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コラム

第15回 夏への扉(2023.11/10 up)

前書きではレアな情報、例えば、ここのコラムの石田氏や宮中氏も知らないものを載せたいと思っています。下記の商品をお二人はご存じないでしょう(ていうか、興味・研究の対象外?)。三咲順子芸歴15周年記念に作られた一人語りのCDです。ボナ植木主催のボナペティ・ライブでは朗読コーナーがあり、そこで読まれたものはその後、「魔術師たちと蠱惑のテーブル」として出版されたのはたいていの方がご存じでしょう。CDには短編集の中から3編、「いつもレモンを買う女」「麗しの愛しきバニーガール」(2010年10月1日公演)「あなたに魔法をかけられて」が収録されています(\2,500)。


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『夏への扉』


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監督: 三木孝浩
脚本: 菅野友恵
原作: Robert Anson Heinlein
出演: 山﨑賢人(高倉宗一郎), 清原果耶(松下璃子), 藤木直人(PETE)
配給: 東宝
公開: 2021年6月25日 上映時間:125分

「夏への扉」と言っても竹宮惠子の漫画ではなく、ロバート・A・ハインラインの小説の方です。中学高校の頃はSF小説をよく読みましたが、その中でも「夏への扉」は私の好きなSF小説ベスト5に入ります(他は、ジョン・ウィンダムの「さなぎ」、フレドリック・ブラウンの「発狂した宇宙」、ジャック・フィニィの「盗まれた町」など)。発表されたのは1957年。この時代はSF小説の成長期で、多くの基本設定がこの頃に考えられました。SF小説というのは、未来を描くということが主眼ですが、現代では多くのことが実現してしまいました。今の作家は更にその先を行くものをなかなか提示できていないように思えます。

最近、映画・ドラマ・アニメでやたらと登場するタイムトラベルものの走りです。1895年に発表されたH.G.ウェルズの「タイムマシン」、広瀬正の「マイナスゼロ」(「夏への扉」がお好きな方にはお勧めします)、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などは物理的時間移動の話で、基本的には当人がタイムマシンに乗って時間旅行をするというものでした。それに対して精神的時間移動というジャンルがあります。最初に話題になったのは1987年に発表されたケン・グリムウッドによる「リプレイ」だと私は思います。1999年に堂本剛主演のドラマ「君といた未来のために 〜I'll be back〜」の頃から映画やドラマでもこちらの設定が増えてきました。因みにそのドラマを見て、「リプレイ」のもろパクリだと思っていたら、事後許諾を得ていました。精神的時間移動には、最近のドラマでは「ブラッシュアップライフ」などが含まれます。近頃はこちらが主流を占め、沢山ありすぎて新鮮味ありません。昔の時間旅行ものではタイムパラドックス(例:過去に戻って親を殺したら自分はどうなるか?という問い)がよく登場し、その点が話のポイントのひとつでしたが、精神的時間移動の場合、人生をやり直すといったものが多いので、矛盾が生じにくく、様々なバリエーションが可能です。

ハインラインは「夏への扉」の他に「輪廻の蛇」(映画化名「プリデスティネーション))「時の門」という同ジャンルの作品を書いており、これらも複雑な時間軸の構成が見事で、タイムパラドックスもうまくまとめています。「夏への扉」のストーリーを書くと長くなるので、知りたい方はWikipediaでも見て下さい。特撮シーンが殆ど必要無いので直ぐにでも映画化されると思っていたら、60年以上たってやっとです。今までされなかったのは、この小説がアメリカでは日本ほど人気が無いことが理由でしょうか?又は、逆に地味すぎたからかもしれません。映画は予告編を見て地雷臭しかしませんでしたが、危惧したよりは良く、原作ファンとしてはギリギリ許せる範囲でした。ただ、無理矢理2時間に納めたので後半、話に唐突なところがあり、主役の2人、宗一郎と璃子の関係などがしっかりと描かれていないので、物語が希薄に感じます。1957年に発表された当時は、最先端の技術なども盛り込まれて先進性があったと思いますが、それを現代に置き換えても、逆に古くささが感じられます。原作が1970年~2000年の時代設定だったのに対し、映画は1995年~2025年になったのは予算の都合上でしょう。夏菜のくど過ぎる演技もいただけません。

77分、ヒューマノイド・ロボットのPETEが会社の受付嬢(こちらもロボット)に向かって、唐突に空の手から紫の花を一輪、プロダクションし、「この後、お時間ありますか?」と聞きます。受付嬢は「そのご用命は受け付けられません」と答えます。日本奇術連盟の「タバコの消失」のようなバック・パームするネタでしょうが、取り出した瞬間、カットが切り替わっています。それよりも前のシーンでPETEは「ガラスの仮面」を読んで学習しており、そこから、花を女性に渡すということを覚えたのでしょう(「ガラスの仮面」で北島マヤが速水真澄から紫のバラを直接受け取るシーンは無かったはずです)。84分、PETEは再び、車椅子の女の子に一輪、プロダクションしますがこの時は左手で出しており、完全に出現するまでカットは切り替わっていません。PETEの成長を示したかったのだと思いますが、そのために無理矢理入れたシーンの感じが否めません。


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因みに、日本ではラジオドラマや舞台化されましたが、私は見ていません。原作を読まれた方には、岡田斗司夫による解説をどうぞ。

花を出す流れで言えば、次回は何か分かりますよね?アニメ「ルパン三世 カリオストロの城」です。

参考文献

栗田研:「映像の魔術 夏への扉」『Four of a Kind Vol.19 No.1』(チェシャ猫商会, 2021) p.640


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