆転した図柄で、カードの上下の違いがないようにしています。

ジョーカーは自転車に乗っているバイシクルと同じジョーカーで、ジョーカーの大きさもインデックスも全く同じものが2枚入っています。カードケースはカードの裏模様のキャッスルのイラストを少し大きくして下半分の逆転がない状態でケースの両面に描かれています。

赤と青の2種類があり2ドルの価格が付けられていました。デックを使ったマジック製品を制作しているRonald Hainsの助けを得てU.S.プレイング社で製造したことが報告されています。Geniiの1964年12月号には、ジェニングスの ”Reaping The Aces” がキャッスルカードを使った写真で解説されていました。デックの製造数は分かりませんが、Genii誌の広告でかなりの数を販売できたと思いますが、在庫は多数あったと思います。キャッスルで使用するか、受付でのお土産用としての販売が中心のようです。次の再製造が何年であったのかが分かりません。

1980年前後のキャッスルデックの滑りと封の青シール

私の手元には初期のキャッスルデックやカードケースと同様なデックが6つもあります。それらは3つのタイプに分けることができ、そのタイプにより製造年数が特定できそうです。そのために3つのチェックすべき点があります。カードの滑り、スペードのAの下のアルファベットのあるなし、ケースの封のシールのギザギザのあるなしです。

手元にある6つのデックですが、5つは割合最近になって開封したそれほど滑りが良いとは言えないデックです。もう1つは30年以上前に開封した全く滑らないデックです。後でも報告しますが、USプレイング社のデックは1977年頃から1986年頃まで滑りが悪い状態になっていました。つまり、手元にあるデックはその時期のデックになるわけです。

スペードのAの下のアルファベットにより製造年が分かるのですが、3つのデックにはFの記載があり、1984年製造のものであることが分かります。アルファベットの記載がない残りの3つにはUSプレイング社の記載があるだけです。その2つのケースの封のシールを見ますと切手のようにギザギザがあり、滑りは良いとは言えませんが使うことができるデックです。

最後の1つはギザギザのないストレートタイプの封で、全く滑らない使いにくいデックでした。以前に一般的なUSプレイング社製デックで調べたことがありますが、1977年まではギザギザがあり、1978年のデックからはギザギザのないストレートな新タイプになっていました。つまり今回のギザギザがあり少し滑りの悪いキャッスルデックは1977年頃の可能性があります。

ところで、封のシールがギザギザでなくアルファベットもないキャッスルデックは、1977年と1984年の中間の1980年か81年製造の可能性が考えられます。手元にある6番目のデックがそれに適合し、滑りがかなり悪いデックでした。その頃のキャッスルデックを持っている二人のマジック仲間にも、ギザギザがなくアルファベットもないタイプを調べてもらいました。その結果、2つはほとんど滑らず、2つが少し滑るデックであることが分かりました。以前の私の調査では1979年から1982年頃のUSプレイング社製デックは、ほとんど滑らないデックが多いことが分かっています。なお、今回の調査結果の製造年数は、あくまで可能性であることをお断りしておきます。

USプレイング社デックの滑りの問題

私が持っている1970年から最近までのデックで、滑りに関しての調査を行った結果、滑りを優良可不可の4ランクに分けることができると考えました。

優(excellent)はよく滑るデックで、1987年頃から現在までのものです。これが普通と思われている方が多いと思いますが、1973年頃からポーカーサイズを使っていた私にとっては、1987年頃からのデックが滑りすぎて扱いにくいデックの印象がありました。数年後には私もこのよく滑るデックに慣れてしまい、それが普通の感覚になりました。

良(good)は滑りがよいデックで、1970年頃から1976年頃までのものです。現在のデックに比べると滑りが悪く感じますが、ファンやスプレッドにするとわずかな広がりの差がある程度です。こちらのデックの方がコントロールしやすい感覚があります。代表的なデックがジェリーズナゲットで、1970年に製造されたものであることが知られています。また、私が持っている数年前に開封した新品のタリホーサークルデックが1971年製でした。2012年の米国のIBM大会のショップの古い道具を販売していた店で購入したデックの1つです。カード全体の質がよく滑りもよかったので驚きました。ところで、同時に購入したもう1つのタリホーサークルは全く滑らないデックで、1981年製であることが分かりました。興味深いことが、長く使いすぎて古くなった1975年製のタリホーサークルのデックが、今でもキレイにファンに広がることに驚いています。なお、1970年以前のデックは持っていませんので調査できていません。

滑りが可や不可のデックが現れるのが1977年から1986年の間です。特に1979年から1982年頃は最悪でほとんど滑らない不可のデックとしました。新品の開封時から両手の間でカードを広げようとしても、数枚ずつの固まりが押し出される状態です。つまり、マジックやゲームにも使いにくいデックです。

