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コラム

第42回 俺が地獄の手品師だ(2024.5/17 up)

アクション映画狂は銃撃シーンになると、ついつい撃った弾の数を数えてしまうのは、マニアのあるあるです。殆どの映画監督はそんなことまで気を使っておらず、銃からは弾が無限に出ます。弾数がきっちりしているのはアーノルド・シュワルツネッガー主演の「ラストアクションヒーロー」だそうですが、私はガン・マニアではないので数えたことはありません。他には「ダーティーハリー」もそうですね。こちらはストーリー展開に絡むので、正確に描いています。因みに、下記のシーンはラストでの伏線になります。刑事映画のベスト3に入る名作ですので、未見の方はぜひ!

それを手品に置き換えると、 ミリオンカードのファン・プロダクションを見ていて、おおよその捨てるカードの枚数を数えていき、手に何枚パームしているかを予想したり、パケット・マジックで示された表面と裏面の枚数からエキストラ・カードを何枚持っているのか推測するのは、手品オタクのあるあるです。

『俺が地獄の手品師だ』


俺が地獄の手品師だ1

監督:小沢茂弘
脚本:松浦健郎
出演:片岡千恵蔵(バッファロウ・ゲン), 進藤英太郎(桁外れの馬吉), 高倉健(立花丈次), 鶴田浩二(早射ちサブ), 中村嘉葎雄(ファンキー小僧), 神田隆(北海刑務所保安部長), 山東昭子(弘子), 柳永二郎(毒川社長), 入江千恵子(立花稀美子), 佐久間良子(道子), 伊藤雄之助(王竜), 久保菜穂子(秀玉), 山村聡(李大業)
手品指導:石田天海
配給:東映
公開:1961年
上映時間:89分

タイトルバックのスタッフのところで奇術指導、石田天海と出ます。

名だたる北海刑務所にバッファロウ・ゲンと名乗る無頼の手品使いが送られてきます。4分、手錠を掛けられた状態で北海刑務所保安部長と握手をすると、いつの間にか相手に手錠が掛かっています。6年間のアメリカ監獄生活で、脱獄で前科13犯の豪の者でした。牢屋に入れられる時に、警備員が鍵を開けようとすると、「ちょいまち、こんなところ開けるのにいちいち鍵を使ってちゃ手間がかかってしょうがねえや」と言い、警備員の帽子を取る隙に鍵をスリ、自分で鍵を開けて中に入ります。

同部屋の桁外れの馬吉とファンキー小僧に、アメリカでは子供の頃から手品師の弟子で、手品が上手いから13回も脱獄ができたという話をし、置かれていたタオルを2枚取ります。1枚を手の中でまるめ、「アバラカバラ」とお呪いをかけると、大きなダイスになります。ここはタオルを丸めたところでカットを切り替え、タオルがダイスになったように見せています。ネタは裏返すと丸から四角くなるスポンジボールと同じです。ショットが切り替わり、指で叩いてダイスが固いことを示す芸の細かさ!このダイスをベッドの上に置き、もう1枚のタオルを掛けてから取ると、ダイスはタオルに戻り、小鳥が数羽、飛び出します。ここはワンショットです。ダイスを置く時に下から手を当てているので、下面には穴が開いており、中には小鳥が入っていて、ベッドの上に置き、タオルを掛けて取る時にダイスを一緒に取り上げることで、小鳥が飛び出すようにしたのだと思います。

桁外れの馬吉が腹ぺこだと言うと、帽子をベッドの上に置き、「アバラカバラ」とお呪いをかけてから取り上げるとパンとソーセージが現われます。ここは帽子を置くところと、取り上げるところでカットが切り替わっています。その日の夜にバッファロウ・ゲンは脱獄し、桁外れの馬吉とファンキー小僧も一緒に着いていきます。3年前、桁外れの馬吉は、親分であるサンライト工業社長の毒川が横浜の縄張り争いから立花組の組長立花を射殺した罪をかぶって刑務所入りをしていました。そして息子一郎の将来を毒川に託していたのですが、一郎は刑事殺しの犯人として捕えられていると新聞で知った桁外れの馬吉は、出獄して真実を確認しようと同房のファンキー小僧と何度も脱獄を試みていたのでした。これを知ったバッファロウ・ゲンは桁外れの馬吉に力を貸すことを約束します。銃の射撃練習をしている敏腕の橋本刑事に、脱獄囚を追う特別任務の指令が出ます。

逃走中の3人は警備員に扮して牛小屋に身を隠していたところ、牛の乳搾りに来た弘子に見つかります。24分、バッファロウ・ゲンはすかさず懐から花を出して驚かせ、脱獄囚を捜索していると言います。そこへ早撃ちサブ(橋本刑事)が現われ、銀行強盗の話を3人に持ちかけます。農家の人たちは早撃ちサブが脱獄囚だと思い、追いかけている隙に3人は逃げ出します。そして、秋田・北陸と厳重に張られた捜査網を次々と突破します。

