12月7日はマジックマーケット2024冬。浜町のプラザマームでの開催は3回目。常連の出店者が主体になるかと思いきや、1回のみの出店だったり、不定期に出したりと様々で、毎回、目新しさがあります。このところ毎回ずっと、3人のゲストを呼んでトーク・ショーを行ってきました(今回はizuma、長谷和幸、谷口武/アルス)。私が過去に参加した時はいつもまばらな聴衆でしたが、今回はショー&レクチャーにしたことで、満席立ち見となりました(通路が通れなくなっていたので、客席後方の交通整理をした方が良いですね)。私はトーク・ショーの方に興味があるのですが、相変わらず、みなさん、種が好きなんだと思いました。例年よりも全体に混んでいる印象でしたが、ショー&レクチャーを見るために、会場に長く滞在した人が多かったからかもしれません。出展者に対するアンケート(前回の出店と比べて、売れたかなど)を取れば、イベントの成長が分かって良いでしょう。女性がひとりで来ていたり、子供も増えてきているようで、来場客にもアンケートを取れば(いくら使ったかとか、どんな出店やゲストを望むかなど)、イベントとして、どこを目指せばよいか戦略的なところが見えてくると思います。
出店でいつも気になるのは、出展者名や考案者名に横文字や短いものが多いことです。名前というのは体を表す情報ですので、あだ名のような短い名前ではその店が何を売っているか、その人がどういう人か伝わりませんし、非常に覚えにくいです。群雄割拠の中で、如何に自分を知ってもらい、自分の作品を手に取ってもらうには差別化できるよう戦略的に考えていくべきです。これは商品名にも言えます(だからと言って、異様に長いタイトルも問題)。会場に来られない知り合いのために、リアル会場でしか手に入らないものを買いあさりました。人の財布だから躊躇はいりません。今回はいつも以上に、レクチャー・ノート類が多かった気がします。買った物をそのまま、ちり紙交換に出せばトイレットペーパー1個くらいにはなったでしょう。出版物のテーマに制限は無いので、殆どの一般書籍が種の解説であるのと異なり、同人誌的な場合は何でもありです。例えば、マジックに関する日常雑感や小説、手品を演じる上でのダジャレ集、マジック界への提言などなど。
印象に残ったのは、False Knotの「趣味で続けるステージマジシャンのための小劇場公演のススメ」(¥300)と「ステージマジック公演の司会について考える本」(¥200)で、各々のテーマについて要点をまとめており、特にステージ・マジックをする人にはお勧めします。「司会について…」の方は、演技をする人にも参考になるでしょう。残念なのは、せっかく良いことが書かれているのに、著者名と発行日が書かれていないことです。過去の印刷物を調べる時に、こういった情報が書かれていないことが多く、調査に苦労します。
もうひとつ紹介するなら、佐藤大輔の新刊、カード・マジック作品集「Exit Strategy」(¥4,400)です。何が良いかというと、文章が上手く、イラストや装丁も綺麗なことです(勿論、トリックも…)。ピーター・ケーンのCard Sessionシリーズを訳した「Combined Card Sessions」(2021年出版)でも簡素で、しかし分かりやすい解説には一目置いていました(いくらそれがリチャード・カウフマンによる流麗なイラスト付きの古典的名作だったとしても、アルド・コロンビーニのクレバーな手順だったとしても、難解な訳だとそれだけで読む気が失せてしまいます)。今回は翻訳ではないので、より洗練された文章になっています。あなたが本を読むことをいとわないカード・マジック研究家であれば、買うことをお勧めします。以下の本人のサイトで売り出されると思います。
その後、夜に赤羽会館で行われる「マジック9」のために、そそくさと会場を後にするのでした。では、予告編から。
原題:New York Stories
監督:Martin Charles Scorsese, Francis Ford Coppola, Woody Allen
出演:Woody Allen(Sheldon Mills), Mia Farrow(Lisa), Julie Kavner(Treva), Mae Questel(Mother), George Schindler(Shandu, The Magician)
