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マジック界のレジェンドの1人、ロベルト・ジョビー氏による理論解説書。「イン・トランジット・アクション」など、マジックの理論が語られる際に用いられる術語(専門用語)の中から最重要な語を 53 選び出し、それぞれの語について、見開き1ページで解説を行うというのが、本書の主眼。しかも左側のページには、提唱者や参考文献に加え、論理的説明が提示されています。右側のページには、その語に関する実践での活用例などが書かれています。豊富な図や写真は、理解を助けるばかりでなく、パラパラとページを繰るだけでも知的好奇心を刺激します。
最初のページから読み進められれば、現代マジックの理論体系のポイントを全て理解できるようになります。また、辞書のような活用方法も考えられます。本文の他に、本文で解説した理論の総括として、コイン・スルー・ザ・テーブルの解説や、用語や書籍リストなど、他では入手できない資料が多く収載されています。日本語版では、注釈を充実させ、どなたがお読みになっても容易に理解できるよう工夫を凝らしました。
成功したマジシャンは、長い時間と努力を積み重ねた結果、いろいろな原理を発見し、身に付けてきました。多くの原理を知っておくと優れたマジックの創造、より良い演技につながります。こんな折、マジック界で当代一の著者であるジョビー氏は、多くの先人達の原理を集め、整理して分かりやすい文章で、この “ シェアリング・シークレッツ ” を書き上げてくれました。強くお勧めです。新たな武器(考え方)を手にして、マジック世界に切り込んでください!
二川 滋夫
著書の冒頭では「理論は何の役に立つのか?」から「理論の危険性」までを3ページで紹介しています。特に理論を過信する若者世代に多い「理論カブレ」を取り上げている面白さがあります。その後は見開きの左ページを理論、それに対応した実践を右ページで簡潔に解説しています。「自然であれ」では、ニューヨークで自然なダブルリフトのやり方が議論になり、一般人のトップカードのめくり方を調査した意外な結果に興味がひかれます。「枠組みの変更」では、一般的でないコーナーを弾く「ピーク」操作の正当化するセリフも参考になります。これら以外にも多数の興味深い記載があります。
この著書はハードカバーの表紙や全体の構成も原著と同様に制作されています。しかし、本のサイズが大きくなり、ページ数も 30 ページも増えています。
最後部の追加情報としての「覚え書き」が、原著では 65 項目4ページであったのが、399 項目 20 ページに増やされているすごさがあります。2011 年発行の「アスカニオのマジック第1巻」の著書をより理解しやすくするために、2021年発行のこの著書を田代茂氏が選ばれました。そして、こだわりを持って翻訳され、あらゆる点で得ることの多い著書です。
石田隆信(フレンチドロップ『石田コラム』著者)