「自分が本当の魔法使いだったら何をしたいか考えるんだ」15年前の夏、彼は言った。
もう15年も前のことになります。私たちはまだ学生でした。学生街にあるいきつけの喫茶店で私はコーヒー、彼はアップルティーを前にしていつものようにいろいろな話をしていました。もちろん話題の中心にはいつもマジックがありました。そしてその日、たまたまた私は彼にたずねました。「どうやって新しいマジックを考えるんだい」そして彼は言いました。「自分が本当の魔法使いだったら何をしたいか考えるんだ」
彼の名前は、鈴木徹 -すずきとおる-。こんなことを言い出すマジシャンがいままでいたでしょうか。 私はちょっとショックをうけました。クリエーターは、ひとそれぞれ独自の創作法を持っているものですが、わたしにとってはそんな方法は思いもつかないものでした。鈴木氏が演じた「薔薇の花びらを握ると本物の金魚になって泳ぎ出す」、「毛糸玉の中の赤頭巾ちゃん人形のポケットの中から相手がサインしたコインが現れる(しかもクッキーの中から!)」、などの詩情あふれるマジックが生まれて来る秘密は、彼のこの発想法にあったのです。