30分、3人で入った床屋、スマート軒で、ファンキー小僧が理髪師にシガレットの出し消しを見せます。右手でシガレットを持ち、左手に握るふりをしながら右手にサムパームし、左手を開いて消えたことを示してから、左手のバック・サムパームへ移し、両掌を改めてから、右手のサムパームに再び移し、左手を改めた後、左手へロードし、左拳にして親指で押し出して現します。ここは本人が本当にスライハンドで演じています。その後、3人は日本アルプスの山小屋に潜伏し、ファンキー小僧は小屋の管理人の孫娘である道子といつしか想いを寄せ合う仲になります。

33分、バッファロウ・ゲンは山小屋で、ぎんなんを使ってツー・イン・ザ・ハンズ・ワン・イン・ザ・ポケットを演じます。テーブルに3個あり、その内の2個を左手に握り、1個をぎんなんの皿に戻します。左手からは3個出てきます。これをもう1度繰り返します。右手には予め2個パームしており、最初は左手に2個入れる時に、パームしていた2個の内の1個を入れ、3個戻ってきたことを示します。2回目で右手にパームしていた残りを一緒に左手に投げ込むことで、再び、3個戻ってきたことを示します。最初に2個パームしているところが、マニア引っかけです。そして、桁外れの馬吉から千円札を取り上げ、破って丸めます。アブラカタブラとお呪いをかけると、大きな札になります。ここは丸めた札と丸めてあった大きな札を手の中でスイッチし、左手にパームした破った方の札はラッピング処理しています。桁外れの馬吉が、大きな札じゃ使えないと言うと、再び丸めて、小さな札にします。ここも大きな札を処理しているのですが、ラッピングしたようには見えません。これじゃあ小さすぎると言うと、再度、手の中へ揉み込み、2枚の千円札にします。ここはバッファロウ・ゲンの左後方から撮ったショットですが、小さな札を手に揉み込み、両手を下げるところで背中に隠れ、死角になっている胸から2枚の札を取ることですり替えて出しています。ある日、山小屋に早射ちサブが姿を見せます。バッファロウ・ゲンは早撃ちサブの警察手帖をスリ、正体を見破り、逃げます。

46分、横浜のクラブ、赤い城では世界的手品師、王竜とその助手の秀玉(写真)のショーで賑わっています。


俺が地獄の手品師

男の助手の髪の毛が坊主頭になります。そして頭や耳から水芸のように水が吹き出て、最後にはズボンが落ちます。バニシング・グラスで知られた、売りネタを演じます。

まず、グラスに赤い液体を注ぎ、筒でグラスの半分をカバーします。シルクを取り上げる時にグラスを落として処理し、筒とフェイクのグラスにシルクを掛け、ウォンドで押し込むことでシルクを通した後、筒から半分見えているグラスを押し込んで消し、液体も消えたことを示します。そのシルクを助手が持ち、完全に消して両手を改めます。ここはシルクを受け取った助手が一端、カメラから外れ、引きネタを付けて戻ってきて、袖に引き込むことで消したと思われます(両手を両方とも伸ばしているので、ホールドアウトではありません)。消えたシルクは客席にいる客の懐から取り出され、更にそのシルクから人形を取り出します。大きな赤い風船をピストルで撃つと青い風船になり、再び撃つと割れて助手の秀玉が現われます。秀玉を3人、そして5人に増やします(特撮)。その後、秀玉の前にスクリーンが降りてきて、影絵が映ります。秀玉が脱いでいくところで悲鳴をあげ、スクリーンが上がると、バッファロウ・ゲンが登場して、拳銃を撃ちます。ショーに乱入してきたことに対して王竜は怒って、拳銃で撃ちますが、バッファロウ・ゲンは玉を掴み取ります。客席の毒川がタバコを吸おうとするところで、バッファロウ・ゲンは火の着いたマッチを差し出し、それを赤い花に変えます(売りネタの「マッチと花」。出す前から赤いものが右手からパーム漏れしています)。王竜が火の着いたタバコを左拳に入れるとシルクになり、バッファロウ・ゲンはそのシルクの裏から火の着いたタバコを取り出します。それを右拳に入れ、葉巻に変えます。ここは葉巻のシェルでしょう。王竜は改めた箱からウサギを3羽取り出します。バッファロウ・ゲンがお呪いをかけると、ウサギは縫いぐるみになっています。怒った王竜は槍を取り出し、バッファロウ・ゲンに投げますが、バッファロウ・ゲンはそれを受け止め、投げ返し、王竜の体に刺さり、更に2本槍を投げ、刺さります。しかし、王竜は槍を抜き、何ともないことを示します。ショーは大受けで、その後、毒川がバッファロウ・ゲンを部屋へ呼ぶと、桁外れの馬吉、ファンキー小僧も出てきて驚きます。毒川は3人を匿うことにします。そして麻薬取引きをやっている李大業から3人とも消せと命ぜられますが、罪を被ってくれた桁外れの馬吉を殺せないと言います。そこで、李は立花組の2代目丈次に桁外れの馬吉を殺らせることを提案します。

