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コラム

映像の魔術(2023.8/4 up)

自己紹介

1960年生まれ。仕事は香料会社で食品用香料の調香師をやっていました。

所属:横浜マジカル・グループ、東京アマチュア・マジシャンズ・クラブ、MN7

コンテスト:SAM第2回世界マジックシンポジウム クロースアップ・コンテスト 優勝
フレンチドロップ主催 第2回マジックパニック クロースアップ・コンテスト 準優勝

出演:East Coast Magic Spectacular、たっぷりとクロースアップ・マジック、クロスロード第8回


著書:「ラビリンス Vol.1~3」、「Four of a Kind Vol.1~21」

訳書:「マジックアトラス」(Joshua Jay)、「フューサラード」(Paul Cummins)、「サイアミースコイン」(Mike Gallo)、小説「新古思議の国のアリス」(Anna Matlock Richards Jr。「不思議の国のアリス」のパティーシュ)

寄稿:季刊誌「ザ・マジック」(Vol.25~80不定期)、「MUMジャパン」(55~57号)
もしこれらの刊行物をお持ちでしたら、目を通していただければ私の経歴や興味のあるものが分かると思います。

1995年~2005年まで、バッファローで開催される4Fコンベンションに参加し、主にその時に知り合ったマジシャン (Lee Asher、Joshua Jay、David Stone、Shawn Farquharなど17名)を招聘し、1999年~2016年まで、全国で200回以上のレクチャーを開催しました。4Fコンベンションのレポートは「ザ・マジック」に書いていますので、興味のある方はご覧下さい。

コラムのテーマ

手品に関係するシーンが出てくる映画、ドラマ、アニメや舞台の紹介です。「映像の魔術」とは、私が1997年から発行している季刊誌「Four of a Kind」の巻末に載せているコーナーのことで、そこで挙げたものもありますが、新しいものも含めて、毎回1本、計100本紹介していく予定です。又、紙面ではページの制限により削った部分もありますので、「Four of a Kind」を読んでいる方にも新しい発見があるでしょう。

学生時代は、劇場で年に100本ぐらいは見ており、中でも1950年~1990年の映画には詳しいです。昔は見たい映画は、テレビでの放送を待つか、名画座にかかるのを待つか、円盤(ディスクのこと)で発売されるのを待つしかなかったですが、今では動画配信サービスで、古い映画でも、いつでも見られるようになりました(版権が切れていっているということもひとつの要因でしょう)。ここで取り上げる映画が見られるところも、いくつか紹介します。但し、期間限定で配信されるものもあるので、いつまでも見られるわけではありません。

手品に限らず、ジャグリング、バーベット、パズル、単にプレイング・カードが登場するだけのものも取り上げています。何分にそのシーンが出てくるか記載していますが、再編集版であったり、テレビ放送でカットされていたりすると、多少、前後する場合がありますので、目安として見て下さい。公開年は基本的には、その映画を製作した国で公開した年を書いています。

第1回 映画 『スティング』

映画スティングの画像

原題: The Sting
監督: George Roy Hill
脚本: David S.Ward
製作: Tony Bill, Michael & Julia Phillips
テクニカルアドバイザー: John Scarne
出演: Paul Newman (Henry Gondorff), Robert Redford (Johnny Hooker), Robert Shaw (Doyle Lonnegan)
配給: ユニバーサル・ピクチャーズ
公開: 1973年
上映時間: 129分
製作国: アメリカ



第1回は、「Four of a Kind」でも一番最初に紹介した「スティング」です。アカデミー賞7部門を受賞した名作で、マジック・シーンの出来、及びそれが登場する必然性から見ても、真っ先に取り上げるべきものでしょう。この年のアカデミー賞のノミネートは、「スティング」が10部門、「エクソシスト」が9部門という対決になり、7賞対2賞で「スティング」が勝利しました(「エクソシスト」は当時、画期的な映画でしたが、オカルト映画がアカデミーの作品賞を取るのはちょっと考えにくいです)。最初に登場するユニバーサル・ピクチャーズの地球のタイトル、1930年代のセット(美術監督・装置賞、衣装デザイン賞受賞)、スコット・ジョプリンのラグタイム・ピアノ(歌曲・編曲賞受賞)が当時の雰囲気を表しており、又、映画は6つの章に分かれており、各章の最初には当時、売れていた週刊誌「サタデー・イブニング・ポスト」の表紙を真似たイラストが使われています。主題曲「ジ・エンターテイナー」は、一度ぐらいは耳にしたことがあるでしょう(https://www.youtube.com/watch?v=w5W-aPWACRY)。手品の発表会でもよく使われ、マジック用ミュージックCD「Music for all Magicians Pop in Classic」にも、今風にアレンジしたものが収録されています(「Four of a Kind Vol.20 No.4」参照)。因みに、この時代のピアノは調律が合っていない鼻声のような音で演奏されていますが、これは音響設備が整っていない時代に、音を遠くまで響かせるために、あえて外した調整にしていたからだそうです。

