このコラムを読まれた何人かの方から、その映画を昔に見たけど、そんなシーンは覚えていないと言われました。それは映画の健全な見方です。主に月始めに手品が登場するテレビ番組を紹介していますが、放送されたものを見たけど、手品がどこに出てくるのか分からなかったという人がいるかもしれません。
第1回で述べたように、明確にマジックが出てこない場合もあります。流石に、SF映画「グレムリン」でグレムリンたちがポーカーをしているシーンで、使われているのがバイシクル・ライダー・バックの赤裏だとか(74分、一匹はすり替え用のスペードAとジョーカーを耳の後ろに隠していますが、ボスのストライプに銃で撃たれます)、フィリップ・ド・ブロカ監督の「まぼろしの市街戦」のラストではピアトニックでカード・ゲームをしており、隣にはカード・キャッスルが置かれているといった程度のものは紹介しません。単なるCG処理だけど、手品として実演したいというマニア心をくすぐるものや、手品じゃないけど手品っぽいシーンは取り上げています。
まずは予告編からご覧下さい。
原作: 麻生周一
監督: 桜井弘明
声: 神谷浩史(斉木楠雄), 燃堂力(小野大輔), 花江夏樹(鳥束零太), 森久保祥太郎(蝶野雨緑)
製作: PK学園
放送: 2016~2019年
上映時間:1話22分
「斉木楠雄のψ難」は私の大好きなアニメです。原作は麻生周一によるギャグ漫画で、週刊少年ジャンプの 2011年22号~50号まで「超能力者 斉木楠雄のψ難」の題名で7回の不定期掲載を経て、2012年24号~2018年13号まで連載されました。余談ですが、週刊少年ジャンプと言うと、「北斗の拳」「ドラゴンボール」「ワンピース」と言った熱血冒険漫画が有名ですが、ギャグ漫画のレベルも高いと思います(昔は「王様はロバ〜はったり帝国の逆襲〜」などを読んでいました)。ψは日本語ではプサイ、又はプシーと表記しますが、タイトルではサイと読んでいます(斉木楠雄の災難)。アニメは1期26話で2期までがテレビ東京系で放送され、その後、番外として6話が製作されNetfrixで配信されました。高校2年生の主人公、斉木楠雄(サイキックスと掛けています)は超能力者で、テレパシー、空中浮遊、透視、透明化、予知などたいていのことはでき、スプーン曲げなどはスプーンの枝を蝶結びにしてしまいます。しかし、当人は騒がれたくないため超能力を持っていることをひた隠ししており、又、自分は読書などひとりで静かに過ごしたいと思っていても、クラスメイトや家族が色々と問題を持ち込むため、能力のことを隠しながらトラブルを解決するというストーリーで、1話が約5分の短編です。この漫画の特筆すべき特徴は、主人公の台詞は狂言回し的なモノローグで、誰かと会話があっても声には出していません。相手の本音はテレパシーで読み取れるので、それらに対して心の中で突っ込みをすることで笑いが生まれます。主人公の口が動いて声を発するシーンは1度もありません(何か主人公に言わせたい場合は、例えば、それを聞いた人が反復して聞き返すことで会話を成立させています)。アニメではこの掛け合いが凄い早口で行われ、タイミングが小気味よく、これは漫画では表現できないことです。
蝶野雨緑(お分かりのように、超能力と掛けています)は「アメージング」が決め台詞のイリュージョニスト。マジック・ショーに登場する際に写真のような謎のポーズを取ります。勤めていた出版社を解雇され、奥さんも財産も失ってしまいます。こんなにも自分の周りから物が消えていくということは、自分には消す才能があると勘違いしてイリュージョニストになります。そして斉木の超能力をマジックと誤解し、彼を師と仰ぎます。
第1期
#3 天ψマジシャン!? 蝶野雨緑
