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コラム

第66回 汝のウサギを知れ(2024.11/01 up)

闇バイトによる強盗が巷を賑わせています。実行犯たちはその場で初対面という話を聞いて、映画では50年以上前に題材になっていると思った人もいることでしょう。スティーブ・マックィーンの「華麗なる賭け」(1968年公開)では、マックィーンが指示役で、その場限りで雇った者たちに銀行強盗をさせ、まんまと大金をせしめます。ミシェル・ルグランの主題歌「風のささやき」はアカデミー賞を獲った名曲で、画面を分割し、複数のシーンを映すスプリット・スクリーンも話題になりました。



でも、マックィーンのベストと言えば同年に公開された刑事物の「ブリット」でしょう(第6回で紹介)。この映画はカーチェイスの先駆けとなった作品で、歴代カーチェイス映画で1位になったこともあります。



CGの無い時代にこれだけのものを作っているのにはビックリするでしょう。2人の殺し屋がブリットを殺そうと付け狙うところから始まりますが、私が好きなのはカーチェイスが始まる前のラロ・シフリンのジャズによる尾行シーンで、ここの緊張感があるからこそ、その後のアクション・シーンが活きてくるのです。非常にスピード感がありますが、実はフィルムを回す速度を少し落として撮影していたそうです。そして普通の再生速度で再生すると実際より速く見えるというわけです。製作は第53回で紹介した「フレンチコネクション」の製作者でもあるフィリップ・ダントーニで、「ザ・セブン・アップス」という刑事物では監督もしており、その映画でもカーチェイス・シーンが見せ場になっています。1970年前後のカーチェイスと言えば、この3本でしょう。



速度を変えることで凄く見せると言えば、多重録音の装置やエレキギターを開発したギタリストのレス・ポールです。1950年代に出したレコードは実際の演奏よりもスピードを速くしたもので、その超絶技巧を聞いた人たちは驚愕しました(実際にも上手かった)。マジックで同様のことをやってYouTubeに上げればテクニシャンとして脚光を浴びると思うでしょうが、残念ながら話題にもなりません。ひとつの理由は、マジックはテクニックだけじゃないということです。カール・クロティエが確か、IBMのコンテストに出て優勝できなかった時に審査員に「何故、自分じゃないんだ?」と文句を言いに行ったそうですが、審査員の答えは、「君のはマジックじゃない」でした。その後、彼は精進し、1994年のFISM横浜で1位を獲るまでになりました。ふたつ目の理由は、多くの人がYouTubeなりDVDを見る時に、再生速度を上げているということで、速いことに目が慣れちゃっているので、ちょっとくらい速くなっても凄さが伝わらないということです。

今回、取り上げる映画は日本未公開で、2021年にザ・シネマで放送されましたが、その時の町山智浩の解説を以下で見ることができます。

『汝のウサギを知れ』

ブライアン・デパルマの初期の作品で、編集前に降板させられたので自分の映画じゃないと言っていますが、監督のクレジットはデパルマになっています。ロバート・デニーロの「御婚姻」など、サスペンス映画を撮る以前は、コメディ映画を撮っており、その辺りはイギリス時代のヒッチコックに似ています。又、「卒業」「明日に向かって撃て」に出演して有名になった頃のキャサリン・ロスがチョイ役で出ています。


汝のウサギを知れ

原題:Get to Know Your Rabbit
監督:Brian De Palma
出演:Tom Smothers(Donald Beeman), John Astin(Paul Turnbull), Katharine Ross(Terrific-Looking Girl), Orson Welles(Mr. Delasandro)
配給:日本未公開
公開:1972年(アメリカ)
上映時間:92分
製作国:アメリカ

主人公のドナルドは大企業の重役でしたが、息つく暇もないほど忙しく、やっている仕事に疑問を感じ、いきなり会社を辞め、タップダンシング・マジシャンを目指します。10分、デラサンドロが講師をしているタップダンシング・マジシャンの教室へ行き、タップダンスをしながら手品を習います。数人の生徒たちがステップを踏みながら、2重筒から3枚の繋がったシルクを出して首に掛けます。そこへ会社の副社長のターンブルが辞めないでくれと慰留しに来ます。その後、再びレッスン・シーンでダンスをしながら、バニケンで2枚の紅白ストライプ・シルクにします。22分、ダンスをしながらウサギを出します。34分、シムシャムというタップ・ダンスの基本ステップを練習します。デラサンドロと2人で一緒に布の袋に入って抜けるマジックを練習しますが、うまくいきません。


汝のウサギを知れ2

その後、レッスンのかいあり、タップダンシング・マジシャンとして認められます。デラサンドロは布が掛かったキャンドルを消し、布から財布とTシャツを出してドナルドにプレゼントし、その後、煙と共に消えます。落ちぶれていたターンブルをマネージャーにして、ウサギを連れて巡業に出ます。バスの車内でバニケンを伸ばして、再び、縮めてアメリカ国旗にします。47分、巡業先のショーでタップダンスをしながらケーンでケージを叩いてウサギを出します、続いて、赤青白の3枚のシルクがブレンドしてアメリカ国旗になります。バニケンで2枚のアメリカ国旗にし、そこから鳩を出します。


汝のウサギを知れ3

シルクハットからウサギが出ます。52分、ショーで、客である“見た目の良い女”(という役名)と一緒に袋に入って脱出します。69分、往来でドナルドは両手を改めてから毛花を出します。71分、巡業でアメリカ国旗から鳩を出したり、シルクハットからウサギを出したりします。ターンブルの努力により、巡業から帰るごとに事務所は大きくなっており、タップダンシング・マジシャンが大当たりしたことで、自分と同じ扮装のマジシャンが増えますが、再び、そんな仕事に嫌気がさし、ドナルドは消えてしまいます。

予告編でマジック・シーンをちょっと見ることが出来ます。



デパルマ作品で、主人公はマジシャンとくれば期待しかないのですが、全編、珍妙なアメリカン・ジョークはデパルマ・ファンだったとしても見るのがしんどいです。但し、部屋を歩くシーンを上から撮した移動撮影や、寝室からキッチン、居間を通ってエレベーター・ロビーへのカメラが壁を通り抜けていく横への移動撮影には、デパルマ・タッチが見られます。冒頭で紹介した「華麗なる賭け」でも使われたスプリット・スクリーンの手法は、1970年に公開された「ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間」で有名になりましたが、デパルマもよく使います。因みに、「オメガマン地球最後の男」で、チャールトン・ヘストンが映画館で見ている映画がこれです。デパルマの映画はスプリット・スクリーン、ジャンプ・カット、スローモーション、長回しの移動撮影など色々と凝っていますが、技巧に走りすぎるきらいがあり、映画の出来不出来に差があります。

次回もデパルマの作品、「ミッション:インポッシブル」を紹介します。

トピック

10月30日 20時~ 「Youは何しに日本へ?」 J:COMテレビ

11月2日 21時~ 「Youは何しに日本へ?」 J:COMテレビ

11月3日 0時~ 「ドクター・スリープ」 ザ・シネマ

11月29日 13時30分~ 「リオブラボー」 ムービープラス


手品は出てこない今月のお勧め映画です。

11月4日 12時~ 「ダーティハリー」 ムービープラス 第42回で紹介しました。

11月5日 13時~ 「北北西に進路を取れ」 NHK BS

11月10日 21時~ 「ターミネーター」 BS日テレ

11月13日 13時~ 「ナバロンの要塞」 NHK BS




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