配給:ブエナビスタ、ワーナー・ブラザース
公開:1989年
上映時間:124分
製作国:アメリカ
マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、ウディ・アレンという3人の巨匠がニューヨークを舞台に撮ったオムニバス映画。ウディ・アレンは第3話を担当。
第3話 エディプス・コンプレックス(Oedipus Wrecks)
ニューヨークで弁護士をしているシェルドンは、3人の娘がいるリサと結婚しようと思っていますが、未だに自分を子ども扱いする口うるさい母から反対され、辟易しています。86分、5人は外で食事をした後、ステージ・マジック・ショーを見に行きます。中華風の衣装を着たマジシャンのシャンドゥが筒(フラワー・チューブ)を改め、花を出します。ダブパンのような容器に何かを入れ、それが大きなシルクになり、シルクの陰から花をスチールして出します。母親を客として舞台に上げ、チャイニーズ・ボックス・イリュージョンを行います。母親を箱に入れ、6本の剣を刺します(母親が箱に入ってから、剣を刺すところはショットが切り替わっています)。刺していくところで、シェルドンはちょっと嬉しそうな顔をします。扉を開けると、ヘッドレス・クィーンのように箱の中は刺さっている剣だけが見えます。扉を閉め、剣を抜き、再び扉を開けると母親が戻ってきているはずが、誰も入っていません。シェルドンは楽屋でシャンドゥに母親はどこへ行ったのか追求しますが、見つかりません。最初は必死に探したシェルドンですが、母がいなくなったことでリサとの関係が深まり、精神的にも安定します。しかし数日後、突如、巨大な母がニューヨークの空に現れ、地上の人々に息子に対する文句をしゃべりまくります。そして…。
実生活でも交際していたミア・ファーローが子連れで登場するのは、アレンの自虐ネタのようにも見えます(1980年代は共演作が多かったですが、ミア・ファーローの養子のスン・イーとの肉体関係がばれて破局。その後、アレンとスン・イーは結婚)。登場人物の家庭生活がうまくいかず、ストレスを抱えているというのは、アレンの映画のお馴染みのパターンですが、何が言いたいのか今ひとつ伝わってきませんし、ニューヨークの素晴らしさを見せたい作品かというとそうでもありません。マーティン・スコセッシとフランシス・フォード・コッポラが監督した他の2編もいまいちでしたので、見なくてもいいです。字幕は無いですが、全編がVimeoにありましたので、マジック・シーンだけ確認すればいいでしょう。
シェルドンの母親を消すマジシャンを演じたジョージ・シンドラーはプロ・マジシャンで、SAMの会長をやったこともあります。当初、ウディ・アレンはこの役にアレン映画の常連であるウォレス・ショーンを検討していましたが、マジックが出来て、演技もこなす本物のマジシャンを希望し、シンドラーになったそうです。因みに、シンドラーはニューヨークでマジックの卸業もやっていたので、同じニューヨーク生まれで、マジックを趣味としていたアレンとは面識があったかもしれません。1990年代後半に私がニューヨークへ行った際に、シンドラーの店に行ったことがあります。大量の在庫がある倉庫を見せてもらって、珍しい本があったので欲しいと言ったら、それは私物だからダメだと言われました。整理整頓されておらず、かなりゴチャゴチャした印象でした。
同年に公開されたウディ・アレンの「重罪と軽罪」にジョージ・シンドラーが出ているという情報が「Who’s Who in Magic」という文献に載っており、目を皿のようにして探しましたが出てきませんでした。結局、「ニューヨーク・ストーリー」の間違いだったわけです。時間返せ!
次回もウディ・アレンの作品、「マジック・イン・ムーンライト」です。
12月7日 10時~ 「題名のない音楽会」 テレビ朝日
12月13日 1時32分~ 「上田ちゃんネル」 テレビ朝日
「題名のない音楽会」では、第18回ショパン国際ピアノコンクールで1位を獲ったブルース・リウがカード・マジックを演じました。コンクールで審査発表までの待ち時間が長く、そこでも披露したそうです。