今週は、北京オリンピックのフィギュアスケートでの、ワリエワ選手のドーピング問題のニュースがありました。そこでフィギュアスケート関係の “謎かけ” から。
「社会人のステージ・マジシャンとかけて、フィギュアスケート会場のスケおば(フィギュアスケート・ファンの中年のおばさんのこと)と解く」
「その心は、どちらも色々な国の国旗を次々と取り出す」
万国旗の取り出しはステージ発表会での定番です。フィギュアスケートの試合で日本の選手が登場すると、多少熱心なファンは日本国旗を取り出して振ります。ところが、スケおばたちは全ての選手を応援するので、海外の選手に対しても、それらの国の旗を、まるでマジシャンのように次々と取り出しては、振ります。彼女たちの鞄の中は、これから取り出す国旗と、振り終わった国旗が混ざらないように仕分けられています。写真では日本国旗が振られていますが、海外の選手に対してもこれに近い数の国旗が振られ、しかも、それを振っているのは殆どが日本人です。
因みに以前、国際試合でカザフスタンの選手が表彰台に上がったことがあり、大会運営側はその選手が台乗りすることを予想していなかったので、表彰式の時に挙げる国旗を用意していませんでした。そこで、会場のファンで持ってきていた人から借りていました。又、こんな話もあります。メダル表彰式の後に選手たちは自国の国旗を羽織って記念撮影をするのですが、去年、玉アリで行われた世界フィギュアスケート選手権では、3位になったルナ・ヘンドリックス選手が国旗を持ってきておらず、それに気づいた坂本花織選手が客席に向かって「ドイツの国旗、ドイツの国旗」と叫んでいました。持ってきているファンの人から借りようとしたのですが、周囲の人は坂本選手が何を言っているのか理解できませんでした。何故なら、ヘンドリックス選手はベルギーの選手だからです!そんなこともありましたが、無事、ベルギーの国旗を借りることができ、貸した人はお礼にサインが貰えたようです。客が自由に言った旗をどれでも取り出すことができるスケおばたちは、氷上の魔術師です!
では本題へ。予告編は見つかりませんでしたが、冒頭の3分間だけが以下で見られ、ブリッジで所謂、“通し”をやっています。
監督:中平康
脚本:小川英、中西隆三
出演:小林旭(氷室浩次)、冨士真奈美(玲子)、小池朝雄(犬丸)、益田喜頓(姉小路)、谷村昌彦(花田)、Paul Schumann(マルコム)、ペドロ・フェルナンデス(マルコ)
主題歌:小林旭「賭博唱歌」
配給:日活
上映時間:86分
公開:1965年8月4日
小林旭が凄腕の賭博師、氷室浩次を演じた「黒い賭博師シリーズ」は全8作あります。イカサマを見破ったことで、見破った兄と恋人を殺された氷室は賭博から足を洗うと誓いますが、組織の抗争に巻き込まれたり、善良な人々から金を巻き上げる賭博組織に対して立ち向かうことになるというのが基本的なストーリーです。主人公が賭博師なので、「渡り鳥シリーズ」と比べて、賭博シーンが頻繁に出てきます。但し、シリーズ初期は賭博には再び手を出すまいとしており、なかなかやろうとはしません。例えば、第2弾「黒いダイスが俺を呼ぶ」では勝負のシーンが1度出て来るだけです。又、ヒロインは「渡り鳥シリーズ」の浅丘ルリ子のように同じ俳優ではなく、殆ど毎回変わります。
第6弾の「黒い賭博師」では、国際賭博組織マルコム一味と対決します。18分、氷室のところへ、ニーナという女性が香港から飛行機で来る時に知り合った男から金を巻き上げられたと、助けを求めてきます。ホテルの一室で、氷室はその相手、マルコム一味のヤンとポーカーで勝負します。使っているのは赤裏のバイシクル・リーグ・バック。ヤンは勝ち続け、イカサマをしているとしか思えないのですが、その方法が氷室には分かりません。最後の勝負での氷室の手は表から、クラブ、ダイヤA、クラブJ、クラブ、ハート3(Aと3のツーペアー)。ここで氷室もイカサマをします。下の2枚の3の上にブレークを作り、ハーフパスし、4枚のAとクラブJに変えます。ここはスタンドインでしょう。ヤンはKとQのフルハウスに対し、氷室はフォアカードを見せますが、ヤンは「私の勝ちですね」と言います。氷室は「あなたのルールじゃ、フォアカードよりフルハウスの方が強いんですか?」と言うと、ヤンは「フォアカード、これがですか?私にはA、2枚に3、2枚に見えますがね?」と氷室がすり替え前に持っていた手を当ててみせます。氷室は「その通りです」と兜を脱ぎ、負けを認めます。
