最初は手品と無関係の話から。55年前の映画で、スティーブ・マックィーン主演の「華麗なる賭け」は、主役の実業家トーマス・クラウンが、そのために雇った男4人に緻密な指示を出し、自分は現場には行かずに、銀行強盗を実行させるという話です。アカデミー主題歌賞を受賞した「風のささやき」や下記オープニングで見られるような画面分割、スティーブ・マックィーンとフェイ・ダナウェイのキス・シーンが話題になりました。
前回に引き続き、4月21日(日)にMシアターで行なわれた「第2回MN7研究会」の講演の補足です。冒頭の10分は、今のマジック界の現状と、将来についての予測を述べました。マジックの発表や講演というと、テーマは過去のことが大半です。昔のことを調べて、それに関して考察を述べることはそれはそれで大変なことだし、意義のあることですが、テーマになることはそれだけじゃないと思います。経済学者や地球環境学者は色々と将来のことを予測します。それが当たっているかは別として、それができるのは世の中に、過去の膨大なデータがあるからです。例えば、地球の平均気温の過去の推移はこうだったから、これからはこうなるといったように。当然のことながら、マジック界は小さいので情報がなく、マジック人口でさえ、どれぐらいいるのか分かっていません。従って、推論のベースとなるものが存在しないので、そういった予想が立てられないのでしょう。1月 7日 (日)には、NMF主催で、大塚ドリームシアターで行なわれた「マジカル・アーツ・フォーラム2024 十年目の真実」に行きました。
スピーカーは藤山新太郎氏、ボナ植木氏、ケン正木氏、田代茂氏でした。「十年目の真実」という表題でしたが、残念ながら例えば、コロナがマジック界に与えた影響、YouTubeの種明かし問題、日本のマジックの後退と韓国や中国の台頭など、この10年で思いつきそうな話題について語られることはありませんでした。代わりに話されたのは、若い頃に仕事がダブル・ブッキングしてしまい、知り合いのマジシャンに代理を頼んだ話とか、「奇術研究」の発行部数が3,000部だったといった業界の裏話で、それはそれで大変面白かったのですが、そういったことは居酒屋で飲みながら聞く話であり、表題として銘打ったのであれば、そのテーマから逸脱すべきではありません。尤も、私の中では、その後で行なわれたケン正木氏のショーとボナ植木氏のレクチャーとして入場料の¥2,000を払ったという感覚ですから腹も立ちませんが...。因みに以前にもIBMだったかSAMだかでトーク・ショーが企画されたことがあり、期待して行きましたが内容がそぐわずガッカリした記憶があります。こういったセッションを添え物ではなくメインにしたいという話も聞きましたが、予めどういったストーリーで展開し、どういう結論に達するかスピーカーたちで入念な打ち合わせを行ない、進行役が脱線しないようにコントロールしなければ難しいでしょう。
又、その場では、マジック界の将来についても話されましたが、若手を育てるべきだといった、いつも耳にすることしか聞けませんでした。それらのことを聞いて私が思いつき、先月の講演で述べた未来の予想をひとつ、ここに挙げておきましょう。それはこれから数年で、セルフワーキング・トリックやトランプ数理マジックがブームになるということです。AIの進歩で、動画生成AI、SORAのように指定した映像を簡単に作成できる時代になりました(因みにこれにより、デビッド・カッパーフィールドのビーチといった演目は、不思議ではなくなるでしょう)。
手品は手順だけでなく、ミスディレクションやタイミングなど、演じるためにやっていることが複雑ですので、AIに新しい手順を考えさせるにはまだまだ先の話でしょう。しかし、数理トリックに関しては、演者が感覚的に対応する部分が殆ど無く、あったとしても、マジシャンズ・チョイスといった分かりやすい判断なので、AIでも手順を作れるでしょう。パソコンの計算によりルービック・キューブのマジックが爆発的に流行ったように、今後、既存の数理原理の新しい組み合わせや、全く新しいカードのシステムが発明されると思います。今までは人がひとつひとつ検証して、トリックが成り立つ条件を模索してきましたが、これからはそんなことをしなくても、AIの方でやってくれます。
監督:松田定次、小林恒夫
脚本:比佐芳武
出演:片岡千恵蔵(多羅尾伴内), 進藤英太郎(伊豆丸周作), 進藤英太郎(伊豆丸周吉), 高峰三枝子(伊豆丸篤子), 高倉健(塚崎譲吉), 志村喬(十亀金五郎), 三浦光子(赤沢静子), 関山耕司(木田壮吉), 片岡栄二郎(市田正夫), 萩京子(香川雪江=ナナ)
配給:東映
公開:1958年
上映時間:93分
競馬場で熱狂する群衆たち。レースは第4コーナーからホーム・ストレッチに入ったところで、スタンドの屋上に1人の女性が立っており、それを見た1番人気のサクラヒカリの騎手、市田は驚いてしまい、遅れをとって最下位になってしまいます。群衆が彼女を見上げていると、女性の顔に光が当り、目がくらんで転落して死にます。たまたま居合せた伊豆丸博士により、自殺と断定されます。又、多羅尾伴内も偶然この事件を目撃し、深い疑問を持ちます。死んだ女性の雪江は、騎手の市田の恋人でしたが、かつては伊豆丸博士夫人である篤子の弟、譲吉の女でした。多羅尾は雪江の勤め先だったキャバレー・インパールへ行き、市田と譲吉が争うのを目撃し、市田は雪江が履いていたハイヒールの踵の秘密について口走ります。その直後、市田は何ものかに殺され、譲吉に嫌疑がかかります。多羅尾は雪江と市田の死に何か大きな秘密が隠されていることを察し、調査を進めます。雪江の死の現場から紛失していた彼女のハイヒールから、一味が麻薬を扱う国際的な犯罪団であることを知ります。
56分、多羅尾はバー、マンダレイに現われ、マダムの赤沢静子にインドの魔術師、ハッサン・カンと名乗って近づきます。アブサン(洋酒)を注文し、口に含んで火を吐きます(特撮)。そして、揺さぶりをかけるために、ハイヒールを空中から取り出して見せ(編集で繋いでいます)、相手の反応を見ます(ハイヒールはヒール部分が取れ、麻薬を隠して持ち運べるようになっています)。事件の背後には積年の恨みを晴らすべく、意外な黒幕が存在したのでした。
ハッサン・カンは手品だけでなく、監禁されても鉄格子を破って脱出する馬鹿力を持っています。
本作からカラーです。高峰三枝子、高倉健、志村喬などスターが出ていますが、ストーリーはごちゃごちゃしており、ハイヒールの仕掛けに多羅尾がどうやって気が付いたかなど、脚本に雑なところが見受けられます。写真は片岡千恵蔵と志村喬。
これもAmazonプライムをやっていれば、東映オンデマンド14日間無料体験で見られます。次回は、多羅尾伴内シリーズ最後の第11話「七つの顔の男だぜ」を紹介します。
5月4日 21時~ 「体感★新生ラスベガス~進化するエンタメの殿堂~」 NHKBS
5月4日 23時10分~ 「世界マジック紀行 IN スペイン」 NHKBS