蝶野が初登場の回。大道で手品を見せており、そこへ斉木が通りかかります。彼には頭に被ったシルク・ハットの中に鳩が仕込んであるのが透視で見えています。箱が空なことを改め、中から鳩を5羽出しますが、これも入っているものが予め透視で見えてしまっています。帽子の鳩を一向に出さないので斉木は気になってしょうがありません。箱から箱へ助手のマイケルがテレポートするトリック(方法的には、ケビン・ジェームスと助手のトニーによる掃除機のトリックに似ています)が失敗に終わり、見ていた人たちは帰ってしまいます。我慢できなくなった斉木は、帽子の鳩を出し忘れていることを教えてあげます。才能が無さそうな蝶野にイリュージョニストへの道を諦めさせるためには、もっと凄いことを見せてやろうと思い、斉木はバッグから助手のマイケルを取り出します。それを見た蝶野は仰天し、弟子にしてほしいと願い出て逆効果になります。
テレビでψ会!蝶野雨緑
奇跡の大脱出という生放送の番組に蝶野が出演した際の出来事。斉木はテレビでその番組を見ていて、うまくいくのか?と心配になり、助けにいきます(その番組の後に放送される推理ドラマを見る予定で、生放送中に事故が起こると、見たい番組が流れてしまうと思ったから)。手錠を掛けられた蝶野が箱に入り、5分間での脱出に挑戦。箱に20本の剣を刺し、クレーンで釣り上げて落とし、火を着けて、最後はローラーで踏み潰します。斉木が助けに箱の中へテレポートすると、蝶野は既に箱から抜け出しており、代わりに斉木が脱出をするはめになります。
#5 燃える!PK学園体育ψ(中編)
蝶野が体育祭でマジック・ショーを行っており、空の手から鳩を数羽出します。画面を止めて見ると、ワイシャツの前立ての間から出てきているように見えます。
#9 今度こそψ会!蝶野雨緑(前編)
助手のマイケルが怪我で出演できなくなったことで斉木は代役を頼まれ、サイケルという名で舞台に出ます。そして、スッポンを利用した箱から箱への移動をやろうとします。しかし箱の置く位置がずれており、床下から箱に入れないので瞬間移動で舞台上に現れます。
今度こそψ会! 蝶野雨緑(後編)
刃先が引っ込む剣を、クラスメートの燃堂力(念動力と掛けています)が弄びます。ジグザグ・ボックスで、斉木が助手になるはずが、燃堂がやりたいと舞台に上がってきますが、実際にはやらないで終わります。
#24 ψ能開花!? 人気マジシャンの憂鬱
斉木が初めて会った頃と比べて、蝶野のマジックはかなり上手くなって売れており、失敗すると笑いが得られたことから、お笑い芸にしていました。楽屋?で空の手からデックを取り出し、シャッフルやスプリングの練習をします。「今日は鳩を使うマジックは無いはずだよ」という蝶野の言葉に、助手のマイケルがチョッキから何十羽もの鳩を出し、「もしもの時のために仕込んでいるだけじゃよ」と言います。スーパー・イリュージョンのショーでは、マイケルが蝶野をチェーンソーで切りますが、蝶野の服だけが切れて落ちます。次に穴の開いたボールに親指を差し込んで浮かせるマギー審司ばりの種明かしを演じます。
第2期
#1 新年ψ初が一番大事
新春のバラエティー番組に蝶野が出演し、羊の縫いぐるみを浮かせています(この回は2018年1月18日放送でしたが、この年は犬年だったのに、何故、羊なのでしょう?)。
#9 夢のψキックサーカス(前編、後編)
斉木たちは、蝶野が出演するバタフライ・サーカスに招待されます。ところが怪我をした蝶野の代役として、斉木はピエロの格好でまたも出演。玉に乗り、3本のクラブでジャグリング(シャワー)をしながら空中浮遊、一輪車に乗って綱渡り、空中ブランコと凄い技を連発します。会場の天井が崩れて事故が起き、怪我をして泣いている子供のために、蝶野が空の手からライオンの縫いぐるみを出します。
今月放送予定の、マジック関係の番組です。「栄光のルマン」はジャグリングのシーンがほんのちょっと出てくるだけです
11月4日18時~ 「ハマナビ」 テレビ神奈川
11月6日 2時15分~ 「スティング」 ムービープラス
11月7日21時~ 「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」 ザ・シネマ
11月8日 6時30分~ 「栄光のルマン」 ムービープラス
11月14日4時35分~ 「スティング」 ムービープラス
11月30日 6時~ 「スティング」 ムービープラス
次回は劇場版「斉木楠雄のψ難」です。
栗田研:「斉木楠雄のψ難」『Four of a Kind Vol.20 No.1』(チェシャ猫商会, 2022) p.670