10年の時を経て、『One Degree』がついに続編を得ました。
本書『The Nth Degree』は、ジョン・ガスタフェローが世界中の現場から寄せられた実演フィードバックをもとに、アイデアと演技を一段階深く洗練させた、まさに次元を1つ進めた集大成です。扱われるのは、カードマジックを中心とした26作品と、6本のエッセイ。いずれもちょっとした工夫(ワン・ディグリー)がどれほど演技全体を豊かにするかを体現した構成であり、観客とのやりとりや演者自身の所作にまで目が行き届いた、1つの理想形と言える内容です。
特筆すべきは、ガスタフェローが技巧誇示型ではなく、観客との関係性を育むエンターテイナーとして作品を設計している点です。
一見平易に見えるハンドリングに、構造的な妙と心理的ミスディレクションが織り込まれており、技術を見せない感じさせない高度な構成を研究したい方には特に興味深い内容です。
観客参加型・体験型のプロットも充実しており、クロースアップだけでなく、サロンにも適応可能。さらに随所に挿入されるエッセイでは、なぜ我々はマジックを演じるのか。創造力を最大限活かすにはどうすれば良いか。といった、示唆も得られます。
序文:ジョン・バノン
ジョン・バノンがジョン・ガスタフェローの素晴らしさを語ります。
エヌス・ディグリーについて
水を沸騰させようとしているときのように、わずか1度(ワン・ディグリー)の、ほんの少しの転換がマジックに奇跡をもたらす。
エヌス・ディグリーとはこのワン・ディグリーという戦略が機能した究極の結果のことです。エヌス・ディグリーの達成とは最高度のレベルに到達することを意味します。
Chapter 1 — 想像してみよう
1. Invisible Opener
ポーカー・チップ、デック、輪ゴムが、どこからともなく現れます。
ウルトラ・メンタル・デック(インビジブル・デック)に繋がる演出が秀逸です。
マイケル・ヴィンセントも愛用。
2. Perception Plus
5枚のブランク・カードを取り出します。1枚目のカードに『jacks』という文字が現れると、他の4枚のカードがJに変わります。
メッセージ・カードの文字が今度は『Aces』になり、他の4枚はAに変わります。最後には全部ブランク・カードに戻ります。
3. Blank Slate
真っ白のデックに1枚のジョーカーが印刷され、別のカードが印刷され、さらにはデック全体が印刷された状態になります。
完全に普通のデックとして使えます。
Essay:あなたのマントラは何ですか?
集中力を高め、リラックスし、最高の演技をする準備が出来るよう、演技前に舞台裏で意識する項目を作っていますか?
作ればどうでしょうか? という提案です。
Chapter 2 — エースの導入
4. Freestyle Aces
ハンズオフのAエースプロダクション。2人の参加者がデックをシャッフルし、4つのパケットにカットし、そして4枚のAを取り出します。
5. Self-Checkout
1人の参加者が異なる方法でデックを4つの山に分けると、そこから4枚のAが現れます。マジシャンはカードに触れません。
6. Royal Transpo
出て来た赤のA2枚に黒のポーカーチップで触れると、黒のA2枚に変わります。この黒のA2枚が観客の手の下でロイヤルフラッシュに変化します。
7. Tipping Point
1本の指だけで1枚ずつ4枚のAをデックの中央から突き出してみせます。
Essay:自分の目的を探す
自分の人生の究極的な目標を見つけるエクササイズの紹介。
Chapter 3 — 目を引くもの
8. Stranger Sandwich
サインしてもらったカードが見えなくなり、そのあと2枚のジョーカーのあいだに鮮やかに実体化します。
ラストにサイン・カードの裏面が変わります。
9. Double Vision
2 枚のカードが入れ替わったあと、デックに不気味な現象が起こります。デックの縁を3 回撫でると、デックがゆっくりと消えていきます。まず中部分がまるごと消え、次にボトム・カードが、そしてトップ・カードが。デックは完全に消えてしまいます。マジシャンはうしろのポケットからデックを取り出してきます。
10. Bermuda
選ばれた3枚のカードが、真ん中に三角形の空きスペースができるようにテーブルに置かれます。三角形を覆って動かすと、不思議な渦巻きが現れます。3 枚のカードをひっくり返すと図柄が真っ白になっています!