オリジナル脚本賞を受賞したストーリーは伏線の張り方が巧みで、2回見ると、それらがよく分かります。ここで書いてしまうと面白くなくなるので細かくは書きませんが、コンマン(詐欺師)が色々なトリックを駆使してギャングの大物を引っかけ、50万ドルをかっさらうというストーリーで、コミカルなテンポのいいシーンが、軽快なラグタイムと共に展開します。映画開始48分、列車の中でポール・ニューマン演じるヘンリー・ゴンドーフがセカンド・ディール、テーブル上でのフォールス・カット、シャーリア・パスなど、ギャンブル・テクニックを鮮やかに披露します(使っているのはバイシクルの青裏のライダー・バック)。当時、マルテイプル・リフトという技法は知っていましたが、セカンド・デイールを知らなかった私は、どうしてスペードのAが何度もトップから出て来るのか不思議でした。このシーンはうまく編集されているので、故片倉雄一氏も初めて見た時はびっくりし、ポール・ニューマンがどんなに練習してもここまでは絶対にできないと思い、もう一度見直して編集されていることに気がついたそうです。最初に手だけをアップで撮し(ジョン・スカーンによる代役)、色々なテクニックを披露した後、リボン・スプレッドします。その時に、両手が画面から外れ、そこで、ポール・ニューマンと交代し、彼は単にスプレッドをターンしてからカードを集め(ぎこちないです)、カメラがズーム・バックしてポール・ニューマンの顔を撮します。又、このシーンの数分前に、ゴンドーフが事前情報としてゲームで使われているカードの銘柄を確認するシーンがあります。これはタリホーの赤裏のファン・バックと青裏のサークル・バックで、ゲームで使われていたのはファン・バックの方です。バイシクルの青裏のライダー・バックはゴンドーフが練習用?として自分で持ってきたもののようで、105分のところでも、ゴンドーフとフッカーがトランプ・ゲームをするシーンで使われています。

テクニカル・アドバイザーであるジョン・スカーンは、ダイ・バーノンとフランシス・カーライルにカメオ出演を約束していたそうですが、実現しませんでした。このことについては「Genii Vol.37 No.3」の「The Vernon Touch」でバーノンが触れています。

映画のノベライズ本も出ていますが、わざわざ読むほどのことはないでしょう。因みに、どんでん返しを隠すため、登場人物が何を考えているのか分からないように書いています。

「スティング2」は6年後の話で、一応、正統な続編ですが、スタッフもキャストも一新されており(脚本のみ同じ人)、焼き直しを見せられた感じがして、ガッカリします。因みに、ポール・ニューマンの役はジャッキー・グリーソンが演じています。グリーソンがビリヤードで金を巻き上げるシーンでは、相手が「ハスラーだろ?」という楽屋落ちがあり、映画通には笑えます(注:グリースンはニューマンと共演した「ハスラー」ではハスラーの役を演じた)。

「スティング」はU-NEXT、アマゾン・プライム(有料)などで見られます。スリルあり、笑いあり、どんでん返しの連続で、娯楽映画として一級です。ギャンブル・テクニックを披露するシーンのネット動画のアドレスを下記に貼り付けておきますが、最初からちゃんと見るべき映画でしょう。最近は倍速で見ることが流行っていますが、伏線を見落とさないためにもノーマルのスピードでご覧になることをお勧めします。
https://sombrero.hatenablog.com/entry/20140324/p1

トピック

映画カード・カウンターの画像

6月16日からマーティン・スコセッシ監督の「カード・カウンター」が公開されました。写真のように、主人公を演じるオスカー・アイザックがカードを持っており、謎めいたギャンブラーという設定なのでカードのテクニックが披露されることを期待しますが、カード・カウンティングの話なので、ギャンブル・テクニックは出てこず、肩すかしをくらいます。

月の始めには、その月に放送予定の、マジック・シーンが出てくる映画やドラマの情報も紹介します。

8月24日 21時~「007消されたライセンス」 BS日テレ
8月27日 11時~「刑事コロンボ」第36話「魔術師の幻想」 AXNミステリー
8月31日 13時25分~「刑事コロンボ」第46話「汚れた超能力」 AXNミステリー
8月31日 21時~ 「007 ゴールデンアイ」 BS日テレ


参考文献

1) 栗田研:「FFFFコンベンションに参加して」,『ザ・マジック Vol.25』(東京堂出版, 1995) p.16
2) 栗田研:「CDの紹介(2)」,『Four of a Kind Vol.20 No.4』(チェシャ猫商会, 2023) p.690
3) Dai Vernon:「The Vernon Touch」,『Genii Vol.37 No.3』(1973) p.106
4) Robert Weverka:『スティング』(早川文庫, 1974)



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