2017年発行のハラパン・オン(Harapan Ong)のレクチャー・ノート、『Wabi-Sabi』の日本語完訳版です。
著者本人が発展途上の作品と表していますが、それは向上心の現れです。新しいや試みや着眼点に創造性を刺激されることでしょう。
ギャフ・カードをダイレクトに使ったものも多いですが、面白い設定やビジュアルな技法など、様々なアイデアに触れることができます。
デュアル・リアリティについての見解も興味深いです。デュアル・リアリティとは、手伝ってもらった観客とそれ以外の観客が異なる現象、異なる感情を体験する状態のことです。この演出の強みを再認識できるはずです。
トリックの解説だけでなく、マジシャン向けのゲームを提案しているところも面白いです。即興性が求められるマジックは、マジシャンにとっても観客にとってもスリリングです。
中・上級者におすすめします。創作のヒントが見つかることでしょう。
侘寂(わびさび)とは日本の仏教思想に由来する概念であり、無常・未完成・不完全の中に美を見出す意識のことを指します。
私はこの冊子に収められている作品に満足していますが、その一方でクリエーターとしての私は、自分の作品に対して完全に満足することは決してありません。私の創作物やアイデアは常に流動的であり、絶えず少しずつ改良されたり変更が加えられたりしています。そのため私が何かを発表するときにはいつも少しの罪悪感を覚えています。それは発表したものがまだ"完璧"ではないこと---私が理想として目指している水準に達していないことーーーを私自身が解っているからに他なりません。
しかし、私はこのような発展途上の作品にも、私的で美しい何かが存在していることに気付くべきでした。なぜならばこうした作品は、その人が自身の作品を通じて成長していく、果てしない旅路の象徴なのですから。
読者であるあなたにも、本書のページに込められている不完全さから何らかの閃きがもたらされることを願っています。
Harapan Ong
2017 年 10月
ハラパン・オン著『The Four Treasures』の日本語完訳版