61分、バッファロウ・ゲンは港で子供たち相手に手品を見せます。スケッチブックに描いた絵を手で覆うと消え、再び覆うとジュースの瓶の絵になり、スケッチブックを傾けるとジュースが出てきて、絵は空瓶の絵になっています。そこへ早撃ちサブが来て、銃を突きつけ、子供たちは逃げていきます。自分は丈次の妹、稀実子と知り合って、今は立花組の一員だと言い、去っていきます。

62分、王竜のショーでアシスタントとしてバッファロウ・ゲンが紹介され、シルクハットを被って登場します。3人の女性が火で炙られながら消えます(特撮)。ロッカーのような箱に秀玉が入り、半分ぐらいに小さくなって出てきます(特撮)。再び箱に入り、客席から出てきます。秀玉が床に置いたロープに乗ると、ロープが立ち上がり、秀玉が浮遊します。秀玉で首のギロチンをします。1度目は切れておらず、もう1度やると秀玉の首が落ちて、にやりと笑います。バッファロウ・ゲンが落ちた首を拾って元に戻します。

70分、6個の人が入れるぐらいの大きな筒を改め、それを持ち上げると巨大なフラワーが現われ、天井と舞台両袖からも花が出ます。サムソンも真っ青のド派手なフィナーレです。

桁外れの馬吉の出現で刑事殺しの真相がばれるのを恐れた李大業は、毒川と丈次が対立するように立花組長殺害の犯人が毒川であることを丈次に教えます。李大業の麻薬組織を視察すべく海外の本部から派遣された全権一行の送別会が李邸の大広間で開かれようとしていました。75分、そこへ毒川のサンライト工業、丈次の立花組、李大業、早撃ちサブが集まり、四つ巴の撃ち合いになりそうになったところへ、バッファロウ・ゲンが登場し、早撃ちサブが刑事であることをバラし、大きなトランクに入らせます。そして李が刑事殺しをさせたことを見破ります。バッファロウ・ゲンはトランクを撃ち、血が流れ出て、トランクは外に運び出されます。しかし、橋本刑事は無傷で、流れ出たのはワインでした。そして現われた全権一行はなんと手品師の王竜と秀玉でした。そして、王竜はバッファロワ・ゲンが実は警視庁警部、壇原武夫であることを暴きます。壇原警部は組織を追うため、北海道警察の協力を得て、桁外れの馬吉の牢に入れてもらい、刑務所の協力で脱獄したことを話します。81分、「おっと待ちな、この勝負を占ってみよう」と言い、デックを取り出し、アームスプレッドしてキャッチし、シャーリアパスをし、「これがおめえたちの運命だ」と言って、ジョーカーを見せます。桁外れの馬吉とファンキー小僧、早撃ちサブ、立花組対全権一行、李大業、毒川の撃ち合いとなり、早撃ちサブの急報により警官隊も雪崩れこんで、一味はことごとくお縄につきます(写真の左が桁外れの馬吉、右が立花丈次)。


俺が地獄の手品師3

桁外れの馬吉は無罪放免になり、ファンキー小僧は山小屋の道子に別れを言いに行きます。一緒にいたバッファロウ・ゲンは最後に、橋本刑事から稀実子と一緒に写っている写真をスリ取ってみせます。

多羅尾伴内シリーズの流れを汲む作品と言えます。高倉健は多羅尾伴内シリーズ「十三の魔王」でも共演したことがありましたが、鶴田浩二と共に端役です。当時、高倉健は任侠映画で人気が出る前で、演技も固さが目立ちます。鶴田浩二は既に大スターでしたが、ちょっとスランプの時期でした。共演も、山村聰、進藤英太郎、柳永二郎、伊藤雄之助らのベテランが脇を固め、女優陣も佐久間良子を筆頭に、「アマゾン無宿 世紀の大魔王」でも片岡千恵蔵と共演した久保菜穂子、後に参議院議員になった山東昭子が牛小屋の娘、と贅沢な使い方。最もマジック・シーンの多い、日本映画でしょう。マニア向けのところがあり、お勧めの1本です。

この映画は、今年の2月21日~27日まで、ラピュタ阿佐ヶ谷で上映されました。Amazonプライムをやっていれば、東映オンデマンド14日間無料体験で見られます。片岡千恵蔵シリーズはこれで終わり、次回からは物をスルシーンが出て来る映画を取り上げていきます。


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