11. GPS
裏の色が異なる『コンパス』・カードを使い、サインカードを見つけ出します。そ
の目標物は誰も想像できないほど近くにあるのです。
Essay:ワン・ディグリーを詳細に分析する
ワン・ディグリーの変更の効果や、今後新たに生み出す改善の効果を評価するのに役立つ10の指標
Chapter 4 — 四之譜
12. The Other Mates
参加者が自由に1 枚のカードをポケットに入れます。まず、マジシャンがそのカードを言い当てます。次に、参加者がフォー・オブ・ア・カインドの残りの3 枚を見つけ出します。
13. Assembly Line
4 人の観客がそれぞれデックの4 分の1 ずつを持ち、それぞれの真ん中にJを埋めてしまいます。しかし4 枚のJ はすべて1 つのパケットの上に集合するのです。
14. Hide & Seek
J とA がかくれんぼ(hide and seek)をします。A を脇に置いて10 数えるあいだに、数人の参加者が、J が隠れるのを手伝います。A が探し始めると、不思議なことに4 枚のJ に変わります。そしてA はというとJ が隠れていた場所にいるのです。
15. Tailspin Twist
4 枚のJ が1 枚ずつひっくり返ったあと、すべてが裏になってしまい、真っ白に変わり、さらには4 枚のA へと変化します。
Essay:創造性の鍵となるもの
Chapter 5 — デックを手渡して
16. Changemaker
参加者がカードを1 枚憶えてデックをシャッフルしたあと、マジシャンはカードを1 枚だけ手の下に置きます。ワン・ツー・スリー、驚愕の瞬間!マジシャンはカードを言い当て、続いてカードが消失し、そして参加者の手の中から再び出現するのです。
17. Hybrid Triumph
カードが1 枚選ばれ、デックの中に戻されたあと、数人の観客に手伝ってもらってカードを表向きと裏向きでシャッフルします。そしていかなるスライト・オブ・ハンドも使わずに、カードの向きが揃います。選ばれたカード1 枚を除いて。
18. Biddleless Redux
参加者が5 枚の中から1 枚を思い浮かべるだけで、そのカードは消え、デックの中央にひっくり返った状態で現れます。
19. Reign of Tearer
観客たちがそれぞれ3 枚のカードを持った状態で始まります。彼らはカードを破き、配り、混ぜ、取り除き、最終的に1 片を残します。それぞれが異なった選択をしましたが、そうして手元に残った1 片が、最初に脇に置いていた1 片と完全に一致するのです。どんでん返しとして、これまでに取り除かれていた紙片さえも、それぞれ一致するペアになっています。
Essay:四箇条
Chapter 6 — ミステリーたち
20. Spectral
自由に選ばれたカードが消失し、そしてもっともミステリアスなかたちで再出現します。
21. Whisper Mental
4 枚のカードが選ばれたあと、マジシャンは4 人の参加者の頭の中のささやきを聞いてその心を読みます。そしてそれぞれのカードを不思議なやり方で見つけ出します。
22. Blackjack Fever
参加者は52 までの数から1 つ思い浮かべ、それに基づいて2 つの山を作ります。それぞれの山の一番上のカードがブラックジャックになります。マジシャンによる予言も完全に一致します。
23. Book of Clues
デックの中の手がかりをもとに、観客たちが未知のカードの正体を突き止めます。そして優れたミステリーが概してそうであるように、最後にどんでん返しがあります。
Essay:自分のやり方から離れる
Chapter 7 — Extra!
24. Crystal Clear
A の位置が入れ替わったあと、デックが硬くて透明なブロックに変化してしまいます。
25. Mystery Wand
サインした1 枚のカードを4 枚のA の中に入れます。マジシャンは別デザインのカード1 枚と、リップ・クリームのキャップ2 個を使って即席のワンド杖を作ります。参加者がA の上でワンドを振ると、選んだカードが消えます。ワンドを開くと、そのカードがサイン・カードになっているのです。
26. Sublime In All
マジシャンと参加者が、選ばれたカードを見ることなく探し出すことに成功した後、すべての判断がサブリミナル広告の影響を受けていたことが明らかになります。その証拠に、選ばれたカードを除く全部のカードの裏には「Don't Pick Me」(私を引かないで)と書かれているのです。
エピローグ
訳者あとがき