今週はビリヤードの話をしましょう。先週末に大阪へ行く用事があり、ついでにビリヤード第56回全日本選手権国際オープンを見に行きました。毎年この時期に尼崎のアルカイックホールで行われ、コロナのため4年ぶりの開催でした。私が暫く行かなかった間にルールなどが色々と変わっており、例えば、玉を撞いた時にファールを犯しそうな場合、それを判定するために、審判が近くで携帯で動画撮影をしていました(微妙な判定の場合、後で確認できる)。日本で1番大きな大会にも拘わらず、決勝でも観客は160~170人程度で、その半数は出場選手の家族か知り合いのようでした。ビリヤードは映画「ハスラー2」の時は盛り上がりましたが、最近は斜陽スポーツです(来場者はマジケよりも少ない!)。フィリピンにはエフレン・レイズという天才プレイヤーがいましたが、何と!マジシャンの異名を持っています。撞く玉が魔法のようだから付いたあだ名ですが、当人はマジックもやるそうです。
ビリヤードをマジックに取り入れたものとしては、キューでダンシング・ケーン、ラックでリンキング・リング(因みに、玉をセットするために今はラックではなく、ラック・シートというものを使っています)、ビリヤードの玉で4つ玉を行ったマジシャンがいます(1980年代にテレビで見た記憶がありますが、名前は失念しました)。有名なところではテンヨー大会にも出演したレイモンド・クロウが挙げられます。彼はビリヤード・ボール以外にコメディ・マジックや影絵も行い、どれもオリジナリティがあり、見るべきマジシャンです。
トリックとしては、平田治民氏の予言「ダイナミック・プレディクション」があります。私はこれを演じるためにビリヤード用具店へ2番、8番、14番の玉(当時1個2,000円)を買いに行ったら、「普通は8番とか9番を買っていくけど、何故2番や14番なんですか?」と聞かれました。ジョン・モートンの「Transform 8」は古典のシルク・トウ・エッグのシルクをティッシュに、エッグを8番ボールに変更した改悪品。
フラッシュ・ペーパーで燃やすところはちょっと人目を引きますが、玉の穴が塞がるだけでは、「えっそれだけ?」という感じです。プラスチックの卵が本物の卵になる以上に効果的な現象はありません。アメリカでは自宅の地下やバーにビリヤード台が置かれていることが多く(ザローの家にもありました)、そういった場で演じたいと思って考えたのかもしれません。穴が空いた8番ボールが欲しい人は買えばいいと思いますが、その使い道は、内部にメカを入れて自在にコントロールできる仕掛けのある玉を作るぐらいしか思いつきません(「スパイ大作戦」でそういう玉を使って勝負に勝つという話「ハスラー対決!」がありました)。
玉の中に機構が仕込まれた道具と言えばシルク・トウ・ボールぐらいでしたが、
最近、「Graviball」という商品が売り出されました。アルテム・シチューキンがこの道具でF.I.S.M.マニピュレーション部門1位になった影響か、最近は若い人のステージ・マジックで、落とした物が手に戻ってくるという現象が流行りです。
こちらはミリオン・カードのアクト部分。
ビリヤードで他には、ジョン・バナンの「Trick Shot Production」があります(DVD「Smoke & Mirrors」に解説)。昔、当人が来日した時に、8番ボールを持っていって、演じてほしいとリクエストしました。レギュラーの玉なのでやりたい人はビリヤード用具店で買えばいいのですが、スチールするためにギミックにしたものもあります。
ビリヤードには9ボールや8ボールなど、ルールの違いにより色々な試合がありますが、ジャグリングのようなトリック・ショット、いわゆる曲玉というものもあります。曲玉と手品(ライジング・カード)を組み合わせたものがあり、これについては「ザ・マジック Vol.45」に書きました。又、以下の演技をトリック・ショットのトーナメントの番組で見たことがあります。プレイヤーは赤と青のデック・ケースを取り出し、好きな方を観客に選ばせます。ビリヤード台に例えばこの場合、青裏のカードを裏向きでばらまいて敷き詰めます。観客の一人に出てきてもらい、好きな方向に手玉を打ってもらいます。止まったところの1枚のカードを表向きにします。残っていた赤裏のケースからデックを取り出し、表向きでスプレッドしていくと、1枚だけ裏向きのカードがあり、それが先ほどの玉が止まったところのカードと一致しています。みなさんが玉を撞けなくても、これさえ買えばできます。
これって曲玉でしょうか?当然のことながら、そのプレイヤーは勝ち上がれませんでした。プロのプレイヤーはポケット・ティッシュ1枚ぐらいの範囲に手玉をコントロールできます。従って、ビリヤード台にカードを敷き詰めますが、ある範囲に密かにフォース・カードを何枚か置いた状態にしておき、客に好きなところに玉を置かせ、撞く方向を指定させます。カードが敷き詰められているため転がり方が違うので難しいかもしれませんが、特に3クッションなどキャロムをやっている人が撞けば、フォース・カードの置かれた範囲で止めるぐらいはできるでしょう。そのカードが予言されていれば、曲玉になります。
■「インビジブル・デック」
では本題です。まずは予告編から。
原題:Malice
監督:Harold Becker
音楽:Jerry Goldsmith
出演:Alec Baldwin (Dr. Jed Hill), Nicole Kidman (Tracy Safian), Bill Pullman (Andy Safian)
配給:コロンビア製作
公開:1993年
上映時間:107分
製作国:アメリカ・カナダ
火曜サスペンスにありそうなストーリーで、金を得るためにそこまで手間をかけるか?といった突っ込みどころはありますが、私は好きなB級映画です。大学の学長補佐アンディとその妻、トレイシーはアンディの高校時代の友人、ジェッドに部屋を貸すことにします。大学では女子大生連続レイプ事件が発生しており、アンディは登校してこない女子学生の家を訪れると、彼女が庭で死んでいるのを発見し、逆に犯人と疑われますが...。特に前半はレイプ事件ともうひとつの出来事が平行して展開し、これらが意外なところで接点が出てきます。
72分、アンディはトレイシーの母親に会いに行きます。母親はアンディに赤裏のBeeから1枚引かせ、デックに戻して相手に切らせます。その後、母親はデックを受け取り、スイベル・カットし、右ポケットから選ばれたカードを出しますが、あの角度ではスチールできないので、予めポケットに入れてあったものを出したのでしょう。ここで手品を見せる必然性はそれほど感じられませんでした。
次回もテイク・ワンのカード・マジックが出てくるもの、「帰ってきた時効警察」です。
12月8日18時15分~ 「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」 ザ・シネマ
12月10日21時~ 「スーパー4Kマジック第9弾」 BS朝日
12月11日13時40分~ 「グレムリン」 テレ東
12月16日23時30分~ 「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」 ザ・シネマ
12月19日3時25分~ 「栄光のルマン」 ムービープラス
12月24日23時~ 「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」 ザ・シネマ
12月26日17時10分~ 「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」 BS12トゥエルビ
12月26日18時58分~ 「007/カジノ・ロワイヤル」 BS日テレ
12月27日20時~ 「ミッション:インポッシブル」 BS松竹東急
12月31日13時30分~ 「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」 ザ・シネマ
1) 栗田研:「’2000アメリカマジック事情」『ザ・マジック Vol.45』(東京堂出版, 2000) p.36
2) 栗田研:「映像の魔術 冷たい月を抱く女」『Four of a Kind Vol.9 No.3』(チェシャ猫商会, 2005) p.296