このシーンは片倉雄一氏が教えてくれました。ハーフ・パスで2枚のダブル・フェイス・カードをひっくり返すことで手をチェンジしているわけです。ゲームをしている時はカードを立てて持つのが普通なわけで、その時点で対戦相手にダブル・フェイスの片面(この場合はA)が見えちゃっているから、ヤンが氷室の手を知っていて当然だと、片倉氏は突っ込みを入れていました。その後、氷室はヤンがどうやって自分の手を知っていたかを見破り、再戦をして勝利します。Amazonプライムで見られますので、どういうトリックだったかはそちらをご覧ください(尤も、5枚全てのカードを知ることは、現実的にはできないでしょう。似たトリックとして、ジョン・コーネリアスによるカード当てがあります。これは、演者がカードの表を全く見ずに、5枚の中から、客が見て選んだカードを当てるというものです。因みに、借りたカードでもできます)。73分、利き腕を潰された氷室はマリオと5個のダイスを振ってピンぞろを出す勝負をします。最初はカップに入れて、まとめて振って行い、次はダイス・スタッキングで行い(5個積み上がったダイスの上の目がピンぞろになっている)、最後はカップから1個ずつ転がしてピンぞろを出すことで競います。ここは、カップから転がり出たダイスが不自然な動きでピンぞろになるので、マグネットを使っていると思います。そこでも氷室は勝ち、ボスのマルコムが勝負を挑んできます。77分、マルコムは「我々は我々らしい勝負をしよう。テクニック、テクニックの勝負を」と言います。互いのデックを、シャッフルとリフル・シャッフルを1回ずつして、スペード、ハート、ダイヤ、クラブの順に並べ、しかもストレートにするというものです。使っているカードは赤裏と青裏のバイシクル・レーサー No.2。シャッフルするシーンでは、シャーリア・パスなどのテクニックが披露されます。シャッフルの後、両者がトップから1枚ずつ捲っていきます(スペードK、ハートQ、ダイヤJ、クラブ10、スペード9、ハート8...)。この順番だと最後はクラブAになるのですが、氷室がシャッフルを終わった時のボトム・カードはクラブAなので、矛盾の出ないように考えられています。最後のところでマルコムは配列をミスし、氷室が勝ちます。
ダイス・スタッキングとマジックを組み合わせたものはめったに見かけません。私が知っている唯一の作品は、ポール・ガートナーによる「Penetrating Dice Stack」です。又、昔、五反田のマリックの店に行った際に、ダイス・スタッキングで積み上がった上の目を全てピンぞろにできるというカップの売りネタがありました。
30分、氷室は玲子を抱えて大ジャンプして荷物の上に飛び乗って追っ手から逃れますが、これを撮影する時に大怪我をした話を以下でしています。映像を見ると大したシーンではないのですが、恐らく、失敗したから予定していた、本当にジャンプして飛び乗るシーンはやめたのだと思います。
アクション映画は命がけ -その2- あと1ミリの危機
小林旭シリーズはしつこく続きます。
既に放送してしまいましたが、
1月31日23時~ 「スーパー4Kマジック Mr.マリック街ブラ超魔術」(再) BS朝日
2月8日10時〜 「花王名人劇場 おかしな不思議なコミックマジック同窓会」 BSよしもと
1) Jhon Cornelius:「Pupimetrics」『ジョン・コーネリアス レクチャー・ノート』(マジックランド, 1983) p.2
2) Paul Gertner:「Penetrating Dice Stack」『The New York Magic Symposium Close-up/Stage Collection Two』(The New York Magic Symposium, 1983) p.16