可のデックとは、ファンやスプレッドができますが、数カ所に大きく開く部分ができてしまう状態です。1977年や1978年、そして、1983年から86年のデックです。湿気を受けると滑りにくくなり、スプリングやファローシャフルとウォーターフォールを行ってカードの間に空気を入れることも必要になります。1980年代後半の優のデックが登場する以前は、普通のポーカーサイズのカードでファンに広げる時には、スプリングしながらファンに広げるプレッシャーファンを使っていた記憶があります。デックを使っていて湿気を含むようになった時は、プレッシャーファンは特に重要でした。不可のデックでは、プレッシャーファンを使って広げようとしても固まりが生じたままで使えないデックでした。

1980年代後半からのインターナショナルのキャッスルデック

インターナショナル製とはUSプレイング社の子会社でカナダにて製造されています。外部から依頼されたデックをインターナショナルで製造されているようです。

1986年のニューヨーク・マジックシンポジウムが東京で開催された時に発行された6色のデックもインターナショナル製です。1987年製造の名古屋マジックバー「エルム」のデックもインターナショナル製です。滑りは悪くないのですが、表面のエンボスがないために、今までとは少し違った印象のカードです。絵札やジョーカーは同じですが、ジョーカーの1枚のインデックスが丸で囲んだ星印になっています。大きな変化がカードケースが全く違うものになりました。ケースの一方の面に、1枚のキャッスルカードの裏模様が見えるように貼り付けられています。本来のケースが気に入っていましたので少し残念な思いがしました。

1997年にはTahoeデックがキャッスルデックに

カードケースが新しくなり、キャッスルカードの裏模様がそのままケースの両面に印刷された状態となりました。中に入っているデックが元のカードに戻っていることを期待して取り出すと驚きました。これまでのUSプレイング社のカードの絵札やジョーカーとは違うカードが入っていたからです。

調べますとTahoeのカードでした。デックの裏模様はキャッスルカードと同じでしたが、表側がTahoeカードの状態です。ジョーカーはピエロの顔が描かれています。1980年代中頃に購入したTahoeのデックは滑りが悪く使えないデックでしたので、あまり良い印象がありません。今回のデックは滑りや品質が良くなっていたのですが、元のキャッスルカードとは違っていたので残念な思いが強くなりました。

2000年代のベルギー製デザインのキャッスルデック

上記のキャッスルデックよりも、もっと驚いたのが2000年代に入ってからです。カードケースが本来のものに戻っていたので、中のデックも元に戻っていると期待しました。ところが、ベルギー製のデックが入っていたので驚いたわけです。裏模様は本来のキャッスルデックと同じですが、絵札はUSプレイング社製に近いのですが違いがあり、スペードのAやジョーカーは全く違っていました。ジョーカーはピエロが立っている絵のカードが3枚あり、1枚は大きなハートのキングのカードを持っています。マジックに使えそうな図柄です。

1979年のFISMベルギー大会の参加者に配られていたデックです。滑りが良いだけでなく、カード全体も悪くないのですが、本来のキャッスルデックに戻っていることを期待したために残念な思いになりました。

2012年に全てが新しく生まれ変わったキャッスルデック

デックが本来のUSプレイング社のバイシクルと同じデックに戻りました。しかし、カードの裏模様やジョーカーの絵が新しくなり、カードケースの絵も全く新しくなっています。カードの裏模様は本来のキャッスルデックに比べて少し小さく描いた建物の絵に変わり、その横にフクロウの絵が加わりました。もちろん下半分は上下が逆転した絵で、天地がない裏模様にしています。

カードケースはカードの裏模様と同じイラストを両面に使っています。2枚のジョーカーもフクロウの絵で、スペードのAのマークの中央にもフクロウの顔が描かれ、多くの部分でフクロウを使った図柄になっていました。2011年10月の火災での水の使用で補修工事が必要となり、2012年2月に再オープンしています。フクロウは元々マジックキャッスルの重要なキャラクターであり、縁起が良いものとされていますので、さまざまな部分での図柄に採用されたのかもしれません。USプレイング社は2009年に工場がシンシナティーからケンタッキーに移転し、デックの品質が不安定な状態がしばらく続きましたが、2012年には安定した品質になりました。2013年にはマジックキャッスルがオープンして50周年になり、それを記念したデックも製造されています。

おわりに

ポーカーサイズで好みのデックがタリホーサークルで、1970年代はそればかり使っていました。1978年にキャッスルデックを購入した時には、記念品として使わずに保管しておくつもりでした。ところが、1980年代前半は手に入るデックが滑りの悪いデックばかりで、仕方なくキャッスルデックも使ったことを思い出します。そのキャッスルデックが1980年代後半から新タイプのデックとして発行されるようになります。それらのデックは悪くないのですが、以前のデックやケースのデザインが好きであったので残念に思いました。そして、よく滑るデックに使い慣れると、1980年前後のキャッスルデックが滑りの悪いデックに感じてしまったことも残念です。USプレイング社のデックの滑りがよかった1976年以前であれば、キャッスルデックの滑りも良かったのかが気になりました。今回の調査は私が持っているデックを中心に行いましたので、不十分な点があると思います。もっと確実な新事実が分かった時には追加報告したいと思っています。


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