6月7日21時からフジテレビ系で放送されたドラマ「イップス」の第9話「ツイてない男の運のつき」にマジック・シーンが出てきました(マジック監修:岩嵜夢丸、小梅)。運のない男、宮永隆一はサラ金業者の取り立て屋を工事現場であやまって殺してしまい、更に逃げる途中に車に跳ねられてしまいます。気がつくと車で跳ねた男の家に運ばれており、車を運転していた須藤健吾は事を公にしたくないので治療費として、札束の入った封筒を、何故か“空の手”から取り出して渡します(左手が空であることを改め、そこへ隠し持っていた右手の封筒を置くだけ)。宮永は金を受け取り、帰ろうとした時に血の付いたスパナを落とし、それを見て逃げようとした須藤は滑って頭を打って死んでしまいます。そこへ主役の2人(黒羽ミコと森野徹)が訪ねて来たため、宮永は須藤のふりをして対応するはめになります(この辺りは「古畑任三郎」の第22話「間違えられた男」に似ています)。須藤は忍者装束の人気動画配信者・マジシャン赤影で、黒羽らはマジックの取材に来ていたのでした。宮永は手品を見せてくれとせがまれ、演じるはめになります。お茶を煎れるために席を立った時に台所で、携帯でネットの種明かし動画を急いで見て、即興でペンを宝くじに突き刺す手品を見せます。
宮永の行動が怪しいと思い、家の中に死体があると思った黒羽は、宮永が席を外している間に部屋の中を色々と探し回ります。そして、4色のマルチカラー・バニシング・ケーンを見つけ、振っているとキャップがすっ飛んで、花になってビックリします。黒羽たちはどのようにして、殺人を立証するのでしょうか?
原題:文雀(Sparrow)
監督:Johnnie To
出演:Simon Yam (棋), Kelly Lin(鍾珍妮), Lam Ka Tung (震波), Kenneth Cheung(小馬), Law Wing Cheong(細蘇), Lo Hoi Pang(傅劍堂)
公開:2008年
上映時間:87分
製作国:香港
巨匠ジョニー・トー監督が、3年の歳月をかけて撮影した小品。第58回ベルリン国際映画祭でプレミア上映され、日本でも第9回東京フィルメックスで上映されましたが、一般公開はされず、その後、DVDで発売されました。タイトルの“文雀”とは文鳥のことで、“スリ”を意味する隠語です。
棋は、震波、小馬、細蘇らとスリを働く窃盗団のリーダーです。朝、棋の部屋に文鳥が入ってきて、外へ放しても再び入ってきてしまいます。その後、自転車に乗って出かけ、グループ4人で朝食をとった後、街へ出てスリを行いますが、ここは連続して3人の通行人から財布を抜き取るところを長回しで撮っています。口に隠しておいたカミソリを使ってバッグを切って抜き取るという「燃えよデブゴン4」にも登場した手法が使われますが、フランス、アメリカ、日本のスリの映画ではそのようなやり方は出てきませんでした。香港特有でしょうか?口に入れておかずとも、スチールしやすいところはいくらでもありそうですし、そんなに切れ味のあるカミソリであれば、長時間、口の中に入れておくのには注意が必要です。
ある日、写真が趣味の棋がいつものように街中でシャッターを切っていると、ファインダーの中に美しい女性(鍾珍妮)が現われます。夢中でシャッターを切る棋。女性は誰かから逃げているようです。
その後、その女性は震波、小馬、細蘇の前にも現われます。実は彼女は4人の力を借りて、スリの大御所、傅劍堂の手から重要なものを取り戻してもらいたいという目的で、4人に近づいてきたのでした。 「失われつつある香港の情緒に対する、自分なりの思いを込めた」と監督が言うように、香港の街中がスタイリッシュに、しかし懐かしく描かれ、聞こえてくる雑踏が雰囲気を醸し出しています。最後の勝負シーンなど、スリで対決すること自体に無理があると思えるので、ストーリー展開で見せるものではなく、映像を楽しむ映画でしょう。サイモン・ヤムは脱力した自然体な演技で、又、二胡によるBGMも全体の雰囲気に合っています。フランス映画を想起させ、でもフィルムノワールのように重くなく、軽快なタッチで、最後に4人が再び自転車で4人乗りをするところも、また元の生活に戻ったという印象を与えます。
次回は原田芳雄主演の日本映画「スリ」を紹介します。
6月16日 5時20分~ 「林家正蔵の演芸図鑑」 NHK