初心者の方にはとても向きません。なにしろ最も簡単な部類のトリックでもパームやマルティプルリフトを平然と行わなくてはいけません。中級者の方なら演じられるものも少なからずあるでしょうが、やはりこの一冊を買うよりは先に知っておくべき鉄板ネタが他にあるでしょう。また、ディングルの作品集であるからには、すべからくマルティプルクライマックスが採用されており、それゆえ準備が必要な手順も多く、即興性は期待できません。
しかし重要なのは、ここまでは全て客からは見えない部分の話であることです。エフェクト・イズ・エブリシングの観点で言えば、ダイレクトでありながら豪華、そして一般人もマジシャンも引っ掛けられる手順がこれだけ載っているというのは素晴らしいことだと思います。加えて、昨今は技巧派というとスライハンドで無理矢理解決している「技法の詰め合わせに過ぎない手順」も多いですが、ディングルの場合は使い所が上手く、グチャグチャした感じはありません。
また、前述のように準備が必要な手順も多い中、ワイルドカードやどこにもあってどこにもないカード、伝説のカードの飛行など即興でできる上に素晴らしくまとまっている現象も幾つかあります。共鳴するカードなどもすぐに演じられるギミックカードが付いているなど、充実の内容です。即興性と難易度に目をつむれば、